テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4,388
「梅雨嫌い」
季節は6月になっていた。
「奏(そう)ちゃん、傘持ってる?」
「え、忘れたの?」
「うん」
「今日絶対降るって天気予報で言ってたじゃん」
「ニュース見ない」
「いいよ、折り畳みだけど一緒に入ろう」
「ありがと」
嘘だよ。
雨降るの知ってたけど、奏ちゃんと相合傘したいなぁなんて。
俺はおかしいんだろうか。
奏ちゃんへの奇妙な気持ちを痛感するたびに、この思いを打ち消していた。
答えを出してはいけない気がしていた。
奏ちゃんのおかげで、そこそこに楽しい高校生活を送れているのだから。
それを崩したくはなかった。
「はい」
奏ちゃんが傘を差し出してくれる。
「お邪魔します…」
「響、変なの」
奏ちゃんが笑う。
そう、俺は変なの。
背の高い奏ちゃんが俺を守るように傘に入れてくれる。
「傘ちっちゃ!」
「響が忘れたのがいけないんだから、文句言わないで」
むしろ有り難かった、折り畳み傘で。
狭いから奏ちゃんに密着できる。
奏ちゃんの腕に俺の肩が触れる。
「ねぇ、奏ちゃん。もしや俺を濡らさないように守ってくれてない?」
俺の方に傘を傾けてくれるので、奏ちゃんの髪や肩が結構濡れていた。
「響ちっちゃいから。風邪ひいちゃいそうじゃん」
「ちっちゃいって何!?子供じゃないんだけど」
「いや、背が…。濡れないようにしようと思うと傾いちゃう」
「8cmしか違わないし…。奏ちゃんの高さに合わせれば濡れないから大丈夫だよ」
「別に。少しくらい濡れても僕は大丈夫だから」
スパダリかよ…。
奏ちゃんとは部活のない日でも一緒に帰っていた。
当たり前のように俺が急いで奏ちゃんのクラスに向かうこともあれば、先生に頼み事などをされて遅くなっても奏ちゃんは自分の教室で一人待っていてくれる。
「これは期待してよいのでしょうか…?」
「え、何が?」
「いえ、独り言です…」
「ホントに響って変わってるよね!面白くて飽きない」
奏ちゃんが大声で笑う。
「ずっと飽きないで頂けると有り難いです…」
毎日一緒に帰ってくれる奏ちゃんに少し申し訳ない気持ちもあった。
「奏ちゃんは俺以外の友達と帰ったりしなくて良いの?」
奏ちゃんが少し黙る。
「それほど仲良い友達いないし」
おお。でた、たまに出る奏ちゃんの闇。
「そんなことないじゃん、部活でも教室でもいつも誰かと話してるじゃん。俺ストーカーだからちゃんと見てるよ」
「ストーカーw」
間を開けて、奏ちゃんが言う。
「意外と本音をさらけ出せる友達なんていないよ。広く浅くって感じなのかなぁ。」
ああ、それは俺もわかる。
そういえば以前、奏ちゃんに
「響は僕のこと全部知らないからだよ」
と言われた時のことを思い出した。
こうゆうことか。
そりゃそうだ、どんなに一緒にいても人の気持ちなんて100%わかるわけない。
「奏ちゃん、前にね女の子から告白されたら答えるのかって聞いたの覚えてる?」
「あったっけ?」
「奏ちゃん、男にも告白されたって話…」
「ああ」
「その時、女の子だったらどうすんの?って聞いた」
「女の子だったら…そうだねぇ。てゆうか、響ホントにそうゆう話好きだね」
今度は曖昧にしないでね、の強い意志を示すため奏ちゃんの目をじっと見る。
「恋バナ楽しいでしょ?」
と俺が言うと、急に雨が強まってきた。
「ちょっと雨凄くない!?」
奏ちゃんが「この強さじゃ、2人とも折り畳みじゃずぶ濡れだなぁ」と言う。
この辺は雨宿りできるような店もない、住宅街だ。
「あっ、奏ちゃん。あそこの公園に屋根付きのベンチある 」
「ちょっと雨宿りしようか」
ラッキ。
答えも聞けてないし。
俺と奏ちゃんは近くの公園まで走った。
「傘の意味なかったなぁ、ごめんね。響。」
「奏ちゃん、優しすぎ。俺が忘れたのがいけないんだし。奏ちゃんのがずぶ濡れじゃん!」
ベンチも濡れていたが、とりあえず屋根の下で雨が防げるのでホッとする。
「俺タオル持ってる。奏ちゃん、髪の毛拭いたほうがいいよ」
俺はスクールバッグからタオルを取り出す。
「あ、でも体育の後使ったやつだから臭いかも…」
「平気だよ、ありがと」
「奏ちゃん、拭いてあげる!」
奏ちゃんを見上げて、髪の毛に触れる。
髪が濡れてる奏ちゃんは、いつもより色気を増してる。
ホント綺麗な顔してるな…。
可愛い。
奏ちゃんの髪の毛をタオルで拭きながら、俺は変な顔をしていないだろうかと恥ずかしくなってくる。
すると、不意に奏ちゃんが俺の右の手首を掴んできた。
俺はドキッとする。
「奏ちゃん…どうしたの?」
「さっきの話の続きしようか?」
そう言った奏ちゃんの顔はいつもの笑顔ではなく、真剣な顔だった。
あれだけ聞きたがってたのに、今更聞いてはいけない気がしてきた。
禁忌の扉を開けてしまったような…。
そんな気がした。
「俺の初恋の話しようかな」
奏ちゃんが珍しく「俺」呼び…。
聞くのが怖い気持ち以上に好奇心が勝ってしまう。
「小学校の時でね」
「うん」
「友達の男の子だった」
何だか頭を鈍器でガンと殴られたようだった。
その人の全てを知りたいなんて、おこがましい。
知ってしまったらその想いごと全部、自分が責任を持たなきゃいけないんだ。
雨はますます強まっていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!