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###番犬くんと優等生###
<第六章> 自由への一歩
“歪められた日常”
自宅の玄関ドアノブを回す手のひらは、冷たい汗で湿っていた。カチャリと小さな音がして、ドアはあっけなく開いた。中から漏れる温かい明かりと、賑やかな家族の声が、春夜の心を安堵と同時に、言いようのない緊張感で満たした。
「ただいま……」
掠れた声で呟くと、リビングから出てきた母親が、その顔に驚きと困惑を浮かべた。続けて父親と、小さな妹の春歌も顔を出す。家族の視線が、埃と土にまみれ、憔悴しきった春夜の姿に注がれた。
春夜が何かを謝ろうと口を開きかけた、その時だった。妹の春歌が、無邪気な瞳で春夜を見上げて、首を傾げた。
「お兄ちゃん、どうしたの?まさか、もう帰ってきたの?夏休みだからって友達と海外旅行に行ったんじゃなかったの?」
春夜の頭の中で、春歌の言葉が何度も反響した。海外旅行?自分は、龍崎の部屋に監禁されていたはずだ。何のことだか理解できず、春夜は混乱した。龍崎に監禁されていたこと、すべてを管理され、奴隷のように扱われていたこと。あの屈辱的な日々を、家族に話そうと口を開きかけたが、言葉は喉の奥で詰まって出てこなかった。
(……惨めだ……)
自分が置かれていた状況を話すことは、あまりにも惨めで、恥ずかしい。誰にも言えない秘密の関係、自分の弱さを露呈させられたこと、そして、その支配を受け入れてしまったこと。言葉にすればするほど、自分自身の存在が汚れていくような気がした。家族の温かい視線が、突然、春夜を刺すように痛く感じられた。心配と疑問が入り混じった彼らの視線に、春夜は慌てて言葉を繕った。
「あ、ああ……そうだよ、旅行。うん、ちょっと……予定より早く帰ってきたんだ」
春夜は、しどろもどろになりながらも、懸命に笑顔を作った。家族は、不審な顔つきで春夜を見つめている。無理もない。こんな汚れた姿で、突然帰ってきて、支離滅裂なことを言っているのだから。
その瞬間、春夜の脳裏に、あの男の冷酷な笑みがよぎった。
(……龍崎……お前か……!)
なぜ家族が「海外旅行」などと言い出したのか、春夜には一瞬で理解できた。自分が不在の間、龍崎が家族に何らかの連絡を入れ、巧妙な嘘をついていたのだ。警察に通報されることもなく、家族が騒ぎ立てることもなかったのは、すべて龍崎の周到な計画だったのだと。
春夜は、全身が震えるほどの怒りに襲われた。彼は、自分を支配するだけでなく、大切な家族の日常までも平然と操り、自分の人生を捻じ曲げていた。龍崎の支配は、部屋の中だけにとどまらなかったのだ。
「とりあえず、風呂入ってくる。着替えて、また後で話すから」
春夜は、これ以上追及されることを避けるため、慌ててバスルームへと向かった。家族の視線が背中に突き刺さる。
(龍崎……許さねぇ……!)
湯が張られた浴槽に身を沈めながら、春夜は沸騰するような怒りを感じていた。龍崎の恐ろしさと、自分の惨めさ。その感情が混ざり合い、春夜の心に、復讐の炎を燃え上がらせた。このまま奴隷として終わるわけにはいかない。必ず、あの男に、自分の思い通りにならないことを教えてやる。
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