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第2話 ー 二 人 の 未 来 ー
「りうらくん優しいね、ごめんねこんなところ見せちゃって」
貴方は無理矢理涙を拭う。
泣いてくれても良いのに、と心の中で思った。
今が何時かも分からないまま二人で夜の海を眺めていた。
「今、何時なんだろうね」
「もう日付変わってるんじゃないですか?」
「寝ても寝なくても日付は変わるって辛いよね」
「分かります。」
他愛のない会話は日が昇るまで続き、俺と貴方は海で一晩を過ごしていた。
「今日は何か予定あるんですか?」
「家に帰って遺書かこうかなって思ってる」
「…遺書」
「りうらくんは?書かないの?」
「書いても誰も見ないから書かないです、」
「俺が見てあげるよ、できないけど」
貴方はくすっと笑っていた。
さっきの涙を忘れさせるように。
どうして苦しそうに笑うのだろう。
まだ泣きたいと思っているように見えるのは気の所為なのかな?
「俺…もうそろそろ帰るけど、りうらくんどうする?」
「もうちょっと此処いたいけどさすがに帰る」
「ん。…あ、そうだ連絡先交換したいんだけど今日の夜もここ来る?」
「来ます」
「待ってるね。」
ないこさんと約束を交わし、「また夜に」とだけ伝えて家へ帰った。
あの時のことを思い出して窓から外を見詰めては心が少しじんわりとした。
波音、貴方の声、綺麗な涙、貴方の全て。
一晩という少しの時間だけが俺の宝物となっていた。
今日もまたあの海で宝物と名をつけた時間を貴方と過ごせることが嬉しい。
少しだけ幸せだと思える。
貴方と出会えて本当に良かった。
時が経ち、夜の二十二時。
約束のあの場所へ向かう準備をする。
スマホと家の鍵だけを持ち外へ、海へと足を運んだ。
「あ、りうらくんっ」
「お待たせしました…?」
「んーん、待ってないっ」
「これが俺の連絡先です、」
そう言って自分の連絡先を差し出す。
出会って一日の貴方に連絡先を教えられるのは、貴方を信用しているから。
特別。その一言を貴方に付け足した。
「よしっ、交換完了っ」
「良かったです。」
俺と貴方は砂浜に座り、今日あったことを話した。
「今日、遺書書き終えてさ、読み返したらなに言ってんだろうって思っちゃった、」
「勢いで書いちゃうけど後から見ると、あれ?ってなるやつですよね。」
笑い合いながら話せることが嬉しかった。
貴方が笑ってくれることが嬉しかった。
「遺書、りうらくんにも読んでほしいなぁ」
「読みますけど、ないこさんがいなくなったら俺、後追いかけますよ」
「おぉ…、別に良いけど」
俺は真剣な目つきで貴方を見詰める。
引いていく波を視界の隅に入れながら、貴方を見詰める。
少しして目を逸らすと貴方が口を開いた。
「りうらくんは今日なにしてたの?」
「ないこさんと初めて会った夜のこと思い出してました。」
俺がそう呟いた瞬間に波が俺のつま先に触れた。
「…ねぇ、その傷」
「傷?」
「足の…傷」
「あぁ、これか」
貴方は俺の足首を指差した。
そこには、三本ほどの切り傷。
俺が自分でつけた傷。
「自分で…?」
「はい、」
「そっか。辛かったことあったの?」
そう言いながら俺のことを抱きしめてくれた。
「…ない、ないですよ?」
笑おうと笑顔を貼り付けるが引きつることに限界を覚え、笑えなかった。
「昨夜はりうらくんが助けてくれたけど、今夜は俺が助ける番だね」
貴方は俺を離さずに優しく呟いた。
第3話 ー 海 に 来 た 理 由 ー