杏時(あんじ)、芽流(める)、汝実(なみ)、希誦(きしょう)は4人揃って“おでけけ”の最中。
「Dressing the heart」という高級ブランド店に入って
「可愛いぃ〜」
「デザインスゴッ」
と言って値札を見て、その値段の高さに
「失礼しましたぁ〜」
とお店を出たり、希誦(きしょう)の好きだと言うプチプライスのお店「Junk Junkie Junkests」に行って
おもしろいデザインのTシャツを試着してみて
「おぉ〜。しょうちゃんが着るとハイブランドに見えるのはなぜだろう」
「たしかに」
「うんうん」
と頷き、全員でお揃いのTシャツを買ったり、ステージ1に行ってビリヤードをプレイしたりした。
「しょうちゃんが好きなJunk Junkie Junkestsいいね。Tシャツのデザインがいいし、なにより安い!」
「通称3J。5Gくらいコスパがいいっていわれてる。
でもタイパはめっちゃ悪いけどね。時間めっちゃ食うから」
「3Jで5G!うまいねぇ〜。私はタイパはあんま考えんから」
「んで、まさかの芽流(める)がビリヤードうまいっていうね」
「うまくはないよ」
「私らの中ではずば抜けてたけどね」
「それ」
「まあ。うちお姉ちゃんがいてさ。お姉ちゃんギャルで、3個上なんだけど
お姉ちゃんが大学生の頃、たぶん飲みとかでビリヤード行くんだろうね。
で、うまくなりたいから付き合えって言われて付き合わされてたからかな」
「あぁ〜。上がいるとそうなるね。私長女だからなぁ〜」
「あ、そっか。しょうちゃん下にいるって言ってたもんね。しかも何人も。弟2人に妹1人だっけ?」
「正解。よく覚えてたね」
「んふぅ〜。勘」
「勘かよ」
「いや、なんとなく2、1ってのは覚えてたから、あとは勘で当てはめた」
クレーンゲームコーナーを景品を眺めながら歩き回る4人。
「これは今、どこに向かってる感じ?」
希誦(きしょう)が誰に聞くでもなく、満遍なく全員に聞く。
「わかんない」
「わかんない」
杏時(あんじ)、芽流(める)、希誦(きしょう)が汝実(なみ)を見る。
汝実(なみ)はしばらく気づかず、クレーンゲームの景品を見ていた。ふっと振り返り
「あぁ。私の番か」
と自分を指指して言った。3人は頷く。
「あぁ〜…今そうね。ただただ歩いてた。プライズ見ながら。
あ!プリパニ(プリントカンパニーの略称)撮らない?せっかくだし」
「なんのせっかくかはわからんけど」
「えぇ〜?出会いとぉ〜初お泊まり記念?」
「マインドがギャルすぎる」
「褒めんなしー」
ということでクレーンゲームコーナーの奥にあるプリントカンパニーへ4人で向かった。
一方その頃、流来(るうら)と明空拝(みくば)は
「キーン!」
「ホームラーン!」
「くっ」
大騒乱スパイクファミリーズをプレイしていた。
「ワーピィWin!!」
「イエーイ!オレの勝ちぃ〜!」
可愛い顔をこれでもかというほどウザい顔にする明空拝。
「ウッザ。勝利数はほぼ互角なのによくそんな顔できるな」
「まあ?プロコン使って?互角なら?オレのほうが?実力あるってわけだし?」
「腹立つわぁ〜」
「どうする?今日泊まってく?」
まだ16時、午後4時過ぎ。空も明るい。
「まだ5時だけど?」
「いや、泊まるなら着替えとかさ。ま、抵抗なければ貸すけど」
「そっか。着替えか。…じゃ、取りに帰るわ」
「お。お泊まり決定ですか。いいですねぇ〜」
「んじゃ。一旦帰るわ」
「おけー。あ、駅までの道わかる?」
