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《さっきから生きてるモンスターが全然カメラに映らないんだけど》
《遠距離から一方的に倒してるからな》
《モンスターの死骸しか映らない配信って》
《パッと見ただ散歩》
《やってることは神業なんだよなぁ》
《今さらだけど、どこのダンジョン?》
《掲示板によると渋谷らしい》
《渋谷って砂漠じゃね?》
《二層からは洞窟らしいぞ。ただ、一層がくそ広いから、二層に続く道が全然見つからん》
「ナディ、そろそろ辛くない?」
『平気よ。けど、なんだか思ってたのと違うわ』
配信に来たコメントの反応を見たり、会話をしたり、もっと楽しいものを想像していたナディ。しかし、実際はスマホで撮影しているだけで、やってることはいつも通り。
「コメント欄消しちゃって見れないからね」
コメント欄さえあれば、ナディも少しは配信っぽい事が出来ただろうにと思い、輝夜は申し訳無さそうに言う。
《コメントに反応ないなと思ったら》
《初の配信だから仕方ない》
《エミちゃんの配信に映ってたフェアリーがカメラもって飛んでるのか》
《ドローン代わりってことか》
「とまあ雑談はこの辺にして、ボス部屋だ」
輝夜の目の前には銃口な鉄の扉。
十層目。中層に区分される中で最後に当たる階層になり、ここを突破すれば下層へ足を踏み入れる事になる。
〈もしかして今からボス?〉
〈ゴブリンリーダーと戦ってる切り抜きを見たが、彼女は一体何者なんだ?〉
《海外勢も見てるのか》
《今同接三十万人だし、そりゃ見てるか》
《タイトルも概要欄もサムネイルもない配信で100万人って凄いな……》
輝夜は扉を押し開いて中へと入る。扉の先はかなり広々とした空間になっており、これまでの洞窟のような、ゴツゴツとした岩肌ではなく、綺麗にカットされた石材がレンガのようにつまれた壁で覆われており、火の灯っていない松明が等間隔に設置されている。
輝夜は綺麗に敷き詰められた石畳の上をゆっくりと進んで行く。
中央まで来たあたりで、壁に備え付けられた松明に火が灯る。
炎に照らされて、奥に佇むボスの姿が露になる。
真っ青な顔。飛び出た二本の牙。血のように赤いマント。黒い服装。右手には黒と赤の入り交じったような剣が握られている。
見た目から呼ぶのであれば、ヴァンパイアがもっとも相応しいだろう。
〈まずい、あれはヴァンパイアだ!〉
〈まさか吸血鬼に所縁のない日本にも居たとは〉
〈ソロじゃ絶対に勝てないから逃げるんだ! プロのハンターチームがそいつ一体に壊滅させられたんだ〉
ヴァンパイアは、圧倒的存在感を放ちながらもじっと動かない。
《海外勢が騒いでるけど、どうしたん?》
《ヴァンパイアとかいう、くそ強いボスらしい。プロチームでも勝てないレベルの》
《海外勢のプロで無理って、日本で相手できるの、数えるくらいしか居ないじゃん》
《流石に撤退するよな?》
《いや、戦うみたいだぞ》
〈よせ! やめるんだ!〉
輝夜はナイフを抜くと、地面を強く蹴って一気にヴァンパイアの懐まで潜り込み、握りしめたナイフで斬りかかる。
しかし、その一撃をヴァンパイアはあっさりと手で受け止める。
(流石に素じゃ無理か)
自分から攻撃したにも関わらず、押されているのは輝夜の方。
力比べでは分が悪いと思った輝夜は、すばやく身を引き、ナイフを横に一振りする。
ヴァンパイアはそれを上半身を反らすことで回避し、逆にその反動を利用し反撃する。
輝夜はしゃがんで避けると同時に、膝のバネを存分に使って後ろへと跳び、ヴァンパイアとの間合いを十分に取る。
ナイフを手前に構えて、片足を半歩引いて受けの姿勢を保つ。
何も仕掛けてこない輝夜に痺れを切らしたのか、ヴァンパイアは輝夜に接近し、剣を振るう。
「ブースト」
輝夜はスキルを発動して身体能力を底上げする。
ヴァンパイアの剣をナイフで受け流し、後ろに大きく跳んで距離を取り、続く攻撃に備える。
ヴァンパイアは息つく暇を与えず、距離を詰めるともう一撃、さらにもう一撃と攻撃を繰り出す。
