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小田原城天守閣はドラゴン襲撃に備えた見張り台、また狙撃場所として利用されている。他にも集落のまとめ役たちが会合したり備蓄の一部もここに置かれている場所だ。ともかく小田原集落にとって天守閣は最も重要な場所の一つだ。
キサラギから派遣されたドラゴンスレイヤーも天守閣で寝泊まりする。
ドラゴンをいち早く発見し、いち早く駆け付けるためである。
「……寝たか」
ドラゴンスレイヤー用の宿泊室に辿り着いた途端、アーシャは寝てしまった。シオンは彼女に毛布を掛けてやり、部屋を出る。
そして氷花たちが待っている部屋に行った。
シオンも疲れているが、彼女のことを報告しないわけにはいかない。
「待たせた」
窓のない小さな部屋には電球が一つだけ灯されており、七人の人物が待っていた。その内の四人はシオンのよく知る三〇八小隊の如月氷花、神無月セリカ、如月ヒムロ、八神ハルである。残る三人も防衛小隊として任務を遂行する二〇三小隊のメンバーであり、シオンも面識があった。
引き戸を閉じたシオンは、空いている場所に正座する。心なしか、全員がシオンから少し離れるようにして体をずらした。これはいつものことなので、シオンもいちいち気にしないが。
まずは氷花が口火を切った。
「それでどういう状況ですか?」
「あいつはRDOが連れてきた実験体だ。富士樹海の実験で邪龍が出現したあと色々あって……彼女と一緒に脱出することになった」
「実験体だって? そんなことは聞いてないけど……詠は知っていますか?」
「……六道の本家でそんな噂が流れていたわ」
二〇三小隊のリーダー、六道詠には心当たりがあった。
人体実験については可能な限り情報が伏せられており、実験に直接かかわった部隊以外はアーシャのことを知らない。しかし噂を止めることはできておらず、特に竜殺一族の本家に近い部分では密かな噂となっていた。
「ゲオルギウス機関は昔から人体実験の噂があるの。それは結構有名な話ね」
「そもそも俺たちドラゴンスレイヤーも人体実験の産物だからな」
「リーダーの私が喋っている。鋼は邪魔しない」
「へいへい」
「まぁ、六道家に限らず、如月家でも人体実験の話は上がっていましたよ。うちは分家ですから薄っすら聞いただけですけど」
「雨流のとこもか」
詠の部下である八神鋼と如月雨流も竜殺の一族だけあって多少の事情は把握している。しかしそれが真実であると知ったのは初めてらしい。
この中で竜殺一族ではないセリカが呆れたように呟く。
「こんな世の中だけど……正気を疑う話ね。あんな女の子を機械のパーツみたいに」
「嫌な話よね」
「セリカ、氷花、話が脱線しているわ」
詠が窘める。
如月家、六道家、七尾家、八神家は国家が開発した竜殺の血筋だ。一族はデミオン耐性に応じてデミオンを取り込み、より強力なドラゴンスレイヤーを生み出すべく実験を繰り返している。当然ながら人体実験の果てに誕生した産物だ。
勿論、まともな感性であれば多少の思うところはある。
「俺も彼女……アーシャをRDOに引き渡したくはありません。でも、俺がキサラギにいない間は実験失敗のことで色々あったんじゃないですか?」
シオンのその問いに対し、氷花は肩を竦め、詠は溜息を吐いた。
予想通り面倒なことになっているということが態度で分かる。
「ですよね」
アーシャという少女に入れ込んでしまっている自覚はある。ただ、彼女をこのまま返したくはないと主張するのは我儘というものだろう。
「明日にでもアーシャを連れてキサラギに向かいます。車は出せますか?」
「新人共に小田原城の警備を任せるのも悪いわね。私たち二〇三小隊が小田原を引き受けるから三〇八で送ってやりな。新人共、それに鋼と雨流もいいね?」
