テラーノベル
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夜明け前の空気は湿って重く、深夜から
続いた緊張でなつの喉は
ひどく乾いていた。
やっとの思いで玄関を開け、
軋む音に息を止めながら抜け出した 時
には、時計はもう午前4時前を
指していた。
「…さすがにもう寝てるよな」
呟きながらスマホを取り出す。
指先は震え、ためらうように打った
文字は 短い。
今出れた。…起きてる?
送信してすぐ、画面に通知が走った。
信じられないほど早い。
起きてる。すぐ来い。俺も行く。
「…マジで起きてたんかよ」
胸がぎゅっと締め付けられる。
待っててくれるんだ
――いや、それ以上に、
ずっと起きててくれたんだ。
靴の音を殺しながら走り出す。
夜風が頬を叩き、
心臓の鼓動はどんどん速くなる。
いつもの公園の街灯が見え始める頃には、
さっきまでの孤独感なんて跡形もなく、
ただ会いたい一心で足が止まらなかった。
ー
公園に入ると、まだ薄暗い街灯の下で、
ひとりベンチに腰掛ける人影が目に
入った。 いるまだ。
腕を組んだまま、少し前かがみになって
座っている。
「……もう、来てるじゃん…」
胸の奥がずきっと痛む。
思わず足が止まった。
頬に残る打撲の熱。腫れ上がった部分が、
街灯に照らされるのが嫌で、
顔を伏せてフードを深くかぶる。
――会いたかったはずなのに。
足が、重たい。
ベンチの上で、いるまが顔を上げた。
その視線が、まっすぐこちらに
向かってくる。
「……なつ」
低く、けれどどこか安堵を含んだ声。
名前を呼ばれるだけで、胸が揺れる。
だけど、近づけばこの顔を見られる。
殴られた痕を、また見せたくない。
綺麗なままでいたい。
躊躇して足を止めたままのなつを、
いるまはゆっくりと立ち上がり、
こちらへ歩いてきた。
逃げ出したくなる気持ちを押し殺しながら、なつは俯いたまま立ち尽くす。
次の瞬間、温かい手が頬に触れた。
その手は、傷のある方を覆うように優しく
添えられ、決して痛めつけることのない
力 加減でなつの顔を支える。
「……ごめんな。こんな顔させて」
低く落ち着いた声が耳に届き、
胸の奥が一気に緩む。
反射的に目を逸らそうとしたが、
その前に、いるまの腕がなつを
抱き寄せていた。
包み込むような温もりが背中を覆い、
傷ついた部分を庇うように、
何度も確かめるように撫でてくる。
「隠さなくていい。」
耳元で囁かれるその言葉に、
堪えていたものが決壊しそうになる。
痛みよりも、胸を締めつける安心感に、
なつの心は大きく揺れていた。
いるまの胸に顔を埋めた瞬間、
張りつめていた糸がぷつんと切れた。
「……っ、う……っ グズッ」
抑えようと噛みしめた唇から、
嗚咽がこぼれ落ちる。
大きな手が、優しく頭を撫でる。
「泣けよ、なつ。無理すんな」
その声に背中を押され、
溜め込んでいた感情が一気に溢れ出した。
「ごめん……っ、俺、弱い……っ、
全然平気じゃなくて……ッポロポロッ“」
「いい。謝んなくていい」
抱き寄せる腕の力が少し強まり、
いるまの胸に深く引き寄せられる。
涙で濡れた頬を、掌がそっと
覆ってくれる。
その温かさに、壊れかけていた心が
少しずつほどけていく。
「ここじゃ誰も見てねぇ…泣きたいだけ
泣け」
その言葉に縋るように、なつは声を上げて
泣き続けた。
抑えつけてきた痛みも、孤独も、
安心に変わって流れ落ちていくよう
だった。
ー
涙がようやく落ち着いて、なつが鼻を
すする。
「……ごめん、もう大丈夫」
いるまはまだ腕を解かず、頬に触れたまま
低く呟いた。
「でもさ……本当は全部、こさめの親が
悪いんだろ」
「……え?」
「アイツの母親さえいなけりゃ、
なつはこんなに傷つくこともなかった。
お前の父さんだって、
きっと帰ってきてた」
なつの胸がひゅっと強く締め付けられる。
「ん……、でも……どうしようもない
じゃん、そんなの……」
自分でも震えているのが分かった。
沈黙のあと、いるまは吐き捨てるように
囁いた。
「……殺す?」
「え……ッ」
顔を上げたなつの瞳を、
真剣な光で射抜く。
「こさめの母親さえいなけりゃ、
全部元通りになる。
なつのお父さんだって、帰ってくるだろ」
息が詰まる。
「っ……そ、それは……そうだけど……」
その先を言えず、喉が震える。
いるまの手は、まだ優しくなつの
頬を撫でていた。
だけどその眼差しは、
どこか底なしの暗さを湛えていた。
なつは、いるまの腕の中で少し落ち着きを
取り戻しながら、
かすれた声でぽつりとこぼした。
「……でも、こさめの親を殺すことは……
すちさんが許さないでしょ」
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どうだったでしょうか。
結構自信作できてきてる予感がします。
→200♡
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