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第2章『ギターとたこ焼きと、君の声』(たっつん視点)
「うりりん〜!これ持ってってくれへん?」
たっつんは、台所で焼きあがったばかりのたこ焼きプレートを掲げて声をかけた。
リビングの片隅、ギターを調弦していたうりりんが顔を上げる。
「…わぁ、いい匂い。たっつんさんが焼いたの?」
「当たり前やん、誰が“たこパ職人”やと思っとんの」
そう言って胸を張ると、うりりんはくすりと笑った。
たっつんは、その笑顔を見ると、ちょっと胸がくすぐったくなる。
――最近、それがやたら増えた。
音楽やってる時のうりりんは、マジでキラキラしてて。
普段はぼんやりしてんのに、ギター握った瞬間、急に別人みたいやねん。
「今日も練習してたん?」
「うん…合宿配信の最後に、ちょっとだけ弾き語りしたくて」
そう言ってまたギターに目を落とす。
(…真面目やな、ほんま)
たっつんは無意識に、ソファの背もたれ越しにうりりんをじっと見ていた。
ゆっくりと弦を押さえる細い指。
伏せたまつげの影。
そして、ギターにそっと話しかけるような静けさ。
「……なあ、うりりん」
思わず声が出た。
「ん?」
「オレ、うりりんの歌、すごい好きやで」
うりりんの手が止まった。
そして、少し照れたように、小さな声で返す。
「ありがとう…たっつんさん」
「でも、さん付けやめてええって何回も言うてるやん」
軽く笑ってそう返すと、うりりんは一瞬目を逸らした。
「…じゃあ。たっつん、って呼んでみてもいい?」
「うん、ええよ!」
思わず嬉しくなって、思い切り笑った。
でもその瞬間、
うりりんの顔が、ほんの少しだけ赤くなったのを――
たっつんはちゃんと、見ていた。
(あかん…その顔、反則やわ)
胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。
これは…“仲間”とか、そんなんちゃう。
気づかへんふり、もうできへん気がする。
たっつんは自分の手のひらを見つめた。
この手で、うりりんの音楽を、守りたいって思った。