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パフィは目の前で起こった事が信じられなかった。
ミューゼがやられ、アリエッタが駆け寄ろうとし、それを止められなかったと思ったら、突然アリエッタが光り出し、見た事も無い力で巨大な生物を弾き飛ばす。
そんな光景を見てしまっては、理解が追い付かないのも無理は無い。
「ア……アリエッタ?」
立ち尽くして、呆然と呟くことしか出来なかった。
一方、遠くから見ていたピアーニャも、構えていた槍を戻し、状況を整理しようとしている。
「なんだ、あのムスメは? マホウ…ではないな……ほかのリージョンからのイジュウシャか? しかし、たいあたりであのキョタイをとばすなど……」
こちらも見た事が信じられないといった表情である。
全員が動きを止めている間にも、生物がゆっくりと起き上がる。
「むっいかん! かんがえているバアイではないな」
状況を確認する為に、そして周囲の救助をする為に、ピアーニャは再度接近し始めた。
「ア…リ…エッタ……だめ……にげて……」
ミューゼは自分に背を向けて佇んでいる少女に、必死に訴える。しかしアリエッタは微動だにしない。
静かに立ち上がろうとする生物を見つめていた。
《……え? どうなった? ミューゼは?》
『安心してください、貴女の大事な人は、倒れていますが無事ですよ』
アリエッタの思考に、アリエッタ自身が小さな声で答えた。
《!?》
『ごめんなさい……一時的に貴女の体をお借りしています』
《ぼ、ぼ、僕が勝手にしゃべってる!? 体も動かない! なんで!?》
心の中で錯乱するアリエッタ。
その間にも、生物は立ち上がり、アリエッタを睨みつけた。
『あの…だから、お借り……』
《うわあああああ! 誰か助けてえええ!! 僕おかしくなっちゃってるうううぅぅぅ!!》
『ちょっと話を聞いて……』
《わぁぁぁん! みゅーぜ助けてええぇぇぇ!!》
虹色の光を出しながら、ただ立っているだけのアリエッタを見て、生物が好機と見たのか、左前足を振り下ろした。
「アリエッタ! 危ないのよ!」
横から見ていたパフィが声を上げる。
その瞬間アリエッタの目が見開き、生物に向かって飛び上がった。
『いいからまずは話を聞きなさあああい!!』
バッコオオオォォォン!!
アリエッタの渾身の叫びと共に、青色の巨大な球状の物が、アリエッタの拳の動きに合わせて生物の下から頭部にクリーンヒット!
「ほわあああああ!?」
「なんだああああ!?」
離れた所にいるパフィとピアーニャが、同時に叫んだ。
ミューゼは近くでうつぶせに倒れていた為、何が起こっているか見えてはいない。
今の攻撃で勢いよく吹っ飛んだものの、蔓に絡まれている生物はアリエッタから離れる事も無く、すぐに落下する。
そこへさらにアリエッタからの追撃が始まる。
『一時的に! 体を借りると! 言ったでしょう!』
《ひぃっ!》
橙色の剣のような形をした物を持ち、生物を斬るのではなく、ベチベチと叩く。
『私は! 貴女に! 謝罪と! 説明を! しにきたのですっ!』
《は、はい! はい! 聞きます! 聞きますとも!》
ひたすら叩き続け、剣状の物を消してから、今度は再び青い球状の、しかし先程よりも巨大な物を出し、思いっきり振りかぶった。
『お願いですから話を聞いてくださああああああああい!!』
ズドオオオオォォォォン!!
哀れにも赤い巨大生物は頭を潰されて、あっさり死んでしまった。
「………………」
「………………」
パフィとピアーニャの目が点になっている。
『落ち着きましたか?』
《はいぃ、すみませんでした……》
ようやく落ち着いたアリエッタ?は、静かにアリエッタに語り掛けた。
しかし……
『あ、やらかしてしまいました。戦いながら色々説明して、他の方の介入を誤魔化そうとしていたのですが……』
《えっ? ゆっくりと話す事は出来ないんですか?》
『駄目です、見聞きされたら、貴女が意味の分からない独り言を呟き続ける変な子になってしまいます。仕方ない、こうなったら……』
全員に背を向けて、俯いてブツブツ言っているアリエッタ。
そんな少女にフラフラと近づくパフィ。
「アリエッタ……あなたは一体……」
声を掛けると……突然アリエッタの体から力が抜け、トサリと倒れてしまった。
「アリエッタ!! っぐ……」
走ろうとして、痛みで思わず下を向いてしまう。
なんとか顔を上げると、目の前には横たわるアリエッタが浮かんでいた。
「え?」
「え?ではない。オマエもいっしょにはこんでやるから、そのこをかかえておけ」
突然現れた幼女に驚くも、その正体を知っているパフィは、あわててアリエッタを抱きかかえる。
その間に、ピアーニャはもう1つのボールを変形させ、ミューゼの救助を進めた。
「あ、あの、総長……ありがとうなのよ」
「レイなんか、やめてくれ……もともとわちのシッパイなのだ。まずはシブにもどって、オマエたちのチリョウをする。まきこまれたオマエたちには、はなすコトも、ききたいコトもたくさんあるから、すまんがきょうはシブでねてもらうぞ」