三撃目までをナイフで防ぐも、四撃目でナイフが砕け、ヴァンパイアの剣が輝夜の肩を浅く切り裂く。体勢が崩れ、輝夜の上体が大きくのけぞる。
《あっ》
《何気に攻撃喰らうとこ初めて見た》
《斬られたのに眉一つ動かさないのか……》
好機とばかりに振り上げたレッサーヴァンパイアの刃が輝夜を捉える。
輝夜は仰け反りながらも、ホルスターから拳銃を抜き、レッサーヴァンパイアの剣を撃って軌道を反らし、続く二発目でヴァンパイアの左胸を撃ち抜く。
《やった!》
《もう流石としか言いようがない》
〈いや、それじゃダメだ〉
ヴァンパイアはその程度では全く動じる事なく、輝夜に左手の平を向ける。
嫌な予感がし、すぐさまその場を飛び退く輝夜。直後、ヴァンパイアの左手から高度に圧縮された血が高速で放出され、輝夜が居た場所の石畳を砕きその下に小さなクレーターを作り出す。
〈ヴァンパイアは血を操る。そして不死身だ。杭で心臓を刺すか、銀の武器で倒さない限り絶対に倒れない〉
「ナディ、アイテムボックス」
輝夜はアイテムボックスの中から予備のナイフと、小さな木箱取り出す。木箱の蓋を開けると中に入っているのは三発の弾丸。それもただの弾ではなく弾頭が純銀で作られた特別製の弾丸である。
輝夜は拳銃の弾を全て抜いて、三発の銀の弾丸を装填する。
「一発で二万円もするからね」
ヴァンパイアの放つレーザービームのような鋭い血を姿勢を低くして回避する。
「ブーストスクエア」
ブーストで効果を上げたブーストで身体能力を上げ、石畳が割れるほどの力で地面を強く蹴る。銃から打ち出される弾丸のような速度で一気に距離を詰めた輝夜は、ヴァンパイアの顔を掴んで地面に押し倒す。
「一発で決めさせて貰うよ」
銃口をヴァンパイアの左胸にあてがい、引き金を引く。火薬の炸裂音と共に銃口から放たれた弾丸は、ヴァンパイアの心臓を撃ち抜く。
苦しそうにもがくヴァンパイアだったが、やがて力で尽きたように四肢を投げ出したまま動かなくなる。
「ふぅ、疲れた」
《何今の?》
《なんか凄い勢いで発射されたかと思ったら、終わってた》
《同接も一気に跳ね上がってるんだけど、なにこれ》
《ヴァンパイアをソロで倒したの、なんか海外のライバーが自分の配信で取り上げてて騒ぎになってるみたい》
〈彼女が噂の【銀の弾丸シルバーブレット】か? 銀みたいに綺麗な髪だね〉
〈彼女はどこに所属しているプロなんだ?〉
〈コンタクトをとりたいんだが、どうすれば良い?〉
《怒涛の勢いの海外コメントで草》
《その質問は俺らも知りたい》
『お疲れ、どうする? まだ進む?』
ナディは輝夜に回復魔法を使い、傷を癒しながらそう尋ねる。
「んー……」
ナディの言葉に輝夜はどうしようかと考える。ブーストでブーストを強化する技、ブーストスクエアは効果は絶大だが魔力の消耗が激しく、またアイテムボックスを二度使ったことで輝夜の魔力は三割程しか残ってない。
ミスリルとナイフ、ヴァンパイアの持っていた剣で十分すぎる程の収益得られているため、これ以上の無理をする必要は特にない。
「今日は帰ろっか、秋葉のダンジョンに行くつもりで来たからね。マナポーションはあるけど、あまり使いたくないし」
魔力を回復させるマナポーション。一本十万円とかなり高価であるため、あまり気軽に使えるような代物ではない。
《ここで引き上げか》
《ソロで中層突破はイカれてる》
《ヴァンパイア戦もほぼ無傷だしな》
〈彼女は何を言ったんだ?誰か教えてくれないか?〉
《〈今日は引き上げるって〉》
〈流石にソロで下層は自殺行為だからね。引き際をわかってる辺りは流石だ〉
《いや、マナポーション使えば下層もソロで行けるって言ってるようにしか聞こえないんだがな……》
《多分行けるんだろうな》
《同接三十万人なのに、ここで終わるのちょっと勿体ない気もするけど、やっぱ安全第一よな》
輝夜がヴァンパイアの持っていた剣を拾い、家に帰ろうとした時、ナディの持っているスマホから救助の要請を知らせる通知音が鳴る。