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銀の弦と琥珀の瞳

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銀の弦と琥珀の瞳

5 - 第5話

♥

82

2026年02月12日

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「……死んでも渡さねえよ。

こいつは、俺たちの『光』なんだ」










​若井は元貴を背中に庇い、剣を構えた。

行く手を阻むのは、銀の仮面の男に従う三人の刺客。


背後からは、あの忌まわしい「銀の鈴」の音が、執拗に元貴の精神を削り取ろうと鳴り響いている。


​「あ……、はぁっ……! やめて、音が、……色が消える……っ」


元貴は地面に膝をつき、自分の黒い猫耳を千切らんばかりに強く押さえていた。

獣人にとって、鋭すぎる聴覚は時に最大の弱点となる。

鈴の音は元貴の脳内で嵐のように荒れ狂い、視界を灰色に染め上げていく。


​「元貴、耳を塞いでろ!

オレの背中から離れるな!」


若井が叫び、先頭の刺客の剣を弾き飛ばした。しかし、多勢に無勢。

若井が一人を退けている間に、別の刺客の刃が若井の肩をかすめた。


​「滉斗!!」


その時、路地の向こうから鋭い叫び声が響いた。


涼ちゃんだ。彼は仮面の男を振り切り、こちらへ駆けつけてきた。


​「涼ちゃん、無事だったか!?」


「うん、なんとかね! 滉斗、伏せて!」


​涼ちゃんがフルートを横笛ではなく、まるで指揮棒のように一振りした。


すると、路地に溜まっていた冷たい夜気が一気に渦を巻き、刺客たちをなぎ倒した。

涼ちゃんの奏でる音楽には、わずかだが自然の精霊を動かす力が宿っているのだ。


​「……はぁ、はあ……。滉斗、元貴を連れて早くこの街を出よう。

あの男、ただの賞金稼ぎじゃない。この国の『典礼局』の人間だ」


​典礼局。それは、獣人の「呪歌」を管理・抹消することを目的とした、国家直属の組織。


彼らに目を付けられたら、もうこの街に安全な場所はない。


​若井は傷ついた肩を無視して、震える元貴を抱き上げた。


「……元貴、大丈夫か? もうすぐここを離れる。俺を信じろ」


​「……わか、い……。

……ごめん、なさい……。

僕のせいで、二人が……血が……」


元貴の琥珀色の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

自分の存在が、大好きになった二人の命を脅かしている。

その罪悪感が、鈴の音よりも鋭く元貴の心を刺していた。


​三人は闇に紛れ、町の外れにある廃屋へと逃げ込んだ。


若井が荒い息を吐きながら壁に寄りかかる。肩からはじわりと赤い血が滲んでいた。


​「滉斗、見せて。

……っ、結構深いじゃないか」


涼ちゃんが慌てて救急箱を取り出す。


「いいよ、かすり傷だ。

それより元貴だ。……元貴、こっちにおいで」


​若井が呼びかけるが、元貴は部屋の隅で丸くなり、猫耳を力なく伏せたまま動こうとしない。


「……触らないで。

……僕はやっぱり、呪われてるんだ。

僕と一緒にいたら、二人ともいつか本当に死んじゃうよ……」


​元貴の声は、絶望に震えていた。


その時、若井は痛む肩を引きずって、無理やり元貴の目の前まで這っていった。


そして、血の付いていない方の手で、元貴の黒い髪と、その間から覗く猫耳を力いっぱい、けれど優しく包み込んだ。


​「……馬鹿野郎。誰が呪われてるって?」


若井の低い声が、静かな部屋に響く。


「俺は、お前の声に救われたんだよ。

あの森で、お前の歌を聴いた瞬間に……俺の止まってた時間が動き出したんだ」


​「涼ちゃんだって、そうだろ?」


若井が振り返ると、涼ちゃんも優しく頷いた。


「そうだよ、元貴。

僕たちはね、君を守ってるんじゃない。

君の音楽と一緒に、新しい世界に行きたいんだ。

……三人で、音楽を作ろうって決めたじゃないか」


​若井は元貴の顔を上げさせ、鼻先が触れそうなほど近くで見つめた。


「いいか、元貴。

お前の耳も、その声も、全部俺たちが守る。

だから、自分を嫌いになるなんて、二度と言うな」


​元貴の琥珀色の瞳に、若井の真っ直ぐな意志が映り込む。


「……若井、……涼ちゃん……」


​元貴は、若井の胸に顔を埋めた。


黒い猫耳が、微かに若井の顎をくすぐる。


「……ゴロゴロ……」


恐怖と罪悪感で凍りついていた元貴の喉が、再び小さな音を立て始めた。


​「……わかった。……僕、もう逃げない。

……あの鈴の音に、負けないくらいの歌を……いつか、歌うから」


​その時、元貴が持っていた未完成の楽譜のノートに、一筋の光が走った。


まだ何も書かれていなかったはずの空白のページに、微かな、けれど力強い「音符」の形が浮かび上がっていた。


​それは、三人が初めて「一つの運命」を共有した瞬間の、魂の旋律だった。

銀の弦と琥珀の瞳

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