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#僕のヒーローアカデミア夢小説
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アリアは女性用の牢で、脱獄する方法を考えていた。
騒ぎになると面倒なので、できる限り穏便な方法で――
「ねぇ、ねぇ」
「はい、何でしょう」
アリアのいる牢は、5人の囚人が入れられている。
その中で、やや垂れ目で涙ボクロのある女性が話し掛けてきた。
彼女の名前は、ヴィクトリアといった。
「アンタってさ、夜中にどこかに行ってない? どこに行ってるの?」
「え? 嫌だなぁ、ずっといますよぉ」
「ううん、ちゃんと確認したもの。アタシ、夜目は効くのよ」
「えー? ここから、どうやって出てるっていうんですか?」
「それが分かるなら、アタシが知りたいわよ!
だってアンタ、普通に鍵を開けて出ていくんですもの」
「あはは。どこにも持ってませんよ? ほら、触って調べて頂いてもいいですよ!」
そういうと、ヴィクトリアはアリアを調べようとして……手を止めた。
アリアの異能、『対象化拒否』がそうさせるのだ。
「う、うーん? なんかアンタに触れる気がしないね……。
ちょっと、自分で調べてくれない?」
「あたしが触ったところで、あなたには分からなくないですか?」
「そうねぇ……。それじゃ、全部脱いでちょうだい」
「いやですよ!?」
……そうは言ってもしつこかったので、できる範囲で囚人服をひらひらさせて、何もないことを示そうとする。
そんな中、ヴィクトリアはアリアの手首に、黒い布が巻かれているのが気になった。
「その布、何? お洒落?」
「これはただの装飾品です。ほら、特に鍵とかはないでしょう?」
確かに、鍵のような膨らみはなく、手首のラインが綺麗に出ている。
実際にはこの布は……アリアの帽子の一部で、これこそがアリアが持つ収納用の魔導具なのだ。
アリアの持ち物、鍵や神職者の服などはここに収納していた。
……とはいえ、ヴィクトリアにはそんなことが分かるはずもない。
「うーん、見間違いだったのかしら……。そんなことはないと思うんだけど……」
ヴィクトリアは納得できない表情を見せた。
一方のアリアは、次からは彼女も眠らせてから外に出なければ――と、軽く手刀の素振りをした。
「まぁ、牢の中にいるのは嫌ですからね。あー、鍵があれば楽なのになー」
「うーん……。それにしてもアンタ、何をして牢に入ってるの?
アンタみたいなお嬢ちゃん、こんなところじゃ滅多に見ないよ?」
「あはは。あたしは……オルビスの像を壊してしまって」
「うわぁ、罰当たりだねぇ。
でも、オルビス様は愛の神だろう? それくらい、許してくれないのかね?」
「間の悪いことに、あたしは神職者として働いてまして……」
「なるほど、仕える相手を壊しちゃったわけね。あらー、これは大罪ねぇ♪」
ヴィクトリアは嬉しそうに言った。
アリアの罪状が分かり、安心したのだろう。
「そういうヴィクトリアさんは、何でここへ?」
「殺人」
ヴィクトリアは、あっさりと答えた。
何事もない声色に、ただ事実だけが伝わってくる。
「――醜い痴話喧嘩さ。アタシを巡って、ふたりの男が……ネッ!」
……言葉の最後に、ヴィクトリアの茶目っ気が入った。
確かにヴィクトリアは、囚人服を着ていても大人の色気に満ちている。
「確かにお綺麗ですもんね。いやはや、大変なことで……」
容姿の話はなかなか難しいので、アリアは話を切ろうとした。
しかしヴィクトリアは、気にせずに身体を寄せて話し続ける。
「アタシがひとり殺しちまって、付き合っていた男と一緒に逃げたんだ。
よくある話だろう?」
「ふむふむ……。うーん……、はい」
「しばらくは一緒に逃げていたんだけどさ、あの人が途中で捕まってしまって……。
それでアタシも疲れちゃって。……しばらくしてから、同じ牢獄に入れるように自首したんだよ」
「なるほど……。
最後は自分で決断したんですね。それでは――」
アリアは再び会話を切ろうとしたが、ヴィクトリアは再び距離を詰めて、話を続ける。
戦闘で回避を得意とするアリアでも、ここはなかなか逃げられなさそうだ。
「それで、アンタが牢から出ているのを見て、いいなって思ったのさ。
本当に出れるなら、アタシもあの人にも会えるだろうしね」
「あはは……。普通なら、途中の廊下で捕まりそうですけどね……。
ちなみにその方、どういう方なんですか?」
「ふふふ、聞いて驚くなよ~!
なんと、この牢獄の有名人の……ギデオンなのさ!!」
「えぇっ!?」
……確かに言われてみれば、盗賊団の首領にお色気ムンムンの女性。これは確かに、お似合いである。
「何をじっと見てるんだい? ふふふっ、照れちゃうじゃないか」
ヴィクトリアはそう言うと、軽く襟元を持ち上げて、空気を入れ替えるようにぱたぱたとさせた。
……少しダボ着いた囚人服だ。
大きな胸にサイズが合うものが無く、胸にサイズを合わせたら、最終的にダボつくようになったのだろう。
そんなことを思いながら見ていると、胸のあたりに何かがあるのを見つけた。
おや、あんなところに入れ墨が――
「おや? 刺青が気になるのかい?