「大丈夫。方向感覚はあるほうだから」
そう言って流来(るうら)は明空拝(みくば)の家をあとにした。音楽を聴きながら駅までの道を歩いた。
少し道には迷ったが、目印となる建物を多少覚えていたので、駅まで戻ることができた。
電車に乗り、家へ戻って着替えなどを詰め込む。
「いやぁ〜いいね。しょうちゃんの変顔」
「鬼恥ずいんだけど」
「芽流ちんと杏時(あんじ)のの変顔もカワユイよぉ〜?」
「恥ずかしい」
「ま、プリパニ(プリントカンパニーの略称)ってだいたい変顔の件(くだり)あるよね」
「あ、アプリないわ。誰かある?」
「こん中で一番アプリ取ってそうな汝実(なみ)が取ってないんか」
「あぁ〜。面目ない」
「私あるからいいけど。高校生のときのやつだけど、対応してんのか?」
対応していた。スマホにデータとして撮ったプリントカンパニーを送った。
「高校生のときって去年じゃん〜」
「あ、そっか。んならグループに送っときまーす」
「お願いしま〜す」
「ありがと」
「ありがとう」
「いえいえ」
「あ。そうだ。クレーンゲームやってっていい?」
「ん?いいけど」
汝実(なみ)がルンルンでとあるクレーンゲームの台の前に行った。
「なにこれ」
「んー?「激痛!ピアスくん!」「激痛!ピアスちゃん!」って作品のちびキャラぬいぐるみ」
「あぁ。知ってるわ。見てるこれ」
「マジで!?」
汝実(なみ)のテンションが異常に上がり、目を輝かせた。
「おぉ。いつも以上のテンション」
「しょうちゃん誰推し!?」
「誰推し?いや。特にないけど。単純にピアスの知識として見てるだけだし」
「あぁ〜ん。そうなんだぁ〜」
「いや、逆に汝実が見てるほうが意外だったわ」
うんうんと頷く杏時(あんじ)と芽流(める)。
「え、えっ。そうかなぁ〜?」
「いや、ゴリゴリの1軍って感じじゃん」
うんうんと頷く杏時と芽流。
「そんな汝実がアニメ見んだなぁ〜って」
「そ、そりゃー1軍でもアニメくらい見ますよ」
「まあそうかもだけど、これ深夜にやってる15分アニメだよ?結構マニアックだと私は思うけど」
「あ…」
少し沈黙が訪れる。クレーンゲームの音、賑わう人々の会話や足音が鮮明に聞こえる。
「そうそう!私もピアス開けてるからさ?なんというか、そう!私も知識として見てるわけよ」
「あぁ。そうなんだ」
「1回!いや、1つゲットするのに付き合ってくれん?」
「まあ、全然いいけど」
「いいよ。楽しそう」
うんうんと頷く芽流(める)。100円を入れてゲームスタート。
「私はこのスーツ姿の千田(せんだ)先生が欲しい…」
「そうそう。千田先生。センタータン(舌ピアス)にピアスしてるね」
「そうそう」
汝実(なみ)はまずは正面から右に動かし、位置を決める。そして台の側面に回り込んで奥行きを決める。
「ここっ」
ボタンから手を離す。クレーンがゆっくりとぬいぐるみを掴む。
「来た!」
デフォルメ、ちびキャラのぬいぐるみはだいたいが2頭身。
頭が重く、ほんの少し持ち上がったぬいぐるみは頭のほうからこてんと後ろに倒れた。
クレーンが虚空を掴み、元の位置に戻ってきて、クレーンを開いて景品受け取り口に虚空を落とした。
「ノー!」
「トライアゲイン」
「だね」
ということで汝実はもう100円を入れてゲームをスタートさせた。
しかし今回もまた空振り。また100円を入れる。また空振り。それを数度繰り返した。
「待って。財布が死ぬ。1回みんなやってみて?お金は私が出すから」
「おーけー」
