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此処は、私の信念に出会った場所。
私に『救い』を教えて呉れた人の居た場所。
光は、闇の中にこそ其の身を輝かせる。
図らずとも成ってしまった。
依存先候補、二件目。
其の様相は全く以って相変わっていなかった。
最近はやっていなかった侵入も難なく出来て仕舞った。
そして最奥へ辿り着く。
「おや、如何したんだい。」
「と云うのも、何だか懐かしい気がするね。」
背を向けた儘、上機嫌な様子で私を迎える。
「ねぇ、」
「太宰君?」
「森さん」
私は告げる。
「私を此処に置いて下さい。」
「!、ふふ。」
口にして仕舞えば何か惨めなものを感じた。居場所を求めて彷徨う愚か者の言葉だ。
其れにしても気持ち悪い。
私の言葉に何の裏も無いと解って、笑みが不気味に溢れ出している。
「うん、良いだろう。」
「戻って来てくれて嬉しいよ。」
「私としては今直ぐにでも幹部に復帰させたい所なのだがね、」
「長い時間が経ってしまった。」
「幾ら君とて直ぐに同じ働きを見せる事は出来ないだろう?」
私は…
「暫くは第一線から退く代わりに、計画指揮は全て行います。」
「うーん。」
どう出る。
「まぁ、許そう。」
「其れじゃあまた之から頑張ってくれ給え。」
良し。此れで良い。
「あ、後一つ。」
「明後日には幹部会を開くからー、来るのだよー?」
拙い。幹部に成るのは拙いと思ってあんな事云ったのに。
適当に返事をして部屋を出れば、エリス嬢を呼ぶ呑気な声が聞こえた。
さて、此処に戻れば避けられないと解っていた事がある。
げ。矢っ張り。
「あ?何で手前が此処にいんだよ!?」
「あーあ、もう。今日は此の儘帰ろうと思ってたのに。」
「あ”ァ!?」
説明しろ、探偵社は如何した、なんて騒いで五月蝿いから、半ば強引に部屋に押し入ってから丁寧に説明してやる。
「私はね、中也。『死』と云う行為に依存しているんだ。」
「終らない思索の苦しみからの解放として捉えていた筈なのに、」
「何時しか『死』の美しさに魅入られて仕舞ったのだよ。」
「でもね、其れじゃあ駄目なんだ。」
「私には大切な約束が有る。」
「『死』に惚けてる場合じゃ無いのだよ。」
「私は 人を救わなければならない。」
「そして『救い』は苦しみの渦巻く場所にこそ克明に存在している。」
「如何やら人を救うには自分にとっての『救い』を知る必要が有るらしいのだよ。」
「私は、私の『救い』を探し求めて、」
「此処に辿り着いた。」
私の話を珍しく一通り黙って聴いていた中也は開口一番に、
「はっ、手前も少し見ねぇ内に随分と思考回路がイカれたらしいなぁ?」
此れだ。
「私は至って普通だ。救いを求めて彷徨う様なんて将に人間じゃ無いか。」
「いいや、手前はイカれてる。完全にマフィア寄りの思考へ近づいてる。 」
「解らないな。」
「其の内解るだろうよ。手前は根っこから此方側の人間だ。」
にやにやと笑う中也はそう云ってワインのボトルを開け始めた。
「…んだよ。呑むか?」
「否、私は…」
「…ううん、呑みたい。」
そうしてだらだら話をする。
腹の内を曝して話す事が出来たのは何時ぶりだろうか。
取り繕う必要の無い、黒く暗い思考を口に出す事が出来る。そして解り合える。
居場所としての心地良さは正直、探偵社を遥かに上回る。
そうか。私は、こんな居場所が欲しかったのか。
あの時もそうだった。
何だ、私の依存先は
こんなにも直ぐ近くに在ったじゃ無いか。
其の後、芳香なアルコールの香りが充満した部屋の中、中也は机に突っ伏して寝息を立てていた。
私はと云うと酔いを醒ます為に窓を開けて、未だ夜中である此方側の空気に触れ、遠い街が昇る日の光に照らされ始めるのを眺めていた。
「今日は海の近くに行ってみよう…。」
窓をがらっと上に開けてやって私は部屋を出た。
太宰はもう帰って来ない。
僕は其れを皆に未だ話す事が出来ていない。
せめて社長には伝えるべきなのか…?
否、べきと云うなら矢張り全員に伝えなければ。
そうして悶々と悩んで居た処に突然、予想外が発生した。
「あ、鏡花ちゃんお帰り…って、如何したの?」
「先刻、尾崎さんから連絡が有った…。」
「えぇ!?」
探偵社の皆が揃って振り返った。
「えっと…其れで何の御用で?」
「其れが…、」
「太宰さんの事で…。」
探偵社の空気が揺れる。
「太宰さんは昨日、 」
「ポートマフィアに正式に所属したらしい。」
「…え、」
敦君の困惑が声色に其の儘現れる。
急に皆ががたがたと立ち上がり鏡花ちゃんの周りに集まる。
「ちょっと鏡花ちゃん!其れどう言う事!?」
「詳しく聞かせてくれ。」
「太宰さん…如何して…?」
鏡花ちゃんによると、ポートマフィア幹部の尾崎さんが連絡をして来たのは、太宰が戻った理由を尋ねる為だったらしい。
太宰は近頃どんな様子だったかを聞こうとしただけだったらしいが、此れが探偵社に内緒だった事は考え付きもしなかったのだろう。
隠蔽しなければいけないもので無い上隠蔽出来るものでも無かった為に、鏡花ちゃんは此の話をしてくれた。
「…太宰さんと話をしましょう。」
そう云った敦君に皆頷いた。
そうして太宰の捜索が始まった。
どうでしょう。ちょっとずつ長くしていきたい。