テラーノベル
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続き〜
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目を覚ましてから、ずっと体が硬い。
ここは、知らない天井。
知らない匂い。
でも、不思議と息はできている。
「……あ」
声が出た瞬間、喉が縮こまった。
「おr……」
言い間違えた音が、頭の中で響く。
【主様】
「……起きました」
誰に向けた言葉でもないのに、敬語が出る。
否定されないための癖。
コンコン、と控えめなノック。
【???】
「失礼いたします」
扉の向こうから、落ち着いた声がした。
【主様】
「……どうぞ」
入ってきたのは、昨日名乗った執事——ベリアンだった。
【ベリアン】
「体調はいかがですか」
距離を保ったまま、彼はそう聞いた。
近づいてこない。
覗き込まない。
それだけで、胸の奥が少し緩む。
【主様】
「……問題、ありません」
【ベリアン】
「そうですか。では、皆にご挨拶を」
“皆”。
その言葉で、背中が強張る。
人が増えるのは、怖い。
大広間には、すでに何人かの執事がいた。
視線が集まる。
——評価される。
——間違いを探される。
反射的に、頭を下げた。
【主様】
「はじめまして。……おr、じゃなくて……」
声が詰まる。
スゥーハァー(深呼吸)
小さく深呼吸をして心で構えた、
【主様】
「……私は、藍斗と申します。よろしくお願いします」
誰かが笑うかもしれない、と思った。
けれど返ってきたのは、穏やかな声だった。
【執事たち】
「よろしく」
「ようこそ」
「無理しなくていいのですよ」
短く、余計な感情を乗せない挨拶。
その中で、一人だけ、じっとこちらを見る視線があった。
——ルカス。
鋭いわけじゃない。
でも、何かを量るような目。
【主様】
「……?」
視線に気づくと、彼はふっと目を逸らした。
【ルカス】
「……失礼」
それだけ。
なのに、胸の奥がざわつく。
——気づかれた?
——何か、変だって?
昼過ぎ、別の執事が声をかけてくる。
【フェネス】
「お風呂の準備が整いました」
【主様】
「……ありがとうございます」
断る理由を探したけれど、見つからなかった。
湯気の立つ浴室は、静かだった。
誰も急かさない。
時間を測られない。
着替えて、部屋に戻る。
扉を開けた、その瞬間。
「……っ」
(心の中:包帯、しとけばよかった、)
フェネスが、視線を外すのが一瞬遅れた。
ほんの一瞬。
それだけで、分かってしまう。
——見られた。
体が冷える。
心臓が早くなる。
【主様】
「……申し訳ありません」
理由も聞かれないうちに、先に謝る。
【フェネス】
「いえ」
313
慌てた様子もなく、深く頭を下げる。
【フェネス】
「無礼でした。どうか、お気になさらず」
追及しない。
説明を求めない。
それでも、呼吸が浅くなる。
——落ち着け。
——大丈夫。
指を握って、ゆっくり数を数える。
……少しずつ、戻ってくる。
その様子を、廊下の影から見ていたのはルカスだった。
【ルカス(心中)】
(……やはり、何かを抱えている)
夜。
ベリアンが静かに告げる。
【ベリアン】
「一つ、お伝えしておきます」
俺は、反射的に背筋を伸ばす。
【ベリアン】
「ここでは、一人称に決まりはありません」
【主様】
「……?」
【ベリアン】
「俺でも、私でも。言い直さなくていい」
言葉が、胸に落ちるまで時間がかかった。
【主様】
「……努力、します」
【ベリアン】
「努力しなくていいのです」
【主様】
「…ッ」
(心の中:信じても、いいの、?ここで慣れたら、、あっちで言われない、?)
その夜、俺は少しだけ眠れた。
“ここにいていいかもしれない”
そう思えた、最初の夜だった。
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