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外伝 正蛇の槍
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昔々、あるところに、
とある村に、一匹の蛇がおりました。
その蛇は、何かを見抜く力を持っており、
村で行われる、お裁きの手伝いをしておりました。
ーーーーーー
「ふむ……罪人は、この中か?」
村長が尋ねると、側近が答えました。
「ああ。あの日、殺された者以外で村にいたのは、この四人だ。他の者は皆、一緒に山の方へ山菜取りや、釣りや狩りに行っていたからな」
「皆、それぞれの畑仕事をしていたと言っております。全員、他の者が見ていない以上、確かな証拠はございませんな。」
村長は、しばし考え込みました。
「ふむ……困ったものよ。仕方ない、いつものように、火起請を行うしかないな。」
「ひいいいいっ……!!!」
四人の村人たちは、恐れおののきました。
まあ、当然です。
火起請で焼けた鉄を落としてしまえば、犯人でなくとも罰を受けることとなるのですから。
そうして、火起請が行われました。
そして、四人のうち……たった一人だけが、焼けた鉄を落としてしまったのです。
その者は、犯人ではなかったというのに……。
「うっ……うっ……」
犯人にされた村人は、涙を流しながら訴えました。
「おら、本当に何もしてねえだ! 村のために働いておったのに……どうして、こんな目に遭わなきゃならねえだ!!」
そうして、その村人は檻の中で、非業の死を迎えました……。
それからです。
その村に、一匹の蛇が住み着くこととなったのは。
ーーーーー
「……なんだ、あの蛇は?」
村長は、お裁きが行われる場所に佇む蛇を見つめました。
「いつも、裁きをしている場所におるではないか」
「はっ。何故か、あそこにおるのです。あそこから動くこともありませんし……そして、近寄っても襲いかかってくることはございません」
側近がそう答えると、村長は首を傾げました。
「ふむ……???」
その時、
「大変だ!!! また、死人が出たべ!!!」
村人が慌てて駆け込んできました。
「背中から刃物で刺されてるだ!!!」
「なに!?」
村長が驚きの声を上げます。
側近も、険しい顔をしました。
「最近、本当に多いですね……。残念ながらあの村人ではなかったということですか……!」
「仕方ないだろう……。分からない時は、火起請で全て決めるのが、この村の掟だ」
村長の言葉に、側近はしばし黙り込みました。
「……しかし、もっと良い方法があればよいのですが。最近、濡れ衣を着せられた村人の怨霊が出ると、子供たちも騒いでおりましたし……」
村長は、何も答えることはできませんでした。
「…………。」
ーーーーーー
それから数日後。
再び、火起請が行われることとなりました。
「おら、やってねえだよ!!!」
罪人候補の一人が、必死に訴えます。
「おらもだ! 自分の娘を殺されてるのに、他の人殺すなんてこと、心が痛んでできねえだよ!」
別の村人も、声を震わせながら訴えました。
村長は、二人を見据えます。
「昔からの掟なのだ、悪く思わないでくれ。」
その横で、三人目の罪人候補は、心の中でほくそ笑んでおりました。
(ふん、馬鹿なことだ。火起請なんか、落とさねばよいだけ。俺は手の皮が分厚いからな。何度でも耐えられるわ!)
