テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「やったー!深澤くんと連絡先交換できる~!ポケモン一緒にやるんだ~!」
番組が終わって楽屋への帰り道、涼ちゃんが嬉しそうに声を上げた。
足取りはいつも以上に軽やかで、アップにしている後ろ髪がぴょこぴょこと揺れている。過ぎ行くスタッフさんたちにもご機嫌で頭を下げていた。
「よかったね~。涼ちゃん、こっちに友達少なかったもんね~」
真横でぴったりとくっついて歩いていた俺は、涼ちゃんへと腕を組みながらに言う。どれだけ引っ付いても、涼ちゃんは俺を拒絶することはない。引っ付かれることが、もう当たり前になっている。時間をかけて繰り返し接触することで、こうやって涼ちゃんの中に刷り込んだ。
後ろを歩いている若井はきっと苦笑していることだろう。
「も~!そりゃ元貴はいっぱい友達いるし、若井も番組に来てくれた人と仲良くなってるけどさ~。俺もちょっとずつだけど、友達は増えてるんだからね!」
涼ちゃんは最近シュッとした頬を膨らませた。ちょっと前の、頬がふっくらしていた頃は可愛らしかったけれど、今では色気が際立っている。
もうさ、これ以上、綺麗になんないで欲しいんだけどな…。
控え室に着くと、涼ちゃんは衣装もメイクもそのままに自分のスマホを掴んだ。
「ちょっと深澤くんのとこに行ってくるねー!」
「ちょ、涼ちゃん!あそこは人が多いから、今行っても迷惑だって!」
あんな大人数のとこに行って、他の奴らも涼ちゃんと連絡先交換したいって言いだしたらどうすんの。それでなくても、涼ちゃんは無意識の人たらしなのに。
狼の群れの中に可愛い子羊が、『僕をたべてくださ~い』って、自ら飛び込んでいくようなもんじゃん。
「阿部ちゃんに連絡して、深澤くんを呼んでもらうから大丈夫~!」
しかし俺の呼び止めも空しく、涼ちゃんは嬉しそうに控え室を出ていった。ぱたぱたと廊下を走る音が小さくなっていく。
「……はぁ」
思いっきり大きなため息をつき、ソファーへと体を投げ出した。
10分経っても戻ってこなかったら迎えに行こうか。いつもうちの、俺の藤澤がお世話になってます、って。
「まさか生放送中にナンパされるとはね~。涼ちゃんの人たらし、いよいよヤバいじゃん」
するとスマホに視線を向けたまま、若井が横に座り込んできた。
「ハハ、よかったじゃん。涼ちゃんに友達が増えて」
微塵も思っていないことを口する。
「…本音は?」
「はぁ!?ふっざけんなよっ!なに生放送で堂々とナンパしてんだよ!あのグループ、いやあの事務所ごと共演禁止にすんぞ!」
思えば座り位置からして気に入らなかった。
別に若井の隣が嫌なんじゃない。三人でミセスなんだから、そこは揃っての座り位置なんじゃないの?涼ちゃんだけ後ろ席、しかもあのグループのメンバーとの隣なんて、嫌な予感しかしないじゃないか。
自分のところのスタッフだと間違いなく、この座り位置はアウトねと口を挟めたのに、お呼ばれしている番組のスタッフにはそんなこと言えやしない。
これが楽屋とかだと阻止しやすいのに、絶対に俺の手が及ばない場所でのナンパだなんて、今後あいつも要注意人物特定だ。今まではドラマ共演でバディを組んでいたあいつとか、今回涼ちゃんをナンパしたグループの秀才だけだったのに。
一緒にご飯に行く約束も、スタジアム公演前日だったということで流れたけれど、そんな話を聞かされて、思わす前のめりでしつこく聞いちゃったじゃん。
「ていうか、いい加減、告白しちゃえば?」
「…は?そんなの、いつでもどこでもしてますけど?」
ことあるごとに『涼ちゃん大好き』って言い続けてますけど?
ボディタッチもいっぱいして、めちゃくちゃアピールしてますけど?
でも『俺も元貴大好き~』と言った後に、『もちろん若井も大好き~』って言われてますけど?
「はぁあああああ……」
本日、何度目になるかすらも分からないため息が漏れた。
もうさ、俺の言葉を本気にしてもらえないのなら、先に既成事実を作っちゃおうか。うん、体から始まる恋愛もありじゃんね。
でもちゃんと言葉も添えないと、単に体の関係なんだと、セフレになっちゃったんだと勘違いしちゃいそうだし。先にヤることヤっちゃって、泣きながら謝ったら、涼ちゃんは絶対に俺を突き放しはしないだろう。すかさず愛をささやけば、晴れて恋人同士になれるはずだ。
とりあえず今日、俺んちへと連れ込んじゃおっか。
頂き物の美味しいプリンがあるから食べにおいでって言えば、涼ちゃんのことだからホイホイついて来るでしょ。いつか涼ちゃんと使うためにって、すでにコンドームとローションは常備してるから問題ないし。
「元貴、それは最低だって…」
心の声が駄々洩れだったのか、若井が冷たい視線を向けながらに言う。
でもさ、本当にもう時間がないような気がすんの。
だって最近の涼ちゃん、マジで綺麗になりすぎだから。
最低でもなんでもいいんだよ。
誰かにとられちゃう前に、心も体も、涼ちゃんの全てを俺のものにしなきゃならない。涼ちゃんがもし他の誰かと付き合ってしまったら、他の誰かに愛をささやいてしまったら、俺は息ができなくなって闇に沈んでいくだけなのだから。
「あ、10分経った!」
よし、迎えに行こう。
俺は臨戦態勢で、涼ちゃんがいるであろう控え室へと向かうのだった。
コメント
1件
読み終わりました〜!元貴くんの独占欲がじわじわと滲んでいて、胸がきゅっとなりました。特に「涼ちゃんが他の誰かと付き合ったら息ができなくなる」っていうライン、切実でドキドキしました。若井に「最低だって」って止められるところも、ちゃんと周りが見えてるのが良い塩梅ですね。涼ちゃんが無自覚に人を惹きつけるタイプなのも、元貴くんのヤキモチを加速させる要素でニヤニヤしちゃいます。続きが気になる〜!