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***


(ホント、すっごく恥ずかしいこと、臆することなく言ってくれたなコイツ――)


店の前で苦笑いをした桃瀬たちと別れ、いつものように並んで自宅に帰る。心底呆れながら、右斜め後方にある顔を見上げてみると、窺うような視線とバッチリぶつかった。


「太郎、なんだよ、その顔は?」


まるでご主人に叱られて、しゅんと落ち込んでる飼い犬みたいに見える。


「タケシ先生、すっげぇ怒ってるでしょ? その……ちょろっと願望が、口から出ちゃったみたいな」

「怒るよりも呆れ果てたよ。涼一くんの愛の告白が、とてもかわいく思えたね」

「だってしょうがないだろ。ずっと、お預けをくらったままなんだからさ」


軽井沢の病院で、自分の気持ちを思いきって告げ、晴れて両想いになった俺たち。抱き合って見つめ合ったまま、胸に秘めた言葉を口にする。


『早く病気を治して戻って来い。首を長くして待っててやるから』

『わかった、約束する! タケシ先生を、最後の恋人にするために頑張るから……』


そして引き寄せられるように、ゆっくりと唇を重ねて、今まで離れていた寂しさを埋めるべく、互いを貪りあった。


太郎が――いや、歩が生きて俺を抱きしめている。それだけで心の底から、嬉しくて堪らなかった。


涙を必死に堪えていると、いつものように右目尻に優しくキスをされた。


「タケシ先生、そんな辛そうな顔すんなって。俺はこうして、ちゃんと傍にいるから」


――そんなのわかってる……そう、口に出したかったのに、それすらも胸が絞られる痛みのせいで、まったく言葉が出てこない。素直なセリフを言えないことが悔しくて、下唇を噛みしめながら歩に抱きつくと、そのままベッドに押し倒されてしまった。


「俺が生きてる証拠、教えてやるよ。タケシ先生……」


耳元で甘く囁かれる言葉に、ぶわっと頬に熱を持つ。


「だからってそんなに下半身、押しつけてくるな。もう充分にわかったから」

「物欲しそうな顔しながら、そんなこと言っちゃって。俺自身を直接感じられて、すっげぇ嬉しいでしょ?」


少し掠れた声で優しく告げるなり、耳朶を甘噛みする。


「……っ、やめっ……病室なんてリスキーな場所で、そんなこと……できるワケがないだろ」

「だからヤるんだよ、ワクワクするし」


ヤル気満々の歩が、シャツに手をかけたタイミングで病室の扉がノックされ、慌てふためいた俺は、誤って目の前にある頭と、勢いよくぶつかってしまった。


「いった~……」


頭を抱え、うずくまる太郎にガバッと布団を被せると、傍にあった椅子に座り、何事もなかったようにうまく装ってみる。


「失礼します、検温の時間です……ってあら、どうしたのかしら?」

「ああ、少し前から頭痛がしていたみたいです。もう治まってきたよね?」


苦笑いして布団の中を覗きこむと、俺の顔を涙目でギロリと睨む太郎。


「突然すみません。私、地元で王領寺歩くんの担当医をしておりました、周防武と申します。こちらの病院の担当の先生に、お話を是非ともお伺いしたいのですが――」


あらかじめ持参していた名刺を素早く取り出し、押し付けるように看護師に手渡すと、さっきの俺みたいに見事慌ててくれて、すぐさま担当医を病室に連れて来てきた。


そのあと、いろいろ話し込んでいたら、入れ替わり立ち代り看護師が入って来ては、太郎の血圧測定や包帯を取り替えたり、果てはお茶を持ってきてくれたりと、ずっと病室内はバタバタしっぱなし。


退院後は学業復帰など太郎本人も忙しく、やっと逢えたのが今日で。ふたりきりになったのは、本日がはじめてだったのである。


なので太郎がずっと、お預けを食らったままというのは事実だった。まぁ実際俺も、お預けを食らっていることになるんだけどな。


――悔しいから絶対に、コイツには言ってやらないけど。


「そんなことよりもおまえ、きちんと授業についていけてるのか? 体よりもそっちが、俺の中では心配になってきた」


渋い顔を決め込み、太郎にわざわざ訊ねてしまったが、俺の心配をまったく感じていないのか、ケロッとした表情で返事をする。


「確かに学力は優秀じゃないけど、それなりになんとかなってるって」

「ホントか? バカに毛が生えた程度じゃないのか?」

「あのさ、愛しの恋人に対してタケシ先生の発言は、かなり問題ありじゃね?」

「愛しの恋人だからこそ、真剣に心配してやっているんだ。ありがたく思えよ」

「心配しているのなら、普通はわからないところがあれば、手取り足取り優しく教えてやるぞ。って言うトコじゃねぇの?」


口を尖らせて、次々と文句を言い放つ太郎を、ジト目で睨んでやった。

恋わずらいの小児科医、ハレンチな駄犬に執着されています

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