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春が終わるころ、
スタジオには静けさだけが残っていた。
元貴が消えて数カ月が経った。
ギターケースの横に、
元貴のマイクが置かれている。
誰も触れられないまま、
ただそこに在り続けていた。
俺は毎日、同じ場所に座って弦を弾いた。
けれど、どんな音を鳴らしても、
「違う」って感じた。
音が軽い。
空気が足りない。
あいつの声がない。
「元貴の声が、ないと駄目なんだよ」
思わず呟いた声が、空っぽの部屋に溶けていった。
涼ちゃんは黙ってピアノを弾いていた。
その指先は震えていたけれど、
俺を励ますために我慢しているのはすぐ分かった。
彼の音だけが、
まだ“続ける理由”みたいに優しかった。
「若井、止まると余計に痛くなるよ」
そう言って、静かに笑った。
俺は何も言えずに、ただ頷いた。
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