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部屋番号は間違えていなかった。私は招かれて、タオルと頭痛薬を受け取り、薬が効くまで時間を潰した。その間に、その青年がアキさんということ、私の叔父、亮介くんの同居人であることを聞いた。
「なにそれえ。体調不良で早退したくせに、羨ましい」
奏美が不満げな声を上げる。クラスメイトが一斉にこちらを向いた。
体験を人に話したくてたまらなかった私は、翌日の朝すぐ友人を呼び集め、いかにアキさんがきれいだったかを我が物顔で自慢げに語った。困ったような眉のすぐ下、伏せて少し重めなまぶたにくっきりした二重が目尻に向かって筆で描いたようになめらかに消え、宝石のような大きな目がはまり、長い睫毛が囲っている。高い鼻に、薄く、中心がすこし持ち上がった唇。顎の線は細くやせていて、その線の先にあるうなじに染めたようなオリーブ色の髪が触れていた(地毛らしい)。長めの前髪を顔を振ってよける仕草がとても絵になる。不健康なほど白い肌に包まれた手首や指は細く骨張っていた。黙っていれば近寄りがたいツンとした雰囲気を纏っているが、その実話すと口角を柔らかく持ち上げて、和やかな優しさを見せる。歳は23だと言うが、少し子供のような無邪気さすら感じた。こっそり盗撮していた私は、友人らの眼前に美しい横顔を写すスマホを掲げた。
「マジじゃん、イケメンすぎ」
「エプロンとかエロくない?」
響子の一言にエロいエロいと同調が広がる。下品だが、確かにと思ってしまった私も同罪である。奏美が突然はっとして、にやけながら身を乗り出した。
「それで、どうすんの?終わり?」
「そりゃもちろん、お近づきになるつもりだよ」
「どうやってよ」
鞄から折り畳み傘を取り出し、さながら印籠のように突き出した。拍手が巻き起こり、またもやクラスの注目を集めてしまった。
口実など簡単に作れる。傘を返した後の計画はできていないが、二回目の壁さえ越えれば己の図々しさでなんとかなる。コミュニケーション能力については並々ならぬ自信があった。初対面としては上々の好感度だったはずだ。(体調を崩していた同居人の姪っ子という強力な肩書きについては、触れないでおく。)
これは持論だが、イケメンに興奮している女子高生と、アイドルに熱狂するおじさんは、同類の存在だと思う。あの頃を思い出す度に、苦々しさを感じる。