「『杏』に通いだして、体重が増えないように気にしてはいた……」
「そうですよね。パンは結構カロリー高いですから」
この完璧に見える身体で、さらに体重を気にするなんて、いろいろ努力してるんだな。
確かに、これだけのイケメンが太ってお腹なんか出てたらちょっと引いちゃうかも。
「それもあるけど、昔からパンはあまり食べたことがなかった。どちらかというと苦手だったかも知れない」
「えっ、そうなんですか!? だったら急にパンが好きになったとか?」
嘘みたい……ちょっとした衝撃。
でも、あんこさんのパンだから好きになれたのかも知れない。
それなら納得できる。
「まあ、そうかもな。雫も一緒にジム行く? 会員制だけど俺の紹介なら入れるから。今度、時間を作るから2人で行こう」
えっ、私、今、ジムに誘われた?
嘘でしょ……榊社長と2人で?
何かの間違いかと頭をフル回転させてみた。
だけど、どう考えてもさっきの言葉を要約すると「榊社長と私の2人でジムに行く」ってことになってしまう。
「あと、これから『杏』のパンを会社以外にも届けてほしい」
「えっ、会社以外というと……ど、どこにですか?」
「俺のマンション。あそこはここより近いだろ?」
お、お、俺のマ、マンション?!
この前バッタリ会ったあの豪華なマンション?
「あの、すみません。個人のお宅には配達してないんです。店長に聞いても、それは無理だと……」
「店長さんには聞かなくていい」
「で、でも、私が勝手に決められません」
「仕事が終わってれば、店の仕事じゃなくなるだろ?」
引き続き、頭が回らない。
さっきから何を言ってるんだろう、この人は。
「雫が仕事終わりか、休みの日に俺のマンションに来てくれればいい。2人の時間を合わせて。もちろん、パンの代金と配達料金は支払う」
「いや、ちょっと待って下さい。そんなこと急に言われても困ります」
「嫌なのか?」
仕事以外で、私が付き合ってもいない男性の部屋にパンを届けるんだよね?
そんなこと、何か変だよ。
その時、ノックの音がしてドアが開いた。
「お待たせして申し訳ありません」
そう言いながら、前田さんが入ってきた。
もう1人の人と2人で榊社長の食事の支度を始めた。
テーブルに置かれるパンと……これはロイヤルミルクティー?
私の大好物だ。
紅茶とミルクが程よく混ざった、ほんのり甘くて優しい香りがする。
「あ、じゃあ、私は失礼します」
ソファから立ち上がろうとしたら、
「お待ちください。美山様の分もご用意させていただきますので」
前田さんがニコッと笑った。
「い、いえ、私は……」
「このロイヤルミルクティー、最高級の茶葉とミルクを使っています。ぜひ召し上がってみて下さい」
そんな……
紅茶好きとしては、最高級の茶葉なんて言われたら興味津々だよ。
今逃したらもう一生飲めないかも知れない。
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