合意も完了し、この場に集った全員が次々と頷く。
詠は最後に告げた。
「集落長の津島さんには私から伝えておく。今日はもう休みましょう。それと如月シオン」
「なんですか?」
「刀が折れていたわね? 新しいのと交換しておいたら? 私たちの倉庫は寝室の隣よ」
「分かりました。そうします」
シオンとしては今すぐにでも眠りたかったが、先に武装を整えておいた方が安全だろう。この小田原にもドラゴンが襲ってこないとは限らないのだ。
可能ならば銃も欲しかったが、そこまで求めるわけにはいかない。
銃は刀以上に貴重な兵器なのだから。
話は終わり、それぞれ休息のため部屋を出た。
◆◆◆
この小田原城天守閣でキサラギに与えられた部屋は主に三つである。そのうちの二つが休息用の部屋で男女別となっている。そしてもう一つが倉庫だ。そこには予備の対竜武装が置かれている。
シオンはジュラルミンケースを開き、刀の一本を手に取った。
そして刃を抜き、その全体を確かめる。
(刃毀れもなし)
続いてデミオンを少しだけ流し込んだ。
(デミオン抵抗も規定未満。問題なし)
簡易的なチェックを終え、シオンは刀を収めた。
それと同時に倉庫の扉が開かれる。振り返ると、そこには詠がいた。
「ちょっといい?」
「どうかしましたか?」
「シオンとは一度話をしてみたかっただけ。諸刃は何も言ってくれないから」
そう言われてシオンは心臓が跳ねる。
しかしいつものことだと割り切ることにした。
「詠さんは六道家でしたね。諸刃とはどんな関係ですか?」
「私は従姉よ」
「そうでしたか。なら有希も……」
「あの子の従姉でもあったわ。あの子が……有希が君に殺されるまでは」
「……はい」
シオンに言い返すことはできない。
これは何度も責められてきたことだ。言い逃れようのない事実であると自分に言い聞かせてきた。
誤魔化すつもりはない。しかし心臓が締め付けられるような感覚と共に、呼吸までも苦しくなる。その苦しみに耐えるため、グッと歯を噛みしめた。
だが詠の思惑は違った。
「勘違いしないで。私は君を責めるつもりはないわ」
「え?」
「開き直ったり、目を逸らそうとしているなら私も怒った。でも、君はちゃんと心に刻みつけている。竜人殺しなんて続けているから、感覚が麻痺しているのかと思っていたけど、そんなこともないみたいね。そもそもあれは事故みたいなものだったし」
「……それは」
詠は無言で近づいてシオンの手に触れようとする。
それをシオンは反射的に避けた。
「君もあの事件以降、人と触れることを極端に嫌っている」
確かに触れられることは好まない。
人に触れられそうになった時、反射的に嫌な記憶が蘇るからだ。
「君を試したり、心の傷を抉ったことは謝罪するわ。でもそろそろ赦されてもいいんじゃないの?」
「俺は赦されるわけにはいきません」
「頑固ね。まぁ、皆から責められてきたわけだし、そう思っても仕方ないか。少なくとも上層部は君という存在に期待している。ちゃんと生存を望まれているよ。孤独にならないで、辛いときは相談しなさい。時間を取らせたわね」
詠は背を向け去っていく。
だが、彼女が倉庫の扉を閉める直前、シオンは呼び止めた。
「あの」
「何?」
「どうして急にそんなことを?」
シオンからすれば当然の疑問である。
”竜人殺し”の称号は成果であると共に蔑称でもある。平然と元仲間を殺すシオンを忌み嫌う者は多い。そんなシオンを認めるかのような発言をした彼女が不思議でならなかったのだ。
詠はただ、小さな笑みを浮かべて答える。
「子供を導くのは大人の役目。ただそれだけよ。それに私は噂だけじゃ信じない質だから。”竜人殺し”は仕事をこなしただけ。褒められこそすれ、責められるべき要素なんてないわ。そもそもあなた一人に竜人の対処を押し付けている状況が間違いなのよ」
