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元貴が練習室の扉を出る涼ちゃんにまた、「ねえ……」と声をかけたその時、
涼ちゃんはいつもの柔らかい返事ではなく、ふいに強い口調で返してしまった。
「なに?」
その言葉には苛立ちと、抑えきれない本音がにじんでいた。
「あ……ご、ごめん」
元貴が思わず慌てて謝る。
だが、涼ちゃんはそのまま、絞り出すように言う。
「そうやって無駄に気を遣うの、やめてよ。ぼく、そういうのされる方が余計に苦しいから。」
言い終わると涼ちゃんは扉をバタンと開けて、廊下へ飛び出していった。
「あ……涼ちゃん、ちょっと待って!」
元貴の呼び止める声にも、涼ちゃんは一度も振り向くことはなかった。
部屋にはぽつんと元貴が取り残される。
「なんで……」
手をのばすこともできず、元貴は呆然とその場に立ちすくんでいた。
涼ちゃんの怒りと悲しみがいまになって、ようやく理解できそうになったその瞬間だった。