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︎ ︎︎︎



「キヨ、起きて」

「ん…もうそんな時間?」


昨日お互いに飲みあって無駄に駄弁りあってからの記憶がほぼない…のは嘘だが何故此処で寝てるのかが全くもって分からない。


「なんで俺ここに…」

「さぁね、キヨもお酒じゃないとは言え飲みすぎたんじゃない?」

「……」


うっすら目を開けるとソファ付近で心配そうに覗き込むフジの顔があった。俺は少し吃驚して顎を引いたらフジが更に心配して覗き込んできた。


「大丈夫?やっぱ飲み過ぎた?」

「……かも。」


いつの間にか運ばれていたフジのベッドで身動ぎ、枕に顔を埋めては俺の気持ちを隠すようにくぐもった声でそう呟いた。


吸い込まれそうなその瞳がどうも怖かった。黒いはずなのに何処か紫っぽいその瞳が。何でも見透かされそうなその瞳が。どうにも慣れなかった。


「ま、落ち着いたらリビングおいで。ご飯作っとくから。」


それだけ言い残せばフジは何も無かったかのように寝室を後にした。……否、彼奴からすれば何も無かっただろうけど。




数分フジの枕を吸っていれば幾分かマシになったのでリビングへと足を運べば腹の虫が騒ぎ始めるような匂いが体を包み込んだ。


「ん、おはよう。キヨ。」

「……はよ。同居してるみたいだな。」

「ふは、何言ってんの。」


なんともないように笑うフジに変に胸が締め付けられた。


──こいつにはその気が無いんだ。


俺は「お前の酔い貰ったかも」なんて皮肉を漏らせば勧められたチェアに腰掛けた。


「貰い泣きならぬ貰い酔いか、随分と面白い。」

「お前が変な風にキスしたんじゃねぇの?」

「んな訳、キヨにキスするなら素面がいいな」

「……なんでだよ。気持ち悪。」

「キヨみたいな綺麗な人にキスできるなんて一生に一度だよ?」


なんてない話をしながら段々と埋まっていくテーブルを眺めて居ればふと顎を掬われて頬に手が滑らされた。

ぱちっ、とフジと目が合う。息を詰まらせた。視線を逸らしたいのに逸らせなくて、危険だとわかってるのにその手を払えなかった。フジは段々と顔を近づけてきて……そのまま…。


「なんてね、期待した?」

「……え」


へら、と笑いながら向かいの椅子に座ったフジに腑抜けた声をあげた。


「…えって何。」

「いや、顔近かったから吃驚しただけ。」

「あぁ、ごめんごめん。困らせた?」


眉を下げて少し泣きそうな顔をするフジに少し腹が立った。そんな顔させてんのはお前だろうが。なんて思って。


「ほら、冷めちゃう前に食べて。今日のは上出来だから。」


言われるがまま口に運べば確かに美味かった。こんがり焼けたパンにバターをたっぷりと塗って、その隣に添えられたスクランブルエッグ。どれも暖かくて美味しくて俺は普通に朝食として楽しんだ。


「キヨ、付いてる。」

「んー……」


食べるのに夢中な俺は生返事をした。するとフジははぁ、とため息をついて腰を浮かせれば俺の肩に手を置いた。そのままゆっくりと顔を近付ける。俺は固まったまま何も出来なかった……否、なにか化する気も更々なかったが。


「ん……取れた。」


唇の横に軽く口を付けては少し舌を這わせた後顔を離しそう述べた。が、相も変わらず顔が近くて至近距離にフジの双眼がある。俺はその瞳をじっと見続けた。暗い紫がかったその瞳をただただ見詰めた。


「……、フジ……」

「キヨ、」

「……」

「何も言っちゃダメ。」


フジは目を伏せては俺に口を閉じるよう促した。


あぁ、やっぱりこの恋はやめた方が良いんだ。お互いに気付いてるのに、それ以上を求めようとしない、俺が言おうとしても相手が求めない。もう無理なんだ。


諦めにも似た気持ちが胸に込み上げては残った朝食に目を落とした。スクランブルエッグの黄色が眩しく感じて静かに目を閉じた。そこから溢れる涙に気付かないフリをして。


「…泣かせたい訳じゃなかったんだよ」


優しい声でそう言ってくるけど、それ以上を求めない辺りでもう俺には分かっていた。俺だってもういい大人だ。何でも言われないと分からない子供じゃない。それでも…それでも俺は此奴にだけは幼稚ながらも腹が立った。フェアじゃない環境で俺の泣かせ方をよく知ってるこいつがただただ恨めしかった。


「……キヨ。目、開けて。」


俺は言われる儘目を開けた。腹が立っているのに従うなんて本当に阿呆らしい。そんなの分かっていた。でも、でも…彼の声には抗えなかった。


「……フジ?」

「……しー。今からすることは全部無かったことにする。」

「…何、言ってんの?まだ酔ってるわけ?」

「…そうだよ、まだ酔ってる。だから俺の言う通りにして。」


何一つ筋が通ってない言葉達に眉を寄せた。するとまた顔が近付いた。俺は思わず目を瞑るとずっと欲しかった口へのキスが落とされた。俺は嬉しさのあまりゆっくりと瞼を持ち上げると額をくっつけ合わせたが故に紫がかった双眼で視界が溢れかえった。高い所から突き落とされたように俺はその瞳に溺れて行った。


「全部、全部忘れるんだよ。」


その言葉に胸を痛ませる間も無ければ目を逸らすこともなくゆっくりと頷けばフジのその双眼は細められた。

俺はまた、彼の瞳に落ちていく。もう時期沈む夕日の光を受けた深い深い海のようなその瞳に。

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