彼女は倉庫の扉を閉めた。徐々に気配が遠ざかっていく。
一方でシオンは彼女の言葉が耳から離れず、頭の中でずっと反芻していた。
(俺が、子供)
シオンは今年で十五歳だ。
なるほど確かに子供である。こんな世の中なので才があれば子供でもドラゴンと戦う必要はある。ただかつての日本の法律と照らし合わせれば未成年ではあった。キサラギにおいて成人の判定は特に基準を設けていない。ただ慣習として十八歳からが大人とみなされることが多い。
その基準において大人である詠の言葉は、実に新鮮だった。
「久しぶりに子ども扱いされた気がする」
慣れない経験をしたせいか、自分らしくもないことを考えてしまう。
シオンは心を落ち着けるべく深呼吸し、刀を取って倉庫を出たのだった。
◆◆◆
深夜、倉庫でのことが気になって眠れないシオンは静かに部屋を抜け出した。もやもやとする頭の中をすっきりさせようと、近くの窓を探す。
天守閣の窓は小さく取られているので、景色を見るには向かない。ただ、風に当たるだけならば充分だった。春の冷たい夜風がが心地よく、頭の中もスッとする。
「竜人殺し、か」
その称号はシオンにとって様々な意味を持つ。
竜人の攻撃はドラゴンスレイヤーにとって致命的だ。デミオンの侵蝕を早め、急性侵蝕赫竜病を誘発してしまう。本来安定化しているはずのドラゴンスレイヤーを竜人化させてしまうのだ。
だがシオンだけは、体質によりそれを免れることができる。
効率と安全を考えて、竜人の専門家にさせられた。
「俺だって、できることなら殺したくないさ」
この称号は罪の証でもある。
竜人が人か化け物か、それは意見の分かれる所だ。定義上は竜。しかし心情としては人として扱いたくなる。かつての同僚、かつての親友、かつての恋人、あるいはかつての兄弟。時に親子であることも。
そんな相手を無慈悲に殺せる者はそういない。
仮に始末すれば、理不尽な恨みを向けられることもある。ただでさえ竜人化のリスクがあるのに、そんな仕事は誰もやりたがらない。
「まったく、酷い仕事だ」
ただ風が窓を通り抜ける音が唸る。
不意にシオンの視界の端で、風に揺れる赤い髪が映った。
「アーシャ? 起きてきたのか?」
「何? 悪いの?」
「そうは言っていない……」
「ま、いいわ」
アーシャも窓の傍に寄り、風に当たる。
月明りのみではっきりとは分からないが、まだアーシャの顔色は良いように見えない。まだ休息は充分ではないのだろう。
これから彼女をキサラギへと送り届け、RDOに返還しなければならない。それが酷い裏切りのようで、シオンは罪悪感に苛まれた。それを誤魔化すように話題を振る。
「休んでいなくていいのか?」
「目が覚めたのよ。あんたこそどうしたの?」
「眠れなくて風に当たってた」
「私の真似をしないでくれる?」
「酷い言いがかりだな」
嫌っているという風ではない。こういった言動は彼女なりのコミュニケーションだということが分かってきた。
しばらく沈黙が流れ、段々と気まずくなる。
もう先に戻ってしまおうかとシオンが考え始めたとき、不意にアーシャが問いかけた。
「あんたって、あたしのことを怖がらないのね」
「どういう意味だ?」
「あたしは周りの人を竜の病気にしたり、物を赤い石に変えるらしいわ。先生が言っていたの。だから皆、あたしを怖がっているわ。いつあたしが暴走するか分からないって。シオンは怖がらないのね。竜の病気にならないから?」
「そうかもしれないな」
「あたしは嬉しかったわ。同じ体質だから、あたしと同じかもしれないと思ったの」
「だからあの時、似ているって言ったのか?」
シオンが思い出すのは樹海でのことだ。
