テラーノベル
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──カウンターに隣り合って座り、マティーニを飲む。
「やっぱりマスターの作るカクテルが、一番うまい。舞もそう思うだろ?」
「うん、こんなにおいしいのは、飲んだことがないかも」
マスターが、「ありがとうございます」と、軽く頭を垂れる。
「そうだ、今日はおまえも何か飲めよ」
彼に促されて、「はい、ではご相伴にあずからせていただきます」と、マスターが再び頭を下げる。
「……社長は、いつも連れて来られるいろいろな女性にドライマティーニを薦められていましたが、いっしょに飲まれたのは舞様が初めてですね……」
そうして自ら作った水割りを含むと、そんなことをマスターがポロッと口に出した。
「おいこら美澄、余計なこと言うなって…」
動揺しているのか、マスターを名字で呼んで、彼がにわかに照れた顔つきになる。
「……いろいろな女性……?」
と、胸に付けられたネームプレートに『美澄』とあるマスターに、訊き返してみると、
「ええ、よく連れて来られていて」と、頷いて見せた。
「ですが大抵は甘めなカクテルの方がお好みで、たまに辛口がお好きな女性がいてもモヒートやソルティドッグなどの飲みやすいものの方が、やはりお好きなようでして。
前にもお話したと思いますが、このマティーニのレシピは社長の好みに合わせて、だいぶドライな飲み口になっているので、飲まれる女性が今までいなかったんですよ」
お酒が入ったからなのかじょう舌に話すマスターを、
「……いい加減もうやめとけよ、美澄」
軽く制して、彼がマティーニをごくっと喉へ流し込む。
思わぬ話をされて決まり悪げに横に背けられた顔を、「……ふぅ〜ん、そんなにここに連れて来た女の人がいたんだ……」と、下から覗き込んだ。
「いやだからそれは、特定の彼女もいなかった頃の話で、俺だって本気になれる彼女を探してたんだし、だから、あんま責めんな……」
眉を寄せて渋い表情になる彼に、こらえられなくなって、マスターと顔を見合わせてつい笑ってしまった。
「……なんだよニ人して俺をからかうとは、いい度胸だな……」
彼が吊られてふっ……と笑いを浮かべ、マティー二をひと息に飲み干すと、
マスターに「もう一杯、もらえるか」と、グラスを差し出した。
「かしこまりました」
グラスを受け取り、ドライジンをベースにカクテルを作ると、
「……社長は舞様と居られる時には、素が出られますね」
オリーブを添えたグラスを差し出して、マスターが呟いた。
「……そうなの?」と、彼の顔をちらりと見やると、「ええ」と、マスターが応じて、
「さっきの本気になれる方を探していたというお話ではないですが、よいお相手に巡り会われたのですね」
にっこりと微笑んだ。
「……美澄、余計なことは言うなと、さっきから言ってるだろうが」
照れる顔を頬づえをついた片手で覆ったまま、出されたドライマティーニをぐいっと煽ると、
「もう何も喋るなよ? わかったな?」
鷹騰社長が、マスターにそう念を押した。
「はい、承知致しました」
マスターはクスリと小さく笑って、それから私にだけわかるように、いたずらっぽく片目を閉じて見せた──。
三杯目のカクテルを飲み終わり、「ちょっと酔ったか」と、彼がグラスを置く。
「もう帰りますか?」声をかけると、「そうだな……」と、彼がカウンターから立ち上がった。
こめかみに添えた人差し指と中指を「また来るな」とピッとマスターへ向けると、「帰ろうぜ、舞」と、私に向き直った。
『帰ろう』というだけの些細なセリフに、一緒に帰れる嬉しさで胸がドキドキと高鳴って、自分が思ってる以上に彼に惹かれていることを実感する。
バーを出ると、当たり前のようにグッと傍らへ腰が抱き寄せられて、
それだけでますます胸の鼓動は激しくなって、抱える彼の手の感触に肌が熱を持ってくるのを感じる。
マンションに着いて、エレベーターを待つ間もドキドキは収まらずにいると、
「おまえとは、ここで出会ったのも同じだよな」
ふと思い出したように、彼が口にした。
「うん、このエレベーターの中で……」
そう返して、かつてに思いを馳せるように、降りてくる階数表示をじっと見上げた。
コメント
1件
ああ、もうこの回めっちゃ良かった…!バーのカウンターでマスターが社長の過去をポロッと漏らすところ、舞が「ふ〜ん」って下から覗き込む仕草がめちゃ可愛くて笑った。マスターが舞にだけこっそりウインクするところも、あったかい雰囲気に包まれてて好き。エレベーターの出会いを思い出すシーンもドキドキが止まらなかった…!
𝓗𝓪𝓶𝓾
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