テラーノベル
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15
弐十視点
町の外れの閑静な住宅街。
ここなら噂もまだ広まっておらず、誰かに石を投げられることも、罵声を浴びせられることも、後ろ指を指されることもない。
「あ、こんにちは」
「いらっしゃいませ〜、こんにちは」
店員の女性に会釈をしつつ挨拶をする。
外から風が吹き、店の中が花の香りで満たされる。色とりどりの花が、風と共にゆらゆらと柔らかく揺れる。
「今日はどんな花を買いに来たんですか?」
女性が1輪の花を持ったまま俺に話しかける。
「…知り合いの男の子が亡くなってしまって」
「あぁ、それはそれは…。ご愁傷さまです。」
「お心遣い、ありがとうございます。」
「いえ、ではその為にお花を?」
「…はい。」
女性は、手に持った花を差し出してくる。
先程まで手入れされていた花だろうか。
「どんな花が良いでしょうか?例えば、こちら」
白色の花で、花弁の先が紫に染まっている。
「…綺麗ですね。」
「今朝入荷したばかりで、色も鮮やかでしょう。」
「リューココリーネという花です。」
「へえ…素敵な名前ですね。」
確かに綺麗だが、何だかしっくり来なくて、店の中を見渡す。
すると、1つの花に目が奪われる。
「…あれはなんですか」
店員さんは俺が指した方向へ歩き、黄色い花を手に取る。
「こちらですかね、これはカーネーションです。」
「おぉ、カーネーション」
「聞いたことありますかね、これも最近入荷したので色も綺麗ですよ。」
「…これにしようかな」
「いいと思いますよ。では、仕立ててきますね。」
「お願いします。」
カウンターへ花を持っていき、静かな店の中にラッピングの音だけが響く。
「どうぞ。○○円になります。」
「はい、ありがとうございます。」
黄色いカーネーションを受け取り、店を出る。
女性は俺が見えなくなるまで頭を下げる。
なんか、くすぐったいな。
通りを出て少し歩き、風の音だけが静かに流れる区画へと足を踏み入れる。
そこにはいくつもの墓石が並んでいて、それぞれに花や供え物、酒などが置かれていた。
その中に1つ、装飾のない灰色の墓石を見つける。
「…っと、これか」
そこに黄色いカーネーションを置き、そのまま手を合わせる。
数秒して、手を解く。
「可哀想だよなー、俺も、お前も。」
「…ごめんね」
太陽の光に照らされてつやっと輝く灰色を右手で撫でる。
「弐十ーーーーッッッ!!!!!」
「え」
独特の声が張り上げられ、静寂が壊される。
名前が呼ばれ、反射的に振り返る。
そこには、見覚えのある金髪が風により揺らされていた。
「ートルテさ…っ」
キルシュトルテ視点
どれだけ走っただろう。どれだけ戸を開けただろう。
ここにも、あそこにも、どこにも弐十くんは居なかった。
くそ、一体どこに行ったんだ。
通りにひとつ花屋を見つけ、中を見渡す。
「おわっ、こんにちは…っ」
「あ、こんちはっす!」
いない。他に行くか、と思い店に背中を向けた時、声をかけられる。
「あのっ、人探しですか?」
「…っはい」
「ベージュの頭で、左耳にピアスをしてる男なんですけど、」
「もしかしたら、その方さっきうちに来た方かもしれません。」
「え!!まじすか」
突然の知らせに驚きと喜びの感情が入り混じる。
「そいつは、どこに」
「どこ、とかは聞いてないんですけど、お知り合いの方が亡くなられてしまったようで。」
言葉を受けて、一瞬息が止まる。
「この通りを曲がったところに、墓地があるんですよ。」
「まじすか!助かります!!」
「あっ、はい!」
お礼を手短に済まし、先程説明を受けた墓地へと向かい走る。まじでありがとう姉ちゃん!!