赫竜病に罹らないことを始めて告げた時、アーシャは似ていると少し嬉しそうにしていた。
「あたしのせいで一番の友達が竜の病気になって、死んじゃったから。あんたも友達が死んじゃったんでしょ? だから似ていると思ったのよ」
「似ている、か」
「……ううん。似てるなんて言って悪かったわね。あたしは友達を病気にして殺しちゃう化け物。あんたとは違ったわ」
いつもの強気なアーシャと違い、今は弱く見えた。
いや、元から彼女は弱かったのかもしれない。だから似ているシオンを見つけて、自分のせいで死なないシオンと出会って、少し甘えていたのだ。言葉には出さないが、友達だと思っていたのかもしれない。
だから彼女は、シオンの打算を知って機嫌を損ねた。
「友達を殺す、化け物……か」
ふと、シオンは話してみる気になった。自分の始まりの竜人殺しを。そして最初の殺人を。
「俺だってそうさ。殺したんだよ。友達を」
シオンはポーチからDアンプルを取り出し、見せた。
熱海で竜人を討伐した時に使ったので、流石にアーシャも覚えていた。
「海で使っていたやつよね」
「そう。この中にはデミオンって物質が入っている。ドラゴンスレイヤーにとっての強化薬だけど、大量に取り込むと赫竜病になる。だから摂取には気を付けないといけない」
「竜の病気のことね? でもあんたは罹らないから意味ないんでしょ?」
「ああ。だが俺は取り込んだデミオンを体外に放出することで赫竜病を防いでいる。だから俺の周りにいる奴は、俺が放出したデミオンで発病する」
「もしかして……」
「あの時の俺は馬鹿だった。危険だって言われていたのに、皆に追いつきたくて、諸刃や蒼真たちみたいに才能を認めてもらいたくて、大量のデミオンを摂取して……」
自嘲する。
思い返せば本当に愚かで、子供の駄々同然な行いだった。
「そのせいで俺の友達、六道有希が竜人化した。あっという間だった」
赫竜病の最終段階には二種類ある。
赫竜病に肉体が耐えきらなければそれまでに死ぬ。一方で肉体が適合すれば竜人化する。
ドラゴンスレイヤーと同じく、竜人もある意味でデミオンの適合者なのだ。違いはデミオンを制御できるかどうか。当然ドラゴンスレイヤーも過剰にデミオンを摂取すると制御できず、赫竜病になる。だから厳密な管理が必要なのだ。
一定レベルを超えるデミオン濃度の作戦域で、活動時間が定められているのもこれに由来する。
「俺から溢れでたデミオンに晒されて、有希は赫竜病になった。肌に鱗が浮き出て、額から角が。それに髪も真っ赤に変わっていった」
冷たい風が入り込み、シオンを撫でる。バクバクと高鳴る心臓を誤魔化すように、小さな格子窓へと手を当てつつ話を続けた。
「俺の初めての竜人殺しは、有希だった。俺は友達を殺した。この手で心臓を貫いた感触は今もはっきり思い出せる……最悪だった」
まだドラゴンも殺したことがない歳だった。
シオンが初めて刃を持って貫いたのは幼馴染の心臓。当時は勿論、今思い出しても吐き気すら催す。
「俺が触れた相手が竜人になるんじゃないかと思うと怖い。そして竜人化させてしまった奴を俺が殺さなければならないと思うともっと怖い。だから、まともに一緒にいられるのは同じ赫竜病にならないアーシャが初めてだった。俺にとってお前は特別だ」
それが竜人殺しの業。
有希を殺した感触を何度も、何度も、何度も、何度も、死ぬまで何度も繰り返さなければならない。
「情を捨てたふりをして、非情の化け物だと自分自身に言い聞かせなければ気が狂いそうだった」
血を吐くような告白。
だからこそ、シオンにとってアーシャは特別であった。
視線をアーシャに戻したシオンは小さく首を振る。
「いや、変な話をしたな。悪かった」
「別にいいわ。だってあたしはあんたの特別だもの」
「……ふっ」
「何がおかしいのよ!?」