これはねぇ、あの人がくれた詩文の一節なんだよ。案外、ロマンチックだろう?」
「詩文……。そ、そうですねぇ……」
ギデオンの顔を思い浮かべてみるが、正直、イメージが合ってない。
でもまぁ、内面が詩人なんて人は、どこにでもいるものだろう。
「見たいなら、見せてあげようか? んん、ほら。見たいでしょう?」
そう言うと、ヴィクトリアは自身の胸に触れて、身体のラインが囚人服から出るように見せた。
「……わあぁ!? 見せないでくださいよ!?」
「この詩文……。
『Vices bloom softly』――悪徳は静かに咲く、って意味らしいよ」
「へ、へぇ……?
ダークな感じの、何とも言えない感じですね……」
「アタシの名前のヴィクトリアも、勝利っていう意味があるのさ。
悪の華、勝利の女……。ふふふ、自分のオンナに欲しくなるだろう?」
「えーっと、いやぁ……。あたしは女なので、よく分からないですねぇ」
ヴィクトリアはふと、悲しい瞳でアリアを見つめた。
アリアは何か地雷を踏んでしまったかと思ったが、そうではないようだった。
「――あの人は、アタシのことなんて忘れちまったのかね。
直接はまだ会っていないけど、アタシがいることは、息の掛かった看守からは聞いているだろうし……」
「きっと、覚えてるはずですよ。もし忘れてたら、あたしがパコーンと殴ってやりますから!」
「ははっ。アンタも変わった子だねぇ。神職者だから、育ちがやっぱり違うのかね?」
ヴィクトリアはそう笑ったあと、少しだけ落ち着いた表情を見せる。
「――あのさ。
アタシとあの人が上手く行くように、祝福をくれないかな。神様の像を壊したとはいえ、性根は神職者なんだろ?」
「あはは。こんなヤクザな神職者、いますかね?
……ただ、あたしの祝福はちょっと変わってますよ。普通の祝福より、良くも悪くも、振れ幅が大きいです」
「何だい、そんなこと。
アタシは勝利の女だよ。こういうときは、勝つに決まってるのさ」
「――ならば祝福を与えよう。
汝は神に身を委ね、欲する力を祈るべし――」
アリアはヴィクトリアの目線を遮り、そのまま彼女の額を指で触れた。
与えられる祝福は人それぞれだが、勝利の女はどのようなものを手に入れるのか。
「――神の祝福はここに在り。
望みと共に、その魂から発芽せよ――」
ヴィクトリアは身体の中心から頭に抜けるような熱さを感じた。
自分の気持ちがそのまま、誰かに伝えられてしまいそうな……。
「あなたが手に入れたギフト――異能は、『魂の囁き』……?
うーん? あたしが知らないやつですねぇ」
「……こいつは驚いた。アタシに異能が……?
アンタ、凄い神職者だったんだねぇ!!」
「あはは……。それで、どんな異能かは分かります?」
「えぇっと……。うん、間違いない!
これは、エッチなテクニックだね!!」
「はぁ!?」
アリアは驚いた。名前に魂が付く異能は珍しく、その反面、基本的には扱いが難しい。
それなのに、そんな異能が……エッチなテクニック、とはどういうことか。
「んー……。
アンタには何故か使えないから、他の……あそこの人に使ってみようか。
――かなり近付かないと、全く使えないね。まぁ、『囁く』わけだから、遠くちゃダメか」
ヴィクトリアは別の囚人に近付いていって、耳元に口を近付けた。
「……え? ヴィクトリア、急になんだよ? 気色わる―」
<<今夜、どう? アタシに付き合ってくれない?>>
「……ひゃっ、ヒャゥンッ!?」
直接頭に響くような、もっと別のところに響くような。
ヴィクトリアの囁きを聞いた彼女は、身体は色気づかせて、もじもじとし始めた。
これは……魂に直接語り掛ける異能?
アリアが考えを巡らせていると、ヴィクトリアが戻ってきた。
「ふふふ、こいつは凄いね……!
アタシ、またあの人とヨリを戻せそうだよ! アタシ、頑張るからね!!」
「そ、それは……はい。頑張ってください……?
でも、どうやって会いに行くつもりですか?」
「そんなことは、これから考えるさ。
少なくとも、人には無い……アタシだけの力を手に入れたんだから!!」
言ってみれば、今のところは……それこそ、エッチなテクニックにしかならないのかもしれない。
しかし異能は無限の可能性を持つ部分もあるから――
……どうなるだろう? アリアは結局、この場では答えを出すことはできなかった。
「アタシは勝利の女だからね!
アンタ、今に見てなよッ!」
――当然、アリアは最後まで見届けるつもりはない。
できれば結果を見届けないように、さっさと全てを終わらせる決心を固めるのだった。