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のりもちさん
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「ねぇ、ちょっと…」
雑誌撮影合間の休憩時間に、涼ちゃん専用のマネージャーへと声をかけた。分かりやすく肩がビクリと震えた彼は、本日やけに俺から距離を取っている。
まあ、理由は分かっているんだけどね。
「…はい、なんでしょう?」
「もしかして、飛行機のチケット取ってあげた?」
「……なんのことでしょうか」
俺よりも背が高いから、下からじろじろと見上げると、あからさまに視線を合わせようとしない。思いっきり警戒モードに入っている。
「ん~…嘘は言っていないようだね」
そんな言葉に、彼はホッとため息をついた。どうせ聞かれると思っていたから、あえてマネージャーにチケットを手配してもらわなかったのだろう。涼ちゃんは。
「じゃあ日程だけ教えて」
俺がにっこりと営業スマイルを浮かべながらに問うと、彼は一歩後ずさる。
チケットの手配はしていなくても、涼ちゃんの旅行日程ぐらいは把握してるよね?とくにプライベートでの海外旅行なんて、いつどんなアクシデントがあるかも分からないし、すぐに連絡が取れるようにしているはずだから。
「えっと………ダメです。教えられません」
「ん?」
「いくら大森さんでも、ダメなんです」
「なんで?」
俺、何かおかしいこと聞いてる?愛しい人の旅行日程を知りたいって思うのは、万国共通なんじゃないの?
そう思いながら視線を外さないままに一歩近づくと、彼が更に後ずさる。
「ねえ、ほら、いいから早く教えて?」
圧をかけながらに言うと、彼はワッと泣きながらに両手で顔を覆った。
「うううう~…大森さんに喋ったら、僕、藤澤さんに絶交されちゃうんです~」
「絶交って、子供か」
呆れながらに言うと、若井が控え室へと戻ってきた。
「お~い、元貴。新人くんをいじめてやるなよ」
「人聞き悪いこと言うな。いじめてねーし!」
俺が若井へと文句を言っていると、続いて涼ちゃんも戻ってくる。ツーショットの撮影は無事に終わったようだ。
「藤澤さん!僕、言いませんでした!怖かったけど、約束守りました!」
従順なしもべは、涼ちゃんへと泣きながらに駆け寄った。そんな彼を、涼ちゃんはいい子いい子と頭をなでながら、『ごめんね、怖かったね』とあやしている。
ちょっと、まだ全然本気出してなかったのに、その言いようはあんまりじゃない?
ていうか、いつまで頭をなでられてんのさ。
「ここはいいから、チーフのとこに行っておいで」
涼ちゃんが優しく言うと、彼は俺たちに頭を下げて控え室を出ていった。
こうなったら、本人に直接聞くとするか。
「ねぇ、涼ちゃん。休暇中は本当に海外旅行に行くんだってね」
「そう~。今から楽しみなんだ~」
「いつから?何時出発?男友達と二人だけで?部屋はもちろん別々でしょ?プールで泳ぐつもり?水着になるつもり?何泊すんの?いつ帰ってくんの?俺も一緒に行っていい?」
「いや、めっちゃ聞くじゃん!しかも最後おかしかったし!」
若井が突っ込みを入れてくるけれど、そんなのお構いなしだ。だって俺の大好きな涼ちゃんが、男友達と海外旅行にいくんだよ?何か間違いがあってからじゃ遅いんだよ!
日程を聞いたら、こっちは速攻でチケットもホテルも抑えなきゃいけないんだし!
「日程は言わないし、元貴は来ちゃダメ~」
「涼ちゃんひどい!俺がどれだけ涼ちゃんを好きなのか分かってないの!?休暇中、俺を一人にすんの!?」
さっきの彼と同じく、顔を覆ってワッと泣く。
「泣き真似してもだまされません。ていうか休暇中なんだから、みんな別行動なのは当たり前でしょ?恋人じゃないんだから、元貴には日程を教えませ~ん。でも向こうに着いたら、ちゃんと二人に連絡はするね」
うう、涼ちゃんがつれない。もう何年も前からずっと、涼ちゃんが好き、涼ちゃんだけが好きだと言い続けているのに。
眉をへにょんと下げて、目を潤ませて見上げた。この顔をすると、涼ちゃんは『も~、しょうがないなぁ』って、いつも俺を甘やかしてくれるから。使えるものは何でも使う。可愛らしさは、涼ちゃんだけの武器ではないのだ。
すると涼ちゃんはため息をついて、口を尖らせた。
可愛すぎる。キスしたい。
「あのさ、元貴は俺のこと好きだってずっと言ってくれてるけど、付き合おうとは、言ってくれたことないじゃん」
「……ん?あれ?そうだっけ?」
俺、言ったことなかったっけ?
「まあ、確かに聞いたことねぇな。元貴、肝心なとこ抜けすぎ~」
じゃあ、俺は帰りますけど、お二人さん攻防戦頑張ってね~と、若井は手をヒラヒラと振りながら部屋を出ていった。さっきまで数人いたスタッフたちも、いつの間にか退室していて。控え室には二人っきりになったので、涼ちゃんの両腕をつかんで視線をまっすぐに合わせる。
垂れている目をいつも以上に強調しているアイラインが印象的だった。ハーフアップにしている髪型も、最近細くなったウエストを強調している衣装も、全てが涼ちゃんの魅力を更に引き立たせている。
「涼ちゃん、俺と付き合ってください!」
「んふふ、やっと言ってくれた」
笑みをこぼしながらの涼ちゃんは、相変わらず可愛いくて仕方がない。
初めて会ったときに一目惚れをして、誰にもさらわれないようにと、ずっと俺の音楽に縛り付けてきた愛しい人。
俺の告白に嫌がるそぶりも見せず、そうやって嬉しそうに笑っているということは、期待していいんだよね?ずっと言い続けてきた、好きだという言葉はちゃんと届いていたんだよね?
「でも、返事は休暇明けにしま~す」
「……は?」
涼ちゃんを抱きしめようとしたその瞬間、想像していなかった言葉が聞こえてきたから、思わず静止してしまった。眉間に思いっきり皺が寄る。今まさにカップルが誕生という状況だったじゃん。
「ん?」
「え、ちょっと待って!それじゃ遅いじゃん!恋人にならなきゃ、日程は教えてくれないんでしょ!?」
「だって恋人になったら、本当に旅行に付いて来るか、行くの止められそうなんだもん。だから今は無理!」
「うそでしょ!?」
控え室に俺の叫び声が響くのだった。
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