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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第三十五話 準備する時間
会う日が近づいている。
それを意識するようになってから、
彼女の日常は少しだけ変わった。
学校から帰ると、クローゼットを開ける。
「何着ていこう……」
服を取り出しては戻す。
別に特別な格好をする必要はない。
そう思っているのに、なぜか決められない。
スマートフォンを見ると、
ちょうどメッセージが届いた。
『そっちは何着てくる?』
『聞くの?』
『気になる』
『秘密』
『また秘密(笑)』
『そっちも言わないでしょ』
『確かに』
くだらないやり取り。
でも、その一言一言が妙に嬉しい。
会うことが、少しずつ現実になっている。
その夜。
二人は当日の持ち物について話した。
『写真持ってくる?』
『もちろん』
『私もアルバムから一枚持っていく』
『あの場所の写真?』
『うん』
『じゃあ、俺もあの写真持っていく』
『三枚目も?』
彼は少し考えた。
『……持っていく』
『見せてくれる?』
『うん』
初めて、三枚目の写真についてはっきり約束した。
彼女は少し安心した。
『楽しみ』
『何が?』
『写真を見るのもだけど』
『うん』
『会うの』
その言葉を送ったあと、
彼女は少し恥ずかしくなった。
しばらくして、
『俺も』
と返ってきた。
それだけで十分だった。
けれど、その夜はもう一つ変化があった。
彼が、
『明日、少し早く帰るかも』
と言った。
『何かあるの?』
『写真のことで、もう少し調べたい』
『そっか』
『気になるから』
『無理しすぎないでね』
『大丈夫』
『ほんと?』
『ほんと』
彼女はそれ以上聞かなかった。
その後、
会う日の待ち合わせについて最終的に確認する。
時間。
場所。
連絡方法。
もし少し遅れた場合のこと。
何度も確認しているのに、
二人ともどこか安心できなかった。
「本当に会えるんだ」
そんな気持ちが、少しずつ強くなっていた。
夜も遅くなり、
『今日は寝る』
『うん』
『明日また話そう』
『また明日』
サイトを閉じる。
彼女はベッドに入る前に、
今日準備したものを確認した。
写真。
アルバムから選んだ一枚。
そして、当日持っていく小さなバッグ。
全部そろっている。
その頃、彼もまた部屋で準備をしていた。
古い写真を一枚ずつ確認する。
三枚目の写真。
そして、見つかった小さな紙。
全部、忘れないようにまとめる。
けれど、紙をしまおうとしたところで、
彼の手が止まった。
紙の端に、
まだ気づいていなかった小さな文字がある。
目を凝らして見る。
そこには、かすかに――
「名前」
と書かれていた。
彼はしばらく、その文字から目を離せなかった。
コメント
1件
「会うの」って送った後の照れと、『俺も』の返し。ああいう小さな言葉のやり取りが、すごくリアルで胸がきゅってなりました。服を選べなくて何度もクローゼットを開け閉めするところとか、もう会う前の高揚と緊張がじんわり伝わってきて、読んでるこっちまでドキドキしちゃいます。最後の「名前」の文字、どういう意味なんだろう……この先がすごく気になります!