走り続けるうち、周囲のざわめきが薄れ、やがて異様な程綺麗な空気へと辿り着く。
「ここか…?」
灰色の石が並び、それと共に色とりどりの花が並ぶ。
その中に、一際目を引くミルクティーベージュの頭が見えた。
「あ」
視線が止まる。
やっと見つけた。何してんだよ、心配させんな。
「弐十ーーーッ!!」
弐十くんはすぐに振り向き、目を大きく開き、口をぽかんと開けている。
「…ははっ、あほ面」
俺は弐十くんの座る方へと走っていった。
「えっ、え、え??なんでいるの???」
「はーーーーっ…!」
「ため息すっご」
今まで走り回った分の疲れが一気に襲いかかる。
「……まじで、死んだかと思ったーーーッ!」
空を仰ぎながら、今までの不安を吐き捨てるように叫ぶ。
「は!?死ぬわけないでしょ」
そう言って、軽快に笑う弐十くん。
でも目線はどこか遠くを見ていて、なんだか寂しかった。
「だよな、弱者男性のお前は、死ぬ度胸とかねえもんな」
「一言余計だけどね??」
知ってる。俺がいちばん知ってるし、
「ーーだし、人を殺す度胸もねえもんな」
「…ッ!」
弐十くんの肩が跳ねる。
「…やっぱ分かる?」
「当たり前でしょ」
弐十くんは手を前に組み、ん゛ーと唸りながら腕を伸ばす。
「まじかー、バレてたかぁ」
そう言って笑うが、視線は逸れたままだった。
「…なんで嘘ついたの?」
「えー、聞いちゃう?」
口の端を上げて、ニヤリと笑う。
「なんだお前。」
「はは、ごめんて。」
「でも、嘘ついたのはミスったなーとは思ったよ」
ふう、と一呼吸置いて、弐十くんが喋り出す。
「討伐に行ったんだけどさ」
「メンツが俺と魔法使いの奴と、その弟子的なやつ。」
「3人だけだったけど、魔物もそこまで強いやつは出ない区域だったから、全然行けると思ったんだよね。」
「そしたら、森で想定外の魔物に遭遇しちゃって。」
「別にめっちゃ強い訳じゃないんだけど、3人じゃちょっと厳しくて。」
「しかも運が悪くてさ、その森に何人かの男の子が遊びに来てたんだよね。」
「その子たちほとんど逃げてくれたんだけど」
「…1人だけ逃げきれなくって。」
「なんとか、頑張って、その男の子に魔物が触れないように、」
「…してたんだけど、それが裏目に出ちゃって」
「魔法使いの弟子の奴がさ、パニクって魔法ミスっちゃったんだろうね。」
「魔物に向けて放ったんだろうけど、方向全然ちがくて」
「その方向に」
「……男の子がいて」
弐十くんの喉が僅かに詰まる。
「急いで、治癒班を呼んだんだ」
「でも………無理だった」
「……大丈夫?」
「…うん、へーき。」
「ん」
「で、次の日に町におりて役所の方に行ったんだ」
「討伐の報告と、あと男の子の確認」
「そしたら、空気くそ重くて」
「みんな俺見ながらひそひそ喋ってて」
「その時点でもう嫌な予感はしてたんだけどね」
「で、役所で男の子の記録見たら」
「……なんか俺が殺したことになってんだよね」
弐十くんが、はあ、とため息を漏らす。
そのまま地面に寝転がる。
「もちろん否定したけど、もう前日のうちに色々やられちゃってたぽくて」
「弟子の子が出来良い子だったんでしょ、あの魔法使いも大分その子のこと気に入ってたし」
「町に出たら、色んな人に暴言吐かれたり、石投げつけられたり…。」
「1人だけすっごい怖い人いてさ、胸ぐら掴んできたんだよ。」
「違うって、何度も言ったんだけど」
「もう噂が広まっちゃったから、みんな俺のイメージもう固まっちゃってんだよね」
「どれだけ否定しても、もう無理だった」
「それで、もう何でも良くなっちゃって、」
「町にいるみんなの前で頭下げて謝った。」
弐十くんが真一文字に口を結び、一通り話し終わったことを確認する。
「……気持ち悪」
「それって、どっちが?」
弐十くんは寝ていた身体を起こし、外方を向く俺の顔を覗き込んで、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「どっちも。」
「世間も、お前も。」
「はは、ごめんね」
