地下の部屋を出てから久しぶりに太陽を見た。
夕方だけど、とても眩しく感じる。
その光がとても気持ちよくて、地上で暮らす方が自分に向いていると思った。
周囲を見渡すと、真っ白な世界が広がっていて、雪の結晶がキラキラと輝いて見える。
「スノーアッシュの雪景色って綺麗ですね」
「王都では灰のような雪が降る時もある」
「文明が発達しているからですか……。
ずっと雪が降ってると聞きましたけど、今は晴れてますよね?」
「他国に近いと降らない日もある。
雪がないおかげで木や草が生えて、動物たちも住みやすそうだったな」
きっと、シエルさんが追放されてから住んでいた小さな村のことだろう。
それだけでも話してもらえて嬉しかった。
途中から馬車で移動して国境まで向かい、休憩しながら長い道のりを歩く。
紅の地に着いたのは、次の日の朝。
湖があるところに行くと、レトとセツナの姿が見えて喜びで胸がいっぱいになる。
「ただいまー!」
大きな声を出してから手を上げて振る。
すると、レトとセツナが気づいてくれて、笑みを浮かべながら私のところに走ってきた。
きっと、帰ってくることを信じて待っていてくれたんだろう。
なんだか実家に帰って来た気分だ。
「かけら……。本当に帰って来たんだ……」
「やっと帰ってきたんだな。
……って、スノーアッシュの奴も一緒なのかよ」
シエルさんは遠慮しているように少し離れたところに立っていた。
レトとセツナは険しい表情をして、背負っていた武器を構えて刃を向ける。
ふたりにとって敵だから、歓迎されないのは当たり前だ。
でも、私は地下の部屋を出たあとに約束した。
それを守るためにシエルさんの前に立ち、両手を広げる。
「どうしたんだ、かけら。退いてくれ。
そいつが何をやったのか分かってるだろ?」
「勝手に他国に立ち入ったこと、話を聞いていたこと、私を連れて行ったこと……。
許せないことだらけっていうのは分かってる。
でも今は私について来ているだけだから。……信じて」
「そう言われてもな……。
何をするか分からない敵国の奴を自国に入れるわけにはいかないだろ。
こっちは国を背負っているからな」
どうやって説得したらいいんだろう……。
地下の部屋を出たあと、「紅の地に戻ってからも同行させて欲しい」っとシエルさんに頼まれた。
レトとセツナに信じてもらえないと、その約束が守れなくなる。
でもふたりが納得できない気持ちも分かる。
急に私が敵と仲良くなって、帰ってきたのだからすぐに受け入れられないだろう。
何か、いい考えがないだろうか……――
「レト、あいつをここから追い出すぞ」
「そうだね。今度こそかけらのことを助けよう」
「ふたりとも待って……!」
攻撃されようとしているのに、シエルさんは怯えることなく冷静な表情をして立っていた。
今回はスノーアッシュの仲間を連れて来なかったから、前のように銃で威圧することができない。
このままではトオルの大切な人が傷ついてしまう。
なんとしてでも止めないと――――
「今すぐやめないと、私が代わりに戦う……!」
「かけら……!? 嘘だろ……」
ここで争いが起こったら、スノーアッシュでしてきたことが台無しだ。
どちらかが傷つくような争いが起こって欲しくない。
そう思っていても、これでいいのか分からなくて怖い。
目を閉じて耐えることしかできないけど、どちらも守れるなら……――
「……レト王子、セツナ王子。渡したいものがある」
シエルさんが私の前に来て、リュックから革製の筒を取り出した。
それを両手で持ち、レトとセツナに差し出す。
「なんだこれは……?」
「大切なものだ。
俺は、これを渡すために来た」
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