テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
太智目線
仁人は自分がモテないと思っている。
それを聞く度に笑ってしまいそうになる。
その原因を作っているのは俺なのに、仁人は気づかない。
窓から差し込む夕陽が、机の上に赤みがかった光を落としている。
カーテンが風に揺れ、その隙間から見える空は、昼間の青さを少しずつ失っていた。
「俺ってなんでモテないんだろう」
朝、舜太の下駄箱に入っていたラブレターを眺めながら、仁人はそう呟いた。
「まーた言ってる」
勇斗が仁人に向かって笑いかける。
「仁ちゃん別に告白されない訳やないやろ」
「でも、お前らより圧倒的に回数すくないだろ」
そう。
基本的に俺が仁人のラブレターを捨てたり、仁人のことを好きそうなやつに忠告して告白させないようにしている。
しかし、防ぎきれずに仁人に告白してしまう奴はいるため、仁人はたまに告白されてしまう時がある。
「仁人もそのうちされるって」
「……太智。お前だってたくさん告白されるじゃん」
「まぁな。でも告白の回数が全てやないから。あんま気にせんでええて」
仁人は納得していないようだった。
けれど、俺はそれ以上何も言わなかった。
仁人は知らない。
今まで何通のラブレターが仁人の手に渡らなかったのか。
何人の人間が、仁人に告白する前に諦めたのか。
何人の人間に、俺が直接「やめたほうがいい」と言ったのか。
全部、俺がやった。
仁人が知らないところで、ずっと。
***
きっかけなんて、今となっては覚えていない。
ただ、仁人に近づく人間が嫌だった。
仁人が誰かと楽しそうに話している。
それだけならまだ我慢できた。
でも、その相手が仁人を好きだと分かると、途端に面白くなくなる。
向けられる視線、渡される手紙、仁人を呼び出そうとする声。
全部、嫌だった。
だから最初のラブレターを見つけたときも、迷わなかった。
あれは、小学生の頃。
放課後の誰もいない教室。
仁人の机の中に白い封筒が入っていた。
俺は周りを確認してから、それを手に取った。
封筒の表には仁人の名前。
俺は数秒眺めたあと、そのまま自分の鞄に入れた。
そして、俺は気づいてしまった。
仁人に近づく人間を俺が排除すれば良いのだと。
仁人のことを好きそうな人間がいれば、さりげなく話しかけて諦めさせた。
「仁人のこと好きなんだよね?」
「……なんで、知ってるの」
「幼なじみやから、何となく分かるんだよね」
俺は怪しく思われないように笑顔でいるよう心がけていた。
「でも、仁人って恋愛興味無いねん」
嘘である。
本当は仁人がどう思っているかなんて知らない。
でも、人は少し不安にさせれば簡単に揺らぐ。
俺がいつも仁人と一緒にいるから、俺が言うってことは本当のことなんだとみんな信じてしまうみたいだ。
そして大抵は諦める。
それでも諦めない人間には、もう少しだけ強く言う。
「ごめんな。でも、仁人に近づかないでくれる?」
笑顔で優しい声で言う。
けど、相手は俺の顔をみて震えていた。
嫌だから。
仁人に近づく人間が気に食わないから。
どんどん排除していった。
高校生になった今も変わらない。
***
「またやってんの?」
仁人の下駄箱に入っていたラブレターを手に取った時、後ろから柔太朗に声をかけられた。
俺が仁人に近づく人間を排除していることは柔太朗にバレてしまった。
けれど、柔太朗はそのことを仁人には言っていないようだ。
「太ちゃんさ、俺と部活一緒の子に何か言ったでしょ。この前までよっしーのこと気になるって言ってた子が急によっしーの話しなくなったんだけど」
「んー?あぁ、サッカー部の子か。仁人のこと気になってそうだから忠告しといた」
俺は悪びれもせず、柔太朗にそう言うと、柔太朗は呆れたようにため息をつく。
「何でそんなことすんの?」
「前も言ったやん。仁人が誰かのものになるのが嫌」
「よっしーは太ちゃんのものじゃないよ」
「自分のものにならないのは分かってる。だから、誰のものにもなって欲しくない」
「よっしーに好きな人ができたら?」
「……応援なんかしないよ。その恋が絶対叶わないようにする」
「最低」
最低だって分かってる。
けど、仕方ない。
仁人を好きになってしまったんだから。
仁人は、俺がこんなことしてるって知ったらどう思うんだろう。
俺とは一緒にいてくれないのかな。
俺のこと嫌いになるかな。
できれば、何も気付かず、ずっと俺の隣で笑っていてほしい。
「あれ、よっしー……?」
柔太朗のその言葉にヒヤッとする。
仁人がいるのか?
