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次の日の夜。
沙耶と友也は早めに帰宅した。
翔太は塾が休みで、美奈も恵子も家にいる。
リビングに全員がそろった。
「美奈。もう甘えるのは止(や)めなさい」
「姉ちゃん、限界だ。出て行ってくれ」
恵子と友也の本気は、美奈に伝わった。
(母と弟が、私を追い出そうとしてる)
(二人は沙耶に操られてる)
(赤の他人のくせに、私から母と弟を奪った)
(なんて憎らしい弟の嫁)
美奈の憎悪は、沙耶に向けられた。
「この性悪女! お母さんに取り入って! 弟を誑し込んで!
ここは私の実家なの! 出ていくのはアンタよ!」
(どこまで クズ女なの?)
沙耶は呆れたが、大声で怒鳴ったら同レベルに落ちる。
冷静に話すのが一番だ。
「ここは私の家です。頭金もローンも友也と折半しています。
名義も、共同名義に変える予定です」
「名義なんて関係ない。母が住んでる私の実家よ。出て行け!」
「出ていくのは美奈さんよ。私の家から出て行って」
恵子が静かに宣言した。
「いいえ。出て行くのは私です」
恵子は、沙耶に深く頭を下げた。
「沙耶さん、ごめんなさい。この家は私のために建てたんじゃない。
本当は知ってたの」
恵子は友也を見つめて言葉を続けた。
「友也が社会人になったとき『あの約束覚えてる?』って聞いたけど、
覚えてなかった。これは無理だなって思ったわ」
友也は頭を搔いた。
「ごめん。本当に覚えてない」
「でも、お父さんが死んだから……。住んでみたいと思ったの。
生きてたら、あんなこと言わなかった。あの人も一緒なんて無理だもの」
「長年の夢を叶えてくれて、ありがとう沙耶さん。もう十分よ。
私はこの家から出ます。私が居なければ、美奈が住む理由も無くなるし」
母親が住む家だから実家、という『ゴリ押し』ができなくなる。
焦った美奈はヒステリックに叫んだ。
「じゃあ、お母さんはどこに住むのよ!?」
恵子はニッコリ微笑んだ。
「シェアハウス」
数人の高齢者が一つの家に住む「シェアハウス」が流行っている。
気の合った仲間と、気楽に老後を過ごす手段の一つで、
増加する〈空き家問題〉や〈孤独死〉を解決できると人気だ。
自治会の仲間で「シェアハウス」をしようという案が出て、
計画を練っていた、という。
恵子のグループは、夫を亡くした妻が集まる、その名も『陽気な未亡人(メリーウィドウ)』。
60才から70才位の仲間が、自分たちのルールで自由に住む計画だ。
「楽しいわよ。人生これからだわ」
恵子は美しく微笑んだ。