ンーンーンーンー……
タイミング良く、通常詐欺のメールや電話しか受信していないコユキのスマホがプルったのである。
善悪は勢い良く言うのであった。
「着信してるよ! コユキちゃん! 出て? 誰? 師匠?」
コユキは面倒臭そうに言うのであった。
「ん? 詐欺師からのラブコールだと思うわよ? あれ? お婆ちゃんだ…… もしもし、あたしコユキ、今、お婆ちゃんの後ろに居るのぉ!」
掛かってきた電話で偽メリーは無理有り過ぎだよね、んでも久々の詐欺師以外の着信に喜んでしまったコユキを誰が責める事が出来るだろう……
「へ? ああ、そうなの? へぇ~、うん分かったわ、今、ケーキ食べてる途中だから、食べ終わったら一旦帰るよ~、うん、うん、良かったネェお婆ちゃん、あと、アスタもね♪ はーい、了解ぃ、じゃあねぇ、はーい、はーいぃ」 ピッ!
通話を切ったコユキに善悪が聞いた。
「師匠からでござろう? どうなったでござるか?」
コユキが笑顔を浮かべて答える。
「何か皆喜んでくれて、無事受け入れられたみたいだよ! 良かったよぉ! 何かお父さんが凍らされたり、焼け死にそうになっただけだってさ! ふぅ~ぅ、一安心だよぉ」
物騒な単語が聞こえてきたが、何とか死んでないなら良かったと思う事にした善悪が言った。
「ウン、ヨカッタネ、ンジャ、ケーキ食べたら帰るでござるよ、そろそろバターやラム酒も馴染んだ、慣れたと思うから、さっきつまみ食いしようとしていたパウンドケーキも持って行って欲しいのでござる!」
コユキが卑し(いやし)そうな顔を浮かべて言った。
「おうよ! いただくぜぇ! ってか、それ明日になった方が美味しいんだっけか? 大事なトコよ、二度言ってね」
善悪が答える。
「そうでござる! 明日食べた方が絶対美味しいのでござる! んと、明日食べたほうが絶対美味しいのでござる! どう? 分かったぁ?」
「りょっ!」
答えたコユキは残り僅かになったホールケーキを美味しそうに平らげていくのであった。
ここまで言えば今日中に食い尽くされる事は無いだろう、それなりに面倒臭いコユキとの付き合いに何とか慣れて来た善悪は、大きな深呼吸をするのであった。
その後はいつもの様にお腹が膨れて眠たそうにしているコユキをウンショウンショ頑張って愛車の軽バンに詰め込んで茶糖家に送り届け、何とか起こして母屋に送り込んだ善悪であった。
ムニャムニャ言いながら帰ってきたコユキを出迎えたミチエに対して、コユキは両目を3にしつつも告げたのである。
「んが、お母さん、これ、善悪が明日食べてって、ムニャムニャ、今日より明日じゃなきゃダメだってさ、後は宜しく、なのだ…… ムニャ」
受け取って、中をチラッとみたミチエが嬉しそうに叫ぶのであった。
「やー、善悪君覚えていてくれたんだねぇ! わぁ、嬉しいわぁ! お父さんも喜ぶわよぉ! 今日死に掛けたけど…… 流石善悪君ねぇ!」
「ん? お父さんが喜ぶ? だって! なんだっけ? 明日なんかアンの?」
眠気を抑えて気になった事を聞いたコユキに、母ミチエが言った。
「何言ってんのよぉコユキぃ! 明日はお父さんの誕生日じゃない? 皆思い思いのお祝いを準備してたでしょう? んでも善悪君までなんて…… お母さん嬉しいわぁ! 皆が祝福してくれるだなんてぇ~」
コユキは思い出して焦った。
――――やっべぇ! すっかり、忘れちまっていた……
と。
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