そして、何食わぬ顔で口を開きました。
「自分は、いつも畑の手入れをしておるだ。人殺しなんて恐ろしいこと、しねえだよ。」
村長は、裁きの場にいる蛇へ目を向けました。
「そして、この蛇はまだおるのか……。襲っては来ないが……。やれやれ、犯人が此度こそ見つかるとよいが……。」
その瞬間。
蛇が、ゆっくりと動き始めました。
「しゃー!!!」
「むっ……急に動き出した?」
側近が驚いて蛇を見つめます。
蛇は、三人目の罪人候補へ向かって進み始めました。
「しゃー、しゃー!!!」
「うわっ……なんだ!?」
罪人候補が、後ずさります。
蛇は、さらにその者へ向かって鳴きました。
「しゃー! しゃー!」
「むっ……?」
村長は、蛇と罪人候補を交互に見つめます。
「……あの蛇、あの候補にだけ、やたらと反応しておるな。他の者には、しゃーと言わんのか?」
蛇は、村長の方を向きました。
「しゃっ!!」
「ふむ……。もしや、人の言葉が分かっているのですかな?」
側近は、蛇へ問いかけました。
「ならば、聞きます。この村人が怪しいと、あなたは思っておられるのか?」
「しゃーあっ!!!!」
蛇は、勢いよく鳴きました。
「ば、馬鹿馬鹿しいだ……。たかが蛇の言うことを聞くのか??? ほら、いつものように火起請で決めるだよ!」
罪人候補の一人が、慌てて声を上げました。
「おらは、火起請なんて絶対嫌だべ!! やってもいねえのに、あいつのように、犯人にされたらたまったものではねえだよ!!!」
「そうだべ……そうだべ、やらずに分かるなら、それに越したことねえべ。」
もう一人の候補も、同意します。
しかし、三人目の候補は声を荒らげました。
「昔からの、この村の掟だべ! もし災いが起きたら、どうなるべ!?」
すると、周囲の村人たちから声が上がりました。
「もう、災いは起きてるべ!!」
「村の掟さ守ってるのに、死人がどんどん
増えてるべ!!!」
「ザワザワ……ガヤガヤ……!!」
村長が、声を張り上げます。
「皆、静粛に!!」
騒ぎが収まると、村長は三人目の候補を見ました。
「とりあえず、蛇が反応したその村人を、詳しく調べることとする。それで何もなければ……いつものように火起請で決める」
「かしこまりました。ということで、隅々まで調べさせていただきますぞ」
側近がそう告げると、罪人候補は鼻を鳴らしました。
「ふん、いいべ!! 好きなだけ調べればいいだ!」
ーーーーー
「ここには、何もなし……」
村長が、家の周りを見回します。
「家の中も調べましたが、何もないですな」
側近も、調査を終えて首を振りました。
「ほら言ったべ! おら、犯人じゃないべよ!」
罪人候補が、勝ち誇ったように言いました。
その時、
「しゃー……ニョロニョロ……」
蛇が、ゆっくりと動き始めました。
「むっ……あの蛇、どこへ?」
蛇は、近くの茂みへ向かって進んでいきます。
そして、茂みの前で立ち止まりました。
「しゃー! しゃー!!!」
「ふむ……この茂みですかな?」
側近が、蛇の示す場所を見つめます。
「ガサゴソ……ガサゴソ……」
茂みをかき分けると、
「むっ……???」
土が、少し盛り上がっているようでした。
「土が……少し盛り上がっているようですな」
側近は、村人たちへ指示を出しました。
「掘ってくれ!!」
「わかったべ!」
村人が、鍬を手に土を掘り始めます。
「ザクザク!! ザクザク……」
そして、
「これは……!!!」
茂みに隠された土の中から出てきたのは、
血に汚れた衣類でした。
「これは、どういうことかな……?」
側近は、その衣類を手に取ると、罪人候補へ目を向けました。
「……以前、これはあなたが着ていたものですよね? 最近、着ていないと思っておりましたが……」
側近は、衣類をじっと見つめます。
「そういうことでしたか……。私は記憶力がよいですから、覚えておりますよ」
周囲の村人たちも、衣類を見て声を上げました。
「たしかに、それはいつもあいつが気に入って着ていたやつだべ!」
「間違いねえだ!!!」
罪人候補の顔が、みるみる青ざめていきます。
「!!! 違う、違うべ! これは、おらの服じゃねぇだ!!!」
村長は、冷たい目でその者を見つめました。
「悪いが……しばらく檻に入ってもらうぞ。また、殺しが出たら出してやる」
そして、村人たちへ命じます。
「連れていけ!!!」
「離すだ!! おら、やってねえだぁ!!!」
罪人候補が抵抗しますが、村人たちが取り押さえます。
「大人しくするべ!」
「火起請をやたらと掟だからと勧めていたのは、己の罪から逃げるためだったんだべな!?」
「潔くするだべよ!!!」
ーーーーーー
そうして、しばらく時が流れました。
だが、それ以来、死人は出なかったのです!!
