テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……ほんとうに、もう、出ないみたい」
そう言いながら、すちの手をぎゅっと握りしめた。
さっきまで喉にまとわりついていた、あのつっかえが嘘みたいに消えていた。
咳も、痛みも、花も、もうどこにもない。
代わりにあるのは――
胸の奥にぽかぽかと広がっていく、「安心」だった。
「すち、俺……生きてて、いいの?」
「なに言ってんの、ばか」
すちが優しく、けれど少しだけ涙声で笑う。
「生きててくれて、ほんとによかった」
ぽん、と軽く頭を撫でられた。
みことは、その感触にじんわりと目を潤ませながら、布団に横になった。
すちが、隣で寝てくれる。
それだけで、鼓動が落ち着いていく。
「……ねえ、すち」
「ん?」
「今までずっと、夜が怖かったんだ」
「……うん」
「寝てる間に吐いちゃうかもしれないって思うと、目閉じるのも怖かった」
「うん……」
「でも、今は……すちがここにいて、もう苦しくないし……」
その先の言葉は、声にならなかった。
代わりに、すちの指先がみことの手をそっとなぞる。
「俺、ちゃんとここにいるよ」
その言葉に、まぶたが自然と落ちていった。
眠る直前――
ぬくもりと呼吸の音だけが部屋を満たしていた。
それが、こんなにも安心できるものだなんて、
今まで知らなかった。
(ああ、俺……やっと眠れるんだ)
涙が一筋、頬を伝ったけど、
それはもう苦しみじゃなくて、安堵のしるしだった。
「……おやすみ、すち」
「おやすみ、みこと。大好きだよ」
そう囁く声を聞きながら、みことは――
この人生で、初めて“無防備”なまま、眠りについた。
コメント
1件
尊い(◜¬◝ )