「いえ、助かるのよ……」
アリエッタも含めて満身創痍の3人は、自分達で動くなど出来なかった。
支部に到着すると、ピアーニャが状況を説明し、現場へシーカーを数人向かわせる。
続いて救護室に3人を運び、一番重症なミューゼから治療を始めていく。
パフィも途中から治療を受け、アリエッタに関しては外傷などは無かった為、パフィと同じベッドに寝かされた。
「ミューゼ大丈夫なのよ?」
「うん、なんとか……よく生きてたね」
「本当ですよ、ボロボロのミューゼさんを見た時は、もうどうしようかと……」
魔法による治療が終わり、今日の所はゆっくり休むように言われている。
駆けつけたリリも落ち着かない様子だったが、アリエッタが寝ている為、なんとか平静を保っていた。
「私も今日は一緒に泊りますね。飲み物とか必要でしたら申し付けてください」
「ありがとうなのよ」
リリはパフィの横で眠るアリエッタに目を向ける。
「突然の事だったのに、武器も無いままアリエッタちゃんを守り切るなんて凄いですね。傷一つ無いなんて」
「違うのよ……最後はこの子に守られたのよ」
「え…どういう事ですか?」
「あたしも気になってたの、教えてくれる?」
「私も頭の整理がまだ追い付いてないから、順番に説明するのよ。明日聴かれるから、リリはメモしておいてほしいのよ」
「分かりました。ついでに飲み物を持ってきますね」
すぐに飲み物と紙と筆を持って来たリリ。
パフィは途中から見えていなかったミューゼの為にも、順番にゆっくりと、見た光景を話していった。
ミューゼの事を話せばリリが青ざめ、アリエッタの事を話した時は、2人共口をあけて驚いていた。
「信じられない……アリエッタちゃんって何者?」
「私もそれ思ったのよ。でも総長がやってきて、そんな事どうでも良くなったのよ」
「あぁ……納得」
アリエッタが暴れた事は、確かに普通に考えたらおかしい。
しかしハチャメチャに強く、アリエッタよりも小さい総長を見てしまえば、些細な事のように思えてしまう。
何よりも……
「私達はアリエッタに救われたのよ……だから何者でも良いのよ」
「……そうね、あたし達の可愛いアリエッタだもんね」
「あ、私も私も」
いつの間にか3人が優しい顔で、静かに眠るアリエッタを見つめている。
「あの巨大生物を攻撃してた時、この子が凄く怒ってたような気がしたのよ」
「うん、ずっと叫びながら何かをしてたのは分かってたけど、攻撃してたのね」
「ふふふ、2人の為に怒ってくれるなんて、羨ましいです」
「なんだかあたし達の為の英雄みたい。そんなカッコイイ事されたら、本気で惚れちゃうよ?」
「私はもう一生養うって決めてるから大丈夫なのよ」
「パフィずるーい」
嬉しさもあって、すっかり和やかな雰囲気になる治療室。
あの時、アリエッタ?の叫んでいた内容が分からない2人が、ミューゼを守ったという事実から連想して、自分達の為に怒ってくれたという結論に達するのは、至極当然の事である。
「さて、お二人はもう寝ると良いでしょう。朝までは私がアリエッタちゃんの寝顔を堪能しておきますので、安心して休んでください」
「安心出来ない理由を言わないでほしいのよ……気持ちは分かるから困るのよ」
「あはは……ふあぁ……」
怪我が治ったとはいえ、体力や気力が戻るわけではない。
特にボロボロになっていたミューゼは、すぐに眠りに落ちた。
パフィも何かあった場合はリリに任せ、アリエッタの手をそっと握って、大人しく眠る事にした。
「おやすみなのよ、アリエッタ」
真っ白な部屋の中、その壁際にアリエッタは立っていた。
目の前にあるのは額縁に入れられたミューゼの似顔絵。
『みゅーぜ大丈夫かな』
心配そうに呟く。その近くの壁にはパフィやリリなど、アリエッタがこれまでに描いたことのある絵が飾られている。
『大丈夫ですよ。貴女を含め、あの方々は無事救助されました』
『あ……』
声に振り向くと、部屋の中心にはアリエッタが立っていた。
『えっと、アナタは……僕?』
『今はそうですね。貴女の体に同調して支配権を借りていたので……あ、大丈夫ですよ、用件が終われば出ていきますから』
『はぁ……』
同調だの支配権だの、アリエッタにとってはよく分からない事だが、目の前にいる存在が、自分達を助けてくれた事はなんとなく理解していた。
『あの、助けてくれてありが──』
『すみませんでした!!』
感謝の言葉を遮り、アリエッタ?は見事な滑り込み土下座をした。
それを見て思わず硬直するアリエッタ。
『え……えっと?』
『貴女が苦労しているのは、全て私が悪いんですっ!!』
鏡でそこそこ見慣れてきた自分の姿で、突然の土下座である。そんなものを見せられたアリエッタは、ますます困惑してしまう。
『あの、その……意味が分からないんですけど……まずアナタは誰ですか?』
アリエッタの問いに、土下座したまま顔を上げた。
『私はエルツァーレマイア。貴女達が言うところの、【神】という存在です』
『…………はい?』