まずは希誦(きしょう)から。汝実(なみ)が500円を入れる。
ボタンを押し、右に移動させ、台の側面に回り込んで奥行きを決め、ボタンから手を離す。
「お!さすがしょうちゃん!」
クレーンはぬいぐるみに向かって落ちる。
頭を掴む。頭がクルンと回ってクレーンからこぼれ落ちた。
なんなら汝実が時間とお金をかけて徐々に景品受け取り口に近づけていたものの
クレーンからこぼれ落ち、コロンと転がり、ほぼ元の位置に戻した。
「あぁ〜…」
「私の「さすが」返して?」
今度は芽流。芽流も希誦とほぼ同じ。多少景品受け取り口に近づいたので希誦よりはマシ。
「ごめーん」
「いいのいいの。元の位置に戻した人よりマシよ」
今度は杏時(あんじ)の番。ボタンを押し、右に移動させる。
ボタンから手を離し、台の側面に回り込み、奥行きのボタンを押す。
「ここっ」
ボタンから手を離す。ここまでは汝実(なみ)、希誦(きしょう)、芽流(める)と同じ。
クレーンがぬいぐるみに向かって下がる。ぬいぐるみの首元を優しく包み、ぬいぐるみが持ち上がる。
「おぉ!」
「スゲェ」
「おぉ」
「行けっ」
しかし途中で落ちた。
「よし!君に決めた!」
ポシェットモンスターの決め台詞のように言う汝実。
「杏時に決めた!取ってくれ!」
と任された杏時。
「え。私?」
と言ったものの、手応えがあり、少し自信もあったので引き続きプレイした。
500円で6プレイ。希誦、芽流、杏時が1回ずつプレイしたので残り3回。
その3回も惜しいところまではいったが景品ゲットとはならなかった。
杏時も悔しく、自分も100円を入れてプレイした。同じようにボタンを押して右に移動させ
台の側面に回り込んで奥行きを決めボタンから手を離す。
「頼むっ」
「お願いします」
クレーンが下がり、ぬいぐるみを抱え上げる。ぬいぐるみを抱えたクレーンが上がる。
上がり切ったときが落ちる1つのポイント。そこは潜り抜けた。
そして次に景品受け取り口に移動するとき。慣性の法則でカクンとなり、景品が落ちることがある。
いい感じの杏時もそこで何度も落とされた。
「お願い」
クレーンが移動する。慣性の法則でカクンとなったが、ぬいぐるみは落ちずにクレーンに抱えられたまま。
「キタキタキタキタ」
「お願いお願い」
クレーンは景品受け取り口の真上に来てクレーンを開いた。ボトン。ぬいぐるみが落ちてきた。
「キタァーー!」
「よっし」
「杏時スゴッ」
「スゴーイ!」
杏時に汝実(なみ)、芽流、希誦(きしょう)から拍手が送られる。
「あ、ありがとうございます」
杏時がしゃがんで景品受け取り口からぬいぐるみを取り出し
「はい」
と汝実に差し出す。
「え。いいの?だって最後の100円杏時が」
「いいのいいの。汝実が欲しかったやつでしょ?私が欲しかったわけじゃないから。どうぞ」
汝実(なみ)がぬいぐるみを受け取る。
「ありがと」
ぬいぐるみを見てから杏時を見る。
「あぁ〜ん!」
杏時に抱きつく汝実。
「杏時カッコいい〜。しかも可愛いぃ〜。付き合ってほしいわ」
軽い冗談をかまし
「あぁ〜千田先生ぇ〜」
とぬいぐるみを見つめた。気づけばもうすぐ18時、午後6時。
「夜ご飯どーするー?」
という時間になっていた。
「二十歳越えてたら居酒屋ーとか言えたんだろうけどねぇ〜」
「あぁ。たしかに」
「誰もバイトもしてないし」
「うんうん」
「みんな何の気分?」
「んー」
「和食ー?洋食ー?」
「私は洋食ー」
と恐る恐る芽流が手を挙げる。
