コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「静粛に!彼女に自己紹介と簡単な質疑応答の時間を設けていますので、今は落ち着かれてください!」
大歓迎に包まれる会場で、改めてハリソンが声を挙げる。予想以上の反応にハリソン自身も少なからず驚いていた。
事前にティナが公表していたこともあり、少なくともティナ程の反響は無いと考えていたのだ。しかし、実際には凄まじい反響を呼んでいた。
何故なら彼女の容姿はファンタジーの定番でもある妖精そのものであり、幼さが全面に出ているティナと違い女性的な魅力もけた違いとなれば無理もない。
ティナの天使のような容姿は宗教的な問題を孕んでいるが、フェルの容姿についてはそれらの問題も少ない。
ついでに言えばティナの容姿を可愛らしいと表現するなら、フェルの容姿は女性的な魅力で溢れている。
「静粛に!皆さん静粛に!」
ハリソンの呼び掛けにも会場の興奮は収まらない。その光景に困ったような笑みを浮かべたフェルは、静かに右手を少し振るう。
すると会場の天井全体を覆い尽くす巨大なエメラルドグリーンの魔法陣が現れ、暖かな陽光が会場全体を包み込んだ。
それまで騒いでいた人々が急に落ち着きを取り戻していくのを目の当たりにして、ハリソンは目を見開く。
「フェル嬢、今のは?」
「ちょっとした魔法です。興奮した気持ちを落ち着かせる効果があると思ってください」
笑みを浮かべながら言われた言葉にハリソンは改めて戦慄した。人の精神に干渉するような魔法を片手間で行使したフェルに、僅かばかりの恐怖を感じたのも事実である。
予めティナからフェルの魔法は自分の比ではないと聞かされていたが、それでも衝撃的な出来事だった。とは言え、いつまでも驚いているわけにはいかない。気を取り直して報道陣へと向き合う。
「コホンッ!では改めて紹介を続けよう。彼女、フェラルーシア嬢はリーフ人と言うティナ嬢とは別の種族だ。アード人とリーフ人は友好関係にあり、フェラルーシア嬢もまたティナ嬢の友人として今回地球へと来てくれたようだ。もちろん、我が国、いや人類は貴女を歓迎する」
「ありがとうございます、ハリソン大統領。地球はとても素敵な星で、こうして歓迎してくださったことに感謝します」
「友好的な宇宙からのお客人を歓迎するのは当然の事ですよ。さて、では早速質疑応答に……」
「フェラルーシア嬢はティナ嬢とご友人とのことですが、種族の違いを越えた友情についての経緯を教えてください!」
ハリソンの言葉を遮るように、一人の記者から質問が飛ぶ。当然マナー違反であり、先ずはリーフ人についての質問が来ると想定していたハリソンも面食らう。だが、フェルは質問者に対して笑顔で応じた。
「分かりました、ティナとの出会いを御話しさせて頂きますね」
リーフ人について深く聞かれても困るフェルとしては、これ幸いにと話を始めた。
それはティナとの出会いから現在までの僅か数ヶ月、しかしとても濃密で涙無しには語れない物語であった。
もちろんセンチネルについてはある程度ボカしたが、一瞬で全てを失ったフェル。彼女を命懸けで助けて、支え続けるティナ。
少女達の物語は多くの地球人の胸に響いたことだけは確かである。
『((T_T))』
『こんなん泣くやろ!』
『良かったなぁ、フェルちゃん((T_T))』
『しかし、何万光年も先の話なんだよなぁ』
『スケールが違うよ、うん』
『宇宙でドッグファイトって、SFかよ。あっ、リアルSFだったわ』
ネット上でも概ね好意的な反応が現れた。
「ティナは本気で地球とアードの掛け橋になろうと頑張っています。そこに悪意はありません。それは地球の皆さんもご存知ではありませんか?私は、ティナが居なかったら死んでいました。だからこそ、彼女の願いを叶えてあげたい。どんな危険や悪意からもティナを護ります。地球の皆さん、どうかティナの活動を暖かく見守ってあげてください」
深々と頭を下げるフェルに、会場は拍手喝采となった。何処までも健気なその姿を好意的に解釈できない地球人も居るには居たが、大半の地球人は絆された。
「やれやれ、またとんでもない事を」
舞台裏で見守っていたジョンは苦笑いを浮かべ、朝霧も応じる。
「ええ、全くです。気付いている人間も居るでしょう。なにせ、ティナ嬢に手を出したら手段を選ばないと遠回しに宣言したようなものですから」
「直接的な表現じゃないし、友達を護るために頑張る少女にしか見えないからね」
「その実、合衆国の軍隊を敵に回しても勝てそうな娘ですが……」
「……勝てる、だろうね。あの時、フェルは私を認識して咄嗟に手を抜いた。ティナの話を聞く限り、彼女個人の戦闘力は桁違いだ。アリア曰く、戦略核兵器が散歩しているようなものらしいからねぇ」
「それはまた……ハリソン大統領も冷や汗を流しているでしょうな」
「他人事ではないのが辛いところだよ、ミスター朝霧。とは言え、私達は彼女達の本質を知っている。誠意を示せば、彼女達はそれ以上のもので報いてくれる」
「忙しくなりますな、室長。私も正式に異星人担当官として抜擢されましたから」
「おや、出世じゃないか。おめでとう、ミスター朝霧」
「ははは、給料も倍になりましたよ。その代わり、胃薬が友達になりますが」
「今度、良い薬を紹介するよ。多少は楽になるはずだ」
「ありがとうございます、室長」
どこか儚い笑みを浮かべるスキンヘッドマッチョと半ブロリー。そして二人の会話を聞いてしまった少女。
「えっ!?ジョンさんと朝霧さん、胃が悪いんですか!?」
胃痛の根本的な原因である少女は、途端に心配そうな表情を浮かべていつも身に付けているポーチを探る。トランクと同じ拡大魔法が付与されたそれは、見た目よりも遥かにたくさんのものを運べる。
そしてそんなティナを見て二人は冷や汗を流して。
「それは大変だ!ティナ嬢、何か良い薬はありませんか?」
「彼らは大切な身体だ。万が一があってはいかん!」
「優れたアードの科学に頼るしかない!」
目をギラギラさせながら煽る白衣の集団が現れ、恨めしそうな二人の視線に気付かずに。
「はいこれ、胃薬です!お父さんが愛用していて、胃やお腹の痛みを消してくれる優れものですよ!あっ、栄養ドリンクみたいにはならないと思うので、安心してくださいね!」
輝く笑みで二人に瓶を差し出したティナ。ジョン達は頬をひきつらせながら受け取り。
「ティナ嬢!」
「あっ、呼ばれた。ちょっと行ってきま~す!」
ハリソンに呼ばれて表へ向かったティナ。残された二人を白衣の集団が取り囲み。
「「「イッキ!!!イッキ!!!イッキ!!!イッキ!!!」」」
「カレン、お父さんを許してくれ」
「南無三!!!」
二人は豪快に小瓶の胃薬を飲み干し。
「「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~ッッッ!!!!!」」
「「「キターーーーーーーーーッッッ!!!!!」」」
喜劇が幕を上げる。