「宝石を拾ったよ!」
そんな言葉から始まる会話は
不思議と長く続いた
「宝石を拾ったよ!」
もちろんここは都会の真ん中
宝石なんてあるはずもない
「そんなことない!」
「だって、ほら!」
君の手の中にあったのは、灰色の
ただの石だった
僕は首を傾げた
ただの石はキラキラ輝くことも無く
ただ君の手の中にあった
「キレイでしょ?」
僕はさらに分からなくなった
キラキラしていない宝石なんて
ないと思っていたからだ
「これね、実は」
「君の目の色とそっくりなんだよ」
すごい秘密が出てくるのかと思ったら
案外しょぼい理由だ
「しょぼくない!」
僕の目の色の石
それで何になるのか
「別にどうもしないけど」
「君の目の色は、綺麗な灰色だよ」
その灰色をただの石で表すのは
普通に悪口だと思う
せめて、もっと綺麗なものを
拾ってきて欲しかった
「それは、そうだけど」
「君の目は綺麗な灰色で」
「その灰色を表せるこの石も」
「とても綺麗だと思ったから」
「だから、宝石」
そういうものなのだろうか
だとしたら宝石の価値はとても低い
「はい」
君は僕の手に石をのせた
「これあげる」
これは僕には似合わない
僕そっくりなものを
僕が持っていたって
ただのナルシストだ
「たしかにw」
「でも、これは僕の宝物」
「だから君が持っててよ」
大切なものを
僕に渡す意味がわからなかったが
僕は仕方なくその石を握りしめた
「気に入ったんだね」
別にそういう訳では無いが
僕は道路脇に綺麗な黒い石を見つけた
僕はその石に駆け寄り
君に渡した
「これは?」
それは君にそっくりな綺麗な黒
「僕にくれるの?」
キョトンとした顔が面白かったが
それは言わないでおこう
僕は頷き、君はこう言った
「20歳になったらこの石を持って」
「お酒でも飲もうよ」
僕はいい考えだと
すぐに頷いた
20歳が楽しみで仕方がない
数年後
「ほら、持ってきたよ」
「黒いただの石」
「お前が約束したんだろ」
そう独り言のように言い
僕の目にそっくりな
灰色の石の墓の前で
君と2人で
酒を飲む
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は?エモ