柔太朗が見ている方向を見ると、そこには誰かが走って去っていく後ろ姿が見えた。
少ししか見えなかったけど、多分あれは仁人だ。
「……今の、仁人?」
「うん。ちょっと目合ったし、確実によっしーだよ」
「俺たちの会話、聞かれたかな……」
「聞いてたんじゃない?だから逃げたんでしょ」
仁人に会話を聞かれた。
ということは、俺が仁人に近づく人間を排除していたことを知られたということ。
今まで仁人に隠れてやっていたことがバレてしまった。
俺はその場から動けなかった。
バレてしまったら、俺たちの関係はどうなる。
仁人は俺のことを嫌いになってしまうのか。
様々な最悪な事態を想定しながら、俺は手に持っていた仁人宛のラブレターを手の中でぐしゃりと握りつぶした。
***
翌日。
仁人は何事も無かったかのように普段通り振舞っていた。
昨日見たのは仁人ではなかったのではないかと思ってしまうほど。
柔太朗も不思議そうにしている。
「おはよ、太智」
「おはよう……」
あまりにも普通すぎる。
だから、余計に怖かった。
昨日のことを言わないのだ。俺にも、柔太朗にも。
なんで。
でも、俺から仁人に昨日のことを聞くことは出来なかった。
「俺、好きな人いるんだよね」
昼休み。
突然、仁人が言った。
俺は心臓が止まるかと思った。
何も言えない。
息もできなくなりそうだった。
勇斗と舜太はえー!と大きな声で驚き、柔太朗は驚いた顔をしながら一瞬俺の方を見た。
「誰なん!?」
舜太はワクワクした犬みたいに仁人にそう聞く。
「えー、秘密」
仁人はそう言って笑った。
けど、俺は笑えなかった。
俺はその日から、仁人の好きな人を必死になって探した。
仁人が最近よく話している人。
帰り道でよく一緒になる人。
メッセージのやり取りをしている人。
名前が出るたびに覚えた。
視線が向く先を見た。
少しでも怪しい人間がいれば、頭の中に残した。
そして、もし見つけたら今までと同じようにすればいい。
そう思っていた。
上手く、自然にその人間を仁人の世界から消せばいい。
俺にはそれができる。
けれど、いくら探しても仁人の好きな人が分からなかった。
柔太朗には、もう諦めろと言われたが、諦められなかった。
絶対に見つけて、排除しないと。
「太智」
「ん?」
「なんか最近顔怖いよ。真剣な顔してる」
「気のせいやって」
仁人は疑うような目を向けたあと、前を向いた。
俺はその横顔を見る。
やっぱり分からない。
仁人が好きなのは誰なのだろう。
仁人の好きな人が俺なわけない。
仁人は何も言わないけど、柔太朗との会話を聞かれて、俺が仁人に近づく人間を排除していたことはきっとバレている。
そんな人間を好きになるわけがない。
***
その数日後。
いつものように5人で帰っていた。
途中で勇斗たちと別れる。
「じゃあまた明日」
「またね」
3人の背中が遠ざかっていく。
残ったのは、俺と仁人だけ。
夕暮れの道。
空は青紫色に染まり、街灯が一つずつ灯っていく。
風が吹くたび、道路脇の木の葉がさらさらと音を立てる。
俺と仁人の足音だけが、静かな道に響いていた。
「仁人」
「ん?」
「好きな人って、誰?」
「気になる?」
「うん」
探しても探しても仁人の好きな人は分からなかった。
もう、本人に聞くしかない。
「教えてあげるよ」
仁人は俺に向かって、笑いかけた。
仁人が立ち止まり、俺も足を止める。
「好きなのは、太智だよ」
何を言われたのかわからなかった。
「え、俺……?」
「うん」
「本当に?」
「本当だよ」
胸の奥が、一気に熱くなる。
俺は仁人を見つめた。
今までの全部が、頭の中を駆け抜けていく。
手紙。告白。俺が遠ざけた人間。俺が壊した可能性。
全部、仁人が俺の物にならないなら、他の人のものになってほしくないと思ってやってきた。
なのに、仁人は俺を好き……?
