テラーノベル
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カーテンの隙間から差し込む朝の光が、部屋の空気をゆっくりとあたためていた。テーブルの上には昨夜の宴の名残——空になった缶と、お菓子の袋。
ソファでは、りうらが初兎の腕にぴったりとくっついたまま、穏やかな寝息を立てている。初兎はその状態のまま半分起きていて、ぼんやりと天井を見つめていた。
キッチンでは、ないことIfがコーヒーを入れていた。
「……で、結局あれって付き合ってんの? あのふたり」
ないこがマグカップを手に、ぽそっと聞いた。
「知らねぇよ。けど、あれはもう“ほぼ”って感じだろ」
Ifはカップにミルクを注ぎながら、微笑のようなものを浮かべる。
「初兎はさ、りうらに甘いの、ほんと無意識なんだよな。見てて恥ずかしいくらい」
「わかる。でもそれが逆に良いんだよなー。“気づいたらもう戻れない”ってやつ」
ないこはふたりのいるソファをちらりと見やる。りうらが初兎の肩に顔をうずめたまま、満ち足りた顔で眠っている。
「初兎、絶対今、内心めっちゃドキドキしてる。……つか、寝れてないだろ」
「……ほら、やっぱり起きてる」
Ifが呆れたように笑った。
「にしても、りうら、昨夜あれだけベタベタ甘えて、キスまでしといて……本人、覚えてんのかね?」
「さあ? でも……たとえ覚えてなくても、あの感じは無意識で“好き”が漏れてたろ」
ないこはひとつ大きく息をついて、マグカップを両手で持つ。
「……いいなぁ。なんかさ、素直になれるって、それだけですごいよな」
「お前が言うの意外だな」
「俺だって繊細な気持ち持ってんだよ。……ま、動画には撮ったけど」
「おい」
「うそうそ、保存だけしてロックかけた」
そんな軽口を交わしながら、ふたりはふたつの背中を見つめていた。
初兎は、そっとりうらの髪を撫でながら、小さく呟く。
「……お前、ほんと……ずるいわ……」
その声に、りうらが微かに反応して、さらに腕にぎゅっとしがみつく。
ないこがクスクス笑う。
「……ま、見守る側も悪くないよな」
Ifはその言葉に、珍しく素直に頷いた。
「うん。ちゃんと、あのふたりが幸せになるなら……見届けてやるのも、悪くない」
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