「……ということは。」
村長が、檻の方へ目を向けます。
側近が、静かに答えました。
「この村人が、今までの殺しの犯人ですな」
そして、続けます。
「すぐに、見せしめとして皆の前で処刑いたしましょう」
そうして、広場に村人たちが集められました。
檻から引き出された犯人は、必死に叫びます。
「くそっ……殺されてたまるかだべ!!」
村人たちは、怒りの声を上げました。
「!! 許せねえだ!!!」
「おらの子を返せだべ!!!」
子を殺された村人が、涙を流しながら叫びます。
石を投げようとした、そのさなか。
「静粛に……!!」
側近が、村人たちを制しました。
「皆さんが石を投げて、手を汚す必要はありません。石を投げる暇があるなら……逃げぬよう、しっかり押さえておけ!!」
「はっ……大人しくするだべ!! 罪は償うだ!!」
村人たちが、犯人の体を押さえつけます。
「くそっ……くそだべ……!!」
犯人が、必死にもがきます。
処刑人が、刃物を構えました。
「では、村人たちよ。よく見ておけ。これが、愚かな罪人の最後だ」
「ザシュッ……」
刃が振り下ろされました。
「うおおおおお!!! これで、村は平和だべ!!!」
村人たちが、歓声を上げます。
「ざまあねえだよ!! 自業自得だべ!」
「これで、みんな、安らかに眠ってくれだべ……」
そうして、処刑は無事に終わりました。
ーーーーー
「蛇様……蛇様……」
村人たちが、蛇の前で手を合わせ始めます。
「しゃー???」
蛇が、不思議そうに首を動かしました。
村長が、蛇へ語りかけます。
「あなた様のおかげで、村での殺しは止まりました。ありがとうございます」
「しゃーあっ」
蛇が、静かに鳴きました。
側近が、頭を下げます。
「すぐに、祠を作ることといたしましょう。感謝の印として」
「異議なしだべ! 立派な祠を、お裁き場所の近くに作るだ!」
村人たちも、口々に賛同しました。
すると、子を殺された村人が、蛇を見つめながら尋ねます。
「祠を建てたら……殺された子や友も、安らかに眠れるだべか……?」
別の村人が、優しく答えました。
「きっと、そうなるべ……。あの檻の中で非業の死を迎えてしまった、あいつも……」
そうして、この蛇は小さな信仰を得ることとなったのです。
ーーーーーー
それから、何年かの時が流れました。
そして、再び大事件が起きたのです。
それは、村の子供たちが姿を消すという事件でした。
「困ったものよ……。」
村長が、深刻な顔で呟きます。
「はっ。最初は迷子か何かだと思っておりましたが……こう何人も消えているとなると…」
側近も、困惑した様子で答えました。
村長は、ふと蛇の祠へ目を向けます。
「……蛇様に聞いてみるか、村人たちを集めて。」
「はっ、明日、村で朝餉を食べ次第集まるよう、すぐに伝えておきます。」
ーーーーー
翌日。
蛇の祠の前に、村人たちが集まりました。
「蛇様……蛇様……どうか、お助けください……」
村人たちが正座をし、手を合わせます。
「しゃー……???」
村長が、蛇へ願い出ました。
「この中に怪しい者がいたら……以前のように教えていただきたいのです。蛇様……どうか、お願いいたします」
側近も、続けて説明します。
「村の子供が大勢、行方不明なのです。最近、蛇様のところへ来ていないでしょうか?」
蛇は、首を傾げるような仕草をしました。
「しゃあっ……」
「困ったべ……、おらの子供、見つからなかったら……」
村人の一人が、涙を浮かべます。
「この村は、終わってしまうべ……。」
別の村人も、震える声で語りました。
