TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

母上の胸にナイフが刺さった。

ドレスに潜血が滴り、それが抜けた途端に血しぶきが飛び散る。

俺はその光景を見ていることしか出来なかった。

身体が動いたのは、グエルが脱力した母上をぽいっと捨てた時だ。

支えを失った母上の身体は地面に倒れる。

俺はそれを両腕で抱き留めた。


「母上! 母上!!」


俺は母上の胸、ナイフで刺された箇所を強く抑え、呼び続けた。

しかし、血はドバドバと俺の手から溢れてくる。

こんな時、兄さんだったらどうしただろうか。得意の回復魔法で、母上に傷を塞いだだろうか。

俺にはそんな高度な回復魔法、使えない。


「ブ、ルーノ……、ちゃん」


か細い母上の声が聞こえる。

うつろな瞳で俺を見ている。だけど、焦点は合っていない気がした。

ゆっくりと母上の手が伸び、それは俺の頬に触れる。

暖かい母上の手が、段々と冷たくなってゆくのを感じた。


「嫌だ、俺を置いて行かないでください! 一人にしないで!!」

「ごめんね……、私の――」


俺の瞳には涙が流れ、それは母上の頬に落ちる。

母上の最期の言葉、それは――。


「愛しい子」


俺への愛情の言葉だった。

その言葉を最後に、母上の身体は動かなくなった。

頬にあった腕はだらんと落ち、冷たくなってゆく。


「母上! ははうえ!! あああああ!!」


俺は母上の死に耐えきれず、その場で泣き叫んだ。


「もう少し使えたら生かしたものを」


グエルの冷たい言葉に、俺はきっと睨んだ。

グエルは母上の遺体を蔑むような目で見ていた。


「ソルテラ伯爵の妻だというから近づいたのに、何の情報も得られない役立たずだった」

「なら、どうして母上を抱いた!? 俺を造った!!」

「頭は悪いが、昔のスティナは顔と身体だけは極上だった」

「母上の気持ちを弄んだのか?」

「元々、俺はそういう任務に就いていた。この女が仕事に使えないなら、愉しむしかないだろう」

「お前の身勝手な行動で――」

「ああ、お前が産まれた。最高傑作がな」

「……」


この男の血が自分に流れているなど、吐き気がする。


「ブルーノ、お前には価値がある。魔力吸収量も並み以上で高度な攻撃魔法が扱えると聞く。お前なら、秘術を扱うことが出来るのだろう? そうローベルト・アレ・ソルテラに褒められたのではないか?」

「……母上から聞いたのか?」

「ああ。会うたびにお前の話を聞いた。あの女が役に立ったのはそれだけだ」


ローベルト・アレ・ソルテラ。前ソルテラ伯爵の名前だ。

父親だと思っていたのに。

あの人に褒められるのが好きだったから、兄さんと共に、魔法の腕を磨いたのに。

努力は全て無駄だったのか。

俺の心の中でどす黒い感情がぐるぐると渦巻いていた。


「秘術は今後、マジル王国で重要な戦術になる。オリバー・ソレ・ソルテラと共に保護すれば僕の功績になり、出世も間違いないだろう」

「……マジル王国? 兄さんと共に保護?」


グエルと言う男、怪しいと思ってたが、マジル王国のスパイだったとは。

言い分だと、秘術を放った兄さんはマジル王国の手にある。

俺も兄さんと同じ道を歩むことになるんだ。

俺にはエレノアから受け取った秘術が書かれた手記がある。彼女は「オリバーから頼まれた」と言っていた。

兄さんは、このような展開になることを知っていたのだろうか。

俺と血がつながっていないことを知っていたのだろうか。


「だが、お前は僕の息子だ。僕の技術を継承させる」


グエルはその場にしゃがみ込み、俺の頤をぐっと上げて、俺の顔をじっと観察していた。


「あの女の言う通り、若い頃の僕の面影がある。やっと、僕のものになった」

「……」

「ブルーノ、僕の息子。これから、共に暮らそう」


グエルは何故、微笑んでいるのだろう。

俺の腕の中にいる、母上はもう息絶えているのに。先ほど人殺しをした男の目ではない。

息子である俺を手に入れたのがよほど嬉しいようだ。


「人殺し! 俺はあんたを父親とは認めな――」


言葉の途中で、俺はグエルに頬を殴られた。

突然殴られ、俺は呆然とした。口の中が切れ、鉄臭い血の味が口の中にじんわりと広がる。


「これから、僕のことは『父さん』と呼べ」

「誰が――、ぐふっ」


グエルの意思と反する言葉を口にすると、再び頬を殴られる。


「まあ、十七年洗脳されていたんだ。これから少しずつ親子の時間を取り戻していこう」

「……っ!」


暴力を振るったというのに、平然と微笑んでいる。

グエルの態度に背筋がぶるっと震え、俺はこいつに恐怖を覚えた。


「とう……、さん」


逆らってはいけない。

これから俺はグエルに支配されるんだ。

俺は拒絶する気持ちを抑え、グエルに従った。


「ブルーノ、そのゴミから離れなさい」

「っ!」

「離れなさい」


母上の遺体を”ゴミ”と呼んだ。

侮辱だと感じ、俺はグエルを睨んだが、彼は強い口調で俺に言う。

逆らえばまた暴力を振るわれるだろう。

俺は仕方なく、母上の遺体から離れた。


「さあ、エレノアさまを連れ戻そう」


グエルは母上が指した壁の方へ近づく。

壁へ手を伸ばし、目標の人物、エレノアのいる隠し部屋へ入った。

loading

この作品はいかがでしたか?

120

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