「いや、少し嬉しくて」
遠ざけるシオン。
遠巻きにされるアーシャ。
ある意味で噛み合った二人だ。
「あんたみたいに遠慮なく近づいてくる人は初めてだったわ。森で目を覚ました時、あたしに覆い被さっていたじゃない。驚いたわ」
「悪かったな。邪龍の攻撃から逃れるのに必死だったんだ」
「そういえば、その時はあたしに触れていたわよね」
「ちょっとでも頭を上げたら死ぬ状況だったから、そこまで気が回ってなかった」
思い出すだけでも邪龍のデミオンブレスは身が震える。
人の領域に立つ限り、決して勝てないドラゴンだと身に染みて思わされた。もはや自分のトラウマなど大した問題でないと思うほどの命の危機である。
あれはただ、運が良かったのだ。
シオンもアーシャも。
二人の間に沈黙が流れる。強い風がアーシャの髪を巻き上げ、深紅が流れた。シオンは風が止むと同時に沈黙を破る。気になっていた、聞き辛いことを問うために。
「アーシャは……向こうに戻ったらどうなるんだ?」
「また実験、かな? 分からない」
「そうか」
「うん」
「実験は嫌か?」
「嫌よ。ずっと研究所にいたから」
「外に出たことがなかったのか?」
「初めてだったわ。だから嬉しかった。メアリが言っていた海を見られて」
その徹底ぶりにシオンは驚かされた。
研究所以外知らないのは、生まれからして計画された実験だからだろう。眠らせて外に出したのは、研究所の構造を覚えさせないためだろう。
(不自然なほど赤い髪だと思っていたけど……こんな検体を研究者共が手放すはずないよな)
ドラゴンスレイヤーはデミオンに適合し、調整された存在だ。そして適合率が高ければ高いほど高濃度のデミオンにも耐えることができるため、強力なドラゴンスレイヤーになれる。デミオンと高レベルに適合してしまうと、髪色が赤く変化するという形で肉体に変化が現れる。竜人の髪が深紅に染まるのも同じ理由だ。
しかし高レベルに適合したシオンですら赤のメッシュが入る程度。
アーシャほどに全体が深紅に染まるとなると、どれほどデミオンと適合しているのか想像もつかない。
(仮にそうなら、RDOの連中に諦めさせるのは無理)
シオンはアーシャの境遇を理解できる。その悩みと苦しみも心得ている。だからこそ、彼女に対して情が湧いた。
実験体として扱われているアーシャと比べれば、シオンはまだ自由である。寧ろドラゴンスレイヤーとして活動できているのが不思議なほどだ。シオンの体質ならば、普通は隔離して実験体にされる。”竜人殺し”という利がなければキサラギも放っておかなかっただろう。
「アーシャは……自由に動きたいと思わないのか?」
その質問はすぐに答えられるものではない。
アーシャは悩むそぶりを見せ、窓の外をしばらく眺めて考えをまとめる。
「……今まではそう思わなかったわ。でも、あんたといた時間は初めてで、新鮮で、刺激的だったわ。また海に行きたい……かな」
「海か。竜人のせいでゆっくりはできなかったな」
「でも無理よ。あたしを先生のところに連れて行くんでしょ」
「ッ! ごめん」
竜の巣で行われた実験は失敗だった。
実験機の中枢であるアーシャは研究所に戻され次第、再調整されることだろう。外に出るなど期待するだけ無駄である。
「アーシャ」
「何?」
「もしも自由になれるとしたら……俺と一緒にいないか?」
一瞬、アーシャは呆けたような顔をした。
また風が吹く。
薄着の彼女は身震いした。
「いや、今のは忘れてくれ。そろそろ身体も冷える。部屋に戻って寝よう」
「うん。そうね」
シオンにできることは同情するだけ。
出過ぎた真似と分かっていつつ、何もできない無力さが胸を締め付けた。
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