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部屋に入って早々、聖騎士三十人に囲まれた。
しまった、罠だったのか。
いくら俺でも、三十人を相手にはできないぞ。
警戒していると聖騎士の中から“隻眼の男”が現れた。白髪白髭の高齢の騎士。ひとりだけ黒い鎧に身を包み、その腰には魔剣が携えられていた。
こいつが、騎士団長の『アルフレッド・スナイダー』なのか。
俺の知るアルフレッドとあまりに違いすぎる。顔つき、オーラがまるで違う。まるで何十人、何百人も殺してきたかのような目つきをしていた。
「アルフレッド……」
「――フン。そうか、ついにこのレオポルド騎士団へ来たのだな、ラスティ」
「お前は顔はそっくりだけど、アルフレッドではないな」
アルフレッドなら、俺を呼び捨てにはしない。様付けか坊ちゃん呼びだ。つまり、こいつは顔は似てるけど――偽物だ!
「そう思うか。だが、私は間違いなく二代目騎士団長アルフレッド・スナイダーなのだよ。証拠を見せてやろう」
「証拠だと?」
騎士団長の男は、右腕のガントレットを外す。すると、その腕には『紋章』が刻まれていた。
「これは『スナイダー家』の紋章。これは大賢者による特殊な魔法で刻まれている。偽造不可能の刻印だ」
そこには【Ж】のマーク。
……あ、あれはホテルの転送にあった魔法陣の印。そうか、あれは『スナイダー家』の紋章でもあったのか。
紋章は、魔法陣。
つまり、魔力さえあれば魔法を発動できるんだ。まさか、あの印とは思わなかったけどな。
焦っているとスコルが顔を青くしていた。
「大丈夫か、スコル」
「あの……ラスティさん。あの紋章……わたし、見た事があるんです」
「なんだって?」
「島で洗濯をしていた時です。アルフレッドさんが手伝ってくれて……その時に同じものを見たんです。右腕にありました」
そうか、アルフレッドは万年『執事服』で、いついかなる時も長袖。確認できなかった。俺はそんな腕とか気にするタイミングもなかったし、気づかなかった。
――だとすれば、あのアルフレッドは本物なのか。
「これで分かっただろう、ラスティ。私はアルフレッド本人なのだ」
「じゃあ、教えてくれ。あの時、魔王にやられて死んだはずだよな。どうやって蘇った? まさか、神器とかいうんじゃないだろうな」
ルドミラ、エドゥアルド、テオドールの三人が持つ不老不死の『神器エインヘリャル』を所持していたというオチだ。なら、矛盾もない。
「神器? ああ、エインヘリャルかね」
「やっぱり、そうなのか!」
だが、騎士団長は首を横に振った。それどころか、腹を抱えて嘲笑った。……コイツ、性格悪いな。絶対、アルフレッドじゃない!
「それは“世界聖書”と呼ばれた書物の第七章・聖魔伝説の御伽噺。あんなものは、ただの幻想にすぎん」
いや、実在するんだけどな。
どうやら、コイツは知らないらしい。
「じゃあ、なんだって言うんだ!」
「ラスティ。お前は、スナイダー家とニールセンの関係をまるで理解していないようだな」
「なんで、ニールセンの名前が出てくるんだ」
「なぜも何もない。いいか。第三皇子は、この私がすり替えたのだ。もう知っているかもしれんが、本当の第三皇子は『ニールセン』だった。
だが、私は赤ん坊だったお前を神聖王国ガブリエルで拾い、このドヴォルザーク帝国に連れ帰った。皇帝は、お前が本当の息子ではなく、別人であると気付いていたようだが利用することにしたようだがな」
そうだったのか、この偽アルフレッドが俺をニールセンとすり替えたんだな。だが、コイツはアルフレッドではない。
認めるわけにはいかない。
あの俺を支えてくれたアルフレッドが、こんな悪意に満ちているわけがない。
「よく分かったよ、騎士団長。お前をアルフレッドは認めない!」
「ほう。ならどうする? この精鋭中の精鋭……三十人の聖騎士を相手にするか!? それはそれで余興に相応しいが」
ニヤリと邪悪に笑う騎士団長だが、俺はストレルカに合図した。彼女は指を鳴らし、大精霊・オケアノスを召喚した。
筋肉質のイケメンが出現し、早々にタイダルウェーブを発生。大津波が――いや、この場合は大洪水が起きて部屋が水で満たされていく。
俺はスコルを抱き寄せ、無人島開発スキルの即席で作った梯子で登っていく。あっぶね~、ギリギリで巻き込まれなかった。
ストレルカ本人は、オケアノスに抱えられて這い上がってきた。器用なヤツだな。
「これで良かったのですよね、ラスティ様」
「ああ、あれは偽物だ」
水中では、聖騎士たちが藻掻いて反撃どころではない様子。大混乱だった。陸地で住んでいると、水中訓練なんて受けていないだろうし、泳げる奴もいないだろうな。
だけど、騎士団長だけは違った。あの偽アルフレッド、こちらへ泳いで来やがった。なら、ゲイルチュールでぶっ飛ばす!