テラーノベル
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ルーンデゼルトの民に見られながら、コウヤさんとふたりで歩く。
見られるたびに驚いた顔を向けられる。
当然の反応だ。自国の王子が知らない女と街中を堂々と歩いてデートをしているのだから。
恋人のふりをするようになってからずっと顔が熱い。
前にいた世界で、もし恋人がいたら、こんなにも恥ずかしい気持ちになるんだろうか。
いや、王子樣とデートしているからか……。
リウさんを探すのが目的だというのに、緊張して集中できない。
「砂漠の街でするデートはどうですか?」
「人生で初めて砂漠に来たので、いい経験になっているなって思います。
この国には、デートスポットがあるんですか?」
「噂でそのような場所があると聞いたことがあります。
街に噴水があるのですが、その近くのベンチに座って話すカップルが多いと……。
あとは、オアシスを散歩する人もいますね」
「砂漠に噴水があるんですか」
「珍しいでしょう。
しかし、砂ばかりでは飽きてしまいますから。
戦争が終わって、世界が平和になったら、老若男女が楽しめる娯楽施設を作りたいです」
「コウヤさんも自国の民を大切に思ってるんですね」
「ええ。民のおかげでこの国が成り立っています。
正直に申し上げますと、他国のほうが住みやすいですからね。
戦争が終わって、スノーアッシュの支配から開放されて平和になったら……。
この国から去る人もでてきそうな気がしますけど」
「神秘的な国なのに……」
「わたしが王になったら、民が生活しやすく、便利だと思えるような国に変えていきたいです」
最初は変な人だなと思ったけど、話してみると本当に優しくていい人だ。
コウヤさんが王になったら、その願いが実現するような気がした。
「占いで常にいい選択もできるんじゃないですか」
「わたしの力を信じてもらえるとは嬉しいですね」
「レトとセツナの未来を当てましたよね。
それを見て、コウヤさんは不思議な力を持っているんじゃないかと思いました」
「流石、かけらさんです」
出会ったばかりだというのに、前から一緒にいたように安心する。
コウヤさんの接し方が上手いからなんだろうか。
それとも不思議な力のひとつだったりして……。
「リウさんはどこにいるんでしょうか。
なかなか見つかりませんね」
人がいないところで足を止めて周囲を見る。
砂だらけだから、隠れるのは難しいというのに……。
本当に逃げるのが上手い人だ。
「きっと、そのうち見つかりますよ。
リウは街の外から出たことがないですし、わたしの臣下ですから。
遠く離れるようなことはしません」
「信頼してるんですね。
でも、そうじゃないと臣下になれないですよね」
「わたしに協力してくれて、守ってくれる存在ですからね。
リウとは付き合いが長いので、分かりやすいというのもありますが……」
「意地悪な人ではないんですよね……?」
「大切なものを奪われたというのに優しいですね」
コウヤさんが認めているから、なんとなくそんな気がしただけだ。
「戦いの時にわたしを守って活躍していましたし、身の回りのこともきちんとできる。
性格は、明るくて、お人好し。あと、潔癖症。
真面目な臣下なのですが、ひとつ困っていることがありまして……」
ダイヤモンドを奪った以外になにかあるんだろうか。
首を傾げながらコウヤさんの顔を見ると、眉を八の字にしていた。
「最近になって、好きだと何度も伝えられるんです」
リウさんが逃げる前にコウヤさんに告白していたけど、あれが初めてではなかったようだ。
「モテモテですね。
長い付き合いがあって、告白されるってロマンチックだなって思います」
「かけらさんはそう思うんですね。
わたしがリウの気持ちに答えてしまったら、どうなるか分かりますか?」
その言葉を聞いて、少し胸が痛くなった。
私もトオルに告白の返事を待たせてしまっている。
もし、返事をしたら……。
「ふたりの関係が変わってしまう……」
「はい、そうです。
リウは優秀な臣下……。
恋人になったら、今までのように上下関係を保つのが難しくなるでしょう。
彼女は割り切ることが得意ではないので、臣下としての仕事に影響が出てしまいます」
「お互いに好きだったら関係ないんじゃないでしょうか。
臣下から恋人になるのも、なんとかすれば……」
コウヤさんは私の考えを受け入れてくれるように小さく頷く。
しかし、穏やかな表情をしていても冷たいような瞳に見える。
「今までなんともしなかったのが答えです。
リウとは、今日でお別れですね……。
忠誠を誓ったというのに、許されないことをして、わたしを裏切ったんですから……」
きっと、傷つけたくなかったから、コウヤさんはリウさんの想いに答えなかったんだろう。
しかし、それもまた傷つけているような気がする。
私も同じようなことをしているんだろうな……。
「あっ、いたいた! かけらー!
……って、なんでコウヤ王子と手を繋いでいるんだい?」
レトとセツナがやってきて、驚いた私はコウヤさんから急いで手を離した。
でも、それは許されなかった。
離れることを阻止するように、コウヤさんが再び手を握ってくる。
「わたしとかけらさんは、今は恋人同士です」
そして、ふたりに言わないで欲しかったことをさらっと口にする。
「こここっ、恋人……!?
いつの間に……、かけらは……コウヤ王子と付き合ったんだい……」
「本当かよ……。
かけらがこんなにも早く相手を決めるとはな……」
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