テラーノベル
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最初に出会ったとき、正直なところ“守ってやらなきゃ”って思ったんだ。
やわらかい髪と、きょとんとした目。
人の好意をそのまま信じてしまう、ちょっと鈍くて危なっかしい子。
みことは、そんなやつだった。
(いつか、どっかで騙されそうだな)
だから、自然と目で追ってた。
誰と話してるか、何を食べてるか、どんな顔をしてるか。
でも、しばらくして気づいたんだ。
目で追ってるのは、心配じゃなくて――ただ、見たいからだって。
ある日、隣の部屋でくしゃみが聞こえた。
ドアをノックすると、「大丈夫」って、少し鼻声の返事。
そっと開けると、熱のせいで頬が真っ赤になったみことが、毛布にくるまっていた。
「……馬鹿。しんどいなら言って」
「えへへ、でも……すちに迷惑かけたくなかったから」
その笑顔を見た瞬間、心臓がズキンと鳴った。
(ああ、俺……)
それから、何かが変わった。
何気ない会話の一言、ふと見せる寝ぼけた表情、好きなものを食べたときの子供みたいな喜び。
全部が、愛おしかった。
(みことが誰か他のやつと笑ってたら、どう思うんだろう)
そんなこと考えて、胸がモヤモヤするようになった。
そしてようやく、それが恋だって自覚したのは――
みことが突然、「引っ越そうと思うんだ」って言った日の夜だった。
「……は?」
思考が止まった。
それが、どれだけ動揺したか。
どれだけ、心臓を殴られたみたいに痛かったか。
(……嘘だろ。なんで。急に……)
問い詰めたい気持ちと、崩れそうな自分を抑えるので精一杯だった。
その夜、眠れずにいたら、壁越しにかすかな咳と何かを吐くような音が聞こえた。
心臓が凍りついた。
すべてを理解したとき、俺は、決めた。
(もう絶対、目をそらさない)
(こいつがどんな病気でも、どんなに醜く咲いたとしても、俺は……こいつを、好きでいたい)
だから、あの夜。
花を吐きながら「好きだったから隠した」って泣いたみことを、
俺はこの腕で強く抱きしめた。
その瞬間から、俺の中の恋は――
“好き”じゃなくて、“生きる理由”になった。
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