「お。いいね。じゃ、芽流ちんの意見を通そう」
「え。でもみんな」
「私はなんでもいいし」
「私も」
「僕もそうだよ」
汝実(なみ)がぬいぐるみのキャラっぽく喋る。
「芽流は洋食何の気分?中華とかイタリアンとか」
「パスタが食べたい…かな」
「じゃ、パスタ置いてある安めのとこを」
希誦(きしょう)がミニショルダーバッグからスマホを出し
「Hoogle(ホーグル)先生に教えてもらおう」
と「パスタ 大吉祥寺 安め」と入れて検索した。各々、各々のスマホで検索すればいいものを
希誦のスマホを覗くため4人で身を寄せ合って1つの小さな画面を見つめ、4人で
「あ、ここは?」
「あ、ここ良さげ」
「ここゆっくりできそう」
などと話し合い、お店を決め、そこへ向かった。
ピンポーン。エントランスで「202」を押し、インターフォンを押していた。ブツンッ。
「おー。おかえりー」
明空拝(みくば)の声。エントランスのガラス製の自動ドアが開く。
「た、ただいま?」
階段を上って202号室へ行き、もう一度インターフォンを押す。ブツンッ。
「開いてるよー」
ドアノブに手をかけ、ドアノブを下ろしドアを引き開ける。
「お邪魔しまーす」
「おかえりー。って迎えておいてなんなんだけどさ。夜どうする?」
「あぁ〜…。どうしようか」
「うちシリアルとか野菜類…あとカップ麺くらいしかないけど」
「外食べ行く?」
「お。いいよぉ〜。どこ行く?」
とりあえず荷物を部屋に置いた流来(るうら)。
「ファミレスとか?」
「全然いいよ」
「ワック行ってテイクアウトで家で食べるっていう案もある」
「それいいね」
「じゃ、そうしますか」
ということで2人でワク・デイジーへ行き、それぞれ食べたいものを注文してテイクアウトした。
2人は明空拝(みくば)の家でバラエティ番組を見ながら
ハンバーガーを食べ、飲み物を飲み、フライドポテトやナゲットをつまんだ。
「お風呂どうする?流来先入る?」
「あ、オレはいいや。ありがと」
「あ、そ?じゃ、お風呂行ってきまーす」
「ういー。いってらー」
明空拝がお風呂へと向かった。流来はフライドポテトをつまみながら部屋の中を見回した。
どうしても小さな鏡の横のポーチが気になってしまう。
しかし、ただでさえ人の部屋を見回すのもいかがなものかと思っている流来。
人のポーチを覗くなんてもっての外である。
「聞く?本人に?」
悩んだ。
「聞くかー。聞くか?」
悩み続けた。
「ふぅ〜。美味しかったねぇ〜」
「美味しかった」
「リーズナブルだしね」
「じゃー帰りましょうか!芽流の家へ」
ということで電車に乗り、芽流の家の最寄り駅まで向かった。電車の中で吊り革やポールに掴まりながら
「お風呂どうする?」
という話になった。
「どうする?とは?」
「家狭いしさ」
「あぁ〜」
「じゃあさ」
と案を出したのは杏時(あんじ)。
「私の家の最寄り駅の近くに温泉あるんだけど、そこみんなで行く?…あ、いくらかな」
と杏時がスマホを取り出し、スマホでHoogleを開き「素晴らしの湯 料金」と入れて調べた。
「あぁ〜…1300円もするわ。でも深夜料金だと1100円」
「いいじゃんいいじゃん。みんなで行こうよ温泉!…ん?待って。駅の近くに温泉ある?
え。…杏時の最寄り駅、華津((はなつ)有名な温泉地)だったりする?」
「なわけあるか」
というツッコミが希誦(きしょう)から出て
結局22時、夜10時以降の深夜料金で「素晴らしの湯」に行くことになった。