眉を顰めてどこか哀しそうに笑う弐十くんを見て、どこに当ててか分からない怒りが俺の中で育てられていく。
「…で、これは?」
そう言って、目の前にある墓石に指を指す。
「これは、男の子のお墓」
「可哀想だよね、犯人隠蔽されて」
犯人って言い方は違うか、と言いながらガハハと笑う弐十くん。
俺は黙って、額の前に両手を運び手を合わせる。
「…ん」
数秒経って、手を解く。
「んー…、クソだね」
俺がそう吐き捨てると、弐十くんは空を仰ぎながら話す。
「…そう、クソ」
「だから、俺逃げる」
「逃げる?」
「うん、なんかもういーやって思って」
「……また独りで行くの?」
俺がそう言うと、弐十くんは少し嬉しそうに声を明るくして言う。
「寂しい?」
ニヤリと笑う顔を見て、俺は「は?」と呟く。
「……一緒に来る?」
照れ隠しだろうか、顔を俯きながら小さく呟く。
「…共犯な」
「はは、巻き込んじゃってごめんね?」
弐十くんが拳を俺に向けたので、俺も拳を出し、お互いの拳同士をぶつける。
その時、遠くから聞き覚えのある声が飛んでくる。
「いたーーーーーッッ!!!!」
「えっ、ニキくん達!?」
弐十くんは予想外の来訪者に愕然とする。
「はー、見つけた、はあっ!」
ニキくん達は相当走ったのだろう、息切れをしている。
しろせんせーがニキくんとシードの10歩くらい後ろで、膝に手を付きながらはあはあ、とへばっていた。
「ボビー!!はよ来い!」
「剣術の先生なんじゃろー!!」
「いや、こんな走るとかっ、聞いてへんっっ!」
そう叫びながら、のろのろと俺たちの方へ走ってくる。
「はーーっ、弐十ちゃんッ…おったか……」
「なんか時差あるね」
「だまれ…ッ!」
ハアハア、と息を切らすしろせんせーを見て弐十くんが揶揄うように笑う。
「なんで墓地…?」
ニキくんが首を傾げてそう言う。
「んー…、それはまた後で話してあげるけど」
弐十くんが数秒黙って、覚悟したように口を開く。
「俺とトルテさん逃げるんだ」
「だから、ばいばい?かな」
そう言って、弐十くんが俺の肩へ腕を回す。
「え!?」
「逃げるって…」
「旅という名の、国外逃亡?」
弐十くんは、口の端をキュッと上げて笑う。
「なんで置いてくんだよ!」
「俺らも行くけど!?」
「え゛っ!?」
弐十くんが、予想外の返しに目を大きく見開く。
そんなこと言って黙って送り出してくれるような奴らだと思っていたのか。そんなことを思って、弐十くんに対して少し呆れる。
「当たり前だろ。こいつらだぞ。」
「え、でも…」
弐十くんが3人を見て、心配そうに話す。
「ニキくん、王子だよ?」
「こんな世界の王子やってらんないよ」
「せんせー、学校は?」
「ぶっ倒れたことにしてきたから、入院とか、死んだとか色々理由つけられるやろ」
「シードくんは…、お金」
「は?なんか俺だけ違くね??」
「しかも大丈夫……じゃねえ!」
「俺勝っとったのに姉ちゃんに渡しちゃったんだ!」
「何してんのwwww」
「いやキルくんが鬼焦りしとったから!!」
ギャーギャーと騒ぐシードを見て、みんなで揶揄うように笑う。
弐十くんは、ふぅっと一呼吸置いて、立ち上がる。それを合図に、俺も一緒に立ち上がる。
「…ありがとう」
聞こえるか聞こえないか、ギリギリの大きさで呟くが、俺にはしっかり聞こえていた。
「…そういえば、俺には心配してくれなかったね?」
「……トルテさんは良いかなって」
「は???」
「おっしゃ行くぞ!」
「は、おい待て!!」
弐十くんが墓地の出口へ走り出す。
それから着いていくように、皆も走り出す。
青空に、俺らの笑い声だけが溶けていく。
世界に、俺らしかいないかのように。
Fin
リューココリーネ
信じる心
黄色いカーネーション
友情
軽蔑
コメント
4件
ntさんの誕生日カウントダウン配信の前に見れてよかった… 🥹💖 ほんと 、 うまいよね … この後の展開でnkさんの家来達が探しに行くみたいな妄想しながら見てました 🤫

♡が210で止まってるから素敵すぎて押せなかった😍とても素敵なお話で読んでて楽しかったです!!