「え………いつ、から?」
「わかんない。結構前だと思う」
前から仁人が俺のことを好きだったなんて、信じられない。
胸がバクバク言っている。
「この前の柔太朗と俺の会話、聞いてたんやろ」
「……うん。俺宛のラブレター捨ててたことも俺に近づく人間を排除してたことも全部聞いちゃった」
「……それでも俺のこと好きなん?」
「うん、好き」
仁人は俺を見て笑った。
なんで、普通なら嫌いになるはずなのに。
俺の汚い部分を見ても俺のこと好きでいてくれるんだ。
「実はさ、嬉しかったんだよね」
「え?」
「俺ってモテないし、魅力なんて無いから太智が俺のこと好きになるわけないって思ってた」
仁人がモテないと思ってたのは俺の仕業。
逆に仁人には魅力がありすぎて、こっちは大変だったんだよ。
「太智が俺に近づく人間を排除してたって知って、そんなに俺のこと好きだったんだって嬉しくなっちゃった。嫌いになんてならないよ」
「俺、最低なことしてたのにそれでも俺のこと好きなん?」
「好きだよ。何回も言わせんな」
即答だった。
その瞬間、俺の中で、何かが完全に切れた。
今まで抑えていたものが、全部どうでもよくなった。
「俺、独占欲死ぬほど強いで」
「そんなに?」
「これからも嫉妬すると思う」
「……どのくらい?」
どのくらいだろう。
正直、自分では想像できないくらいたくさんの人に嫉妬する気がする。
「仁人が誰かと2人で話してるだけで嫌や」
「ただの友達でも?」
「うん。仁人が思ってるより、俺は独占欲強いよ」
「でも、俺も太智が俺以外と楽しく話してたら嫌かも……」
仁人はそう言うけど、きっと俺とはレベルが違う。
俺は嫌どころか、一生仁人に近づかせないようにしたいって思ってしまう。
仁人は俺の事だけ見てればいいって思う。
「覚悟しててよ。俺、仁人のこと好きすぎるから」
「覚悟って、なんの?」
「これからの覚悟。俺、仁人のこと手放す気無いから」
俺は笑った。
嬉しくて仕方がない。
誰かに取られることが今までずっと怖かった。
仁人が俺から離れていくことも、俺の知らない誰かを好きになることも。
でも、仁人は俺を好きだった。
なら、これからはもっと堂々と独占できる。
「仁人、告白されたらちゃんと断ってね」
「当たり前じゃん」
「仁人が断っても近づいてくる奴がいたら、俺がどうにかするから」
「………太智、顔怖い」
仁人が呆れたように笑った。
「太智がこんなに俺のこと好きって言ってくれるなんて意外。今までそんなこと全く無かったのに」
「今までは隠してたもん。仁人にバレへんように」
今まで俺は、仁人に嫌われるのが怖かった。
だから隠れて、仁人にバレないようにいろいろなことをやってきた。
けれど、仁人は俺を好きだと言った。
俺がどれだけ腹黒くても、独占欲が強くても、俺を選んだ。
俺はもう遠慮しない。
仁人が誰と話しているのか、連絡が来ているのか、誰が仁人を見ているのか。
全部、ちゃんと見ておく。
もちろん、仁人には気づかれないように。
必要なら俺が全部片付ける。
仁人が何も知らないまま、俺の隣で笑っていられるように。
俺は仁人の隣を歩きながら、そっと笑った。
「太智、なんでそんなに笑ってるの?」
「ん?嬉しいから」
「そんなに?」
「当たり前やん。ずっと好きやったんやから仁人のこと」
「ふふ、俺も嬉しいよ。ずっと太智のこと好きだったもん」
俺は仁人を見る。
夕暮れの最後の光が、その横顔を照らしていた。
ずっとその横顔を見ていたかった。
この先も、何年経っても俺の隣にいてほしい。
そのためなら、俺は何だってする。
俺は誰にも、この場所を譲らない。
コメント
1件
うわああああ第2話も最高だった…!!😭💕 太智の執着心ダダ漏れなのに全然嫌な感じしないのは、仁人への愛が重すぎて純度100%だからだよな…!!「誰のものにもなってほしくない」からの最後の展開に持っていかれすぎたし、仁人が「嬉しかった」って言った瞬間にもう無理…尊すぎて倒れるかと思った…🏃💥
みかん
89
みかん
55
みかん
8
みかん
39