「ああ……おらは、子供を嫁っ子とおらの間に挟んで寝ていたのに、朝起きたら消えていたべ……」
「しゃあっ……」
突然蛇が、反応しました。
側近が、すぐに顔を上げます。
「……! その話は、本当ですか?」
「嘘つかねえだよ! こんな時に……!」
村人が、泣きながら答えました。
その瞬間、
「しゃあっ!!!」
蛇が、激しく鳴きました。
「蛇様……如何なさいましたか!?」
村長が尋ねると、蛇は山の方へ向かって進み始めました。
「しゃあっ!! ニョロニョロ……!!」
「むっ……!! 山の方に向かい始めたぞ。まるで、誘われているような……」
側近が驚きます。
「追いかけるべ!!!」
村人たちが、一斉に蛇の後を追いました。
ーーーーーー
「しゃーあ!! シャアシャア!!!」
蛇が、山道を進みながら鳴き続けます。
「むっ……この先は……?」
村長が、蛇の向かう先を見つめます。
「はい……使われていない、小屋しかなかったはずですが……」
側近が答えました。
「……ついたべな! 小屋の戸を開けるだよ!!!」
村人が、勢いよく戸を開けます。
「ガラッ!!!」
すると、
「!!!」
小屋の中には、行方不明になっていた子供たちがいました。
子供たちは、口や体に縄を巻かれ、身動きが取れないようにされていました。
「いたべ!!!」
村人が、駆け寄ります。
「話せないように口に縄が……。みんなー、無事だったべ!!! 今、とるからな……怖かったべな……。父ちゃんたちが助けに来たぞ!!」
縄を解かれた子供たちは、泣きながら村人たちに抱きつきます。
そのうちの一人が、犯人を指差しました。
「!! あのおじちゃんだ!! 僕を動けないようにしたり、喋れないようにしたのは!!!」
「な、何を言うだ!?」
犯人らしき村人が、慌てて声を上げます。
別の子供も、震えながら訴えました。
「このおじちゃん……たしかに、このおじちゃんよ!!!」
「しゃーあっ!!!」
蛇が、犯人へ向かって激しく鳴きました。
「!!! 蛇様……おらは……!!」
「しゃー!! しゃー!!!」
「お前だったべか……!!」
村人たちが、怒りの声を上げます。
村長は、犯人を見据えました。
「以前のように、牢に入れてやれ。また子供が消えたら……出してやる」
「くそっ……離せ!!!」
犯人が抵抗します。
「大人しくするだ!!! 許せねえだよ!!!」
村人たちが、犯人を取り押さえました。
「しゃー!」
蛇が、静かに鳴きました。
そうして、蛇は何度も事件を解決していくのでした。
そして、何十年もの時が経った頃。
今度は、祠が壊される事件が起きました。
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「しゃあっ……」
蛇が、壊された祠の前で、悲しそうに鳴きます。
新しい村長が、祠を見つめて声を荒らげました。
「おじい様の代から、守ってくれていた蛇様の祠を壊すとは!? 壊したやつは、一体何を考えている!?」
新しい側近も、怒りを露わにします。
「……全くです。蛇様、心配なさらないでください、すぐに直しますから……。」
だが、
何度も。
何度も。
直しても、
直しても、
しばらく経つと、祠は壊されているのでした。
コメント
1件
うわ、この蛇すごいな……! 「しゃー」だけで意思疎通して、嘘を見抜いて、しかも祠が壊されてもなお村のために動いてるの、もう尊いを通り越して信仰レベルだわ。火起請という非合理な裁きに頼る村人たちと、一貫して真実を見抜く蛇の対比がめちゃくちゃ刺さった。でも祠が壊され続ける伏線、何か陰謀ありそうで続きが気になりすぎる……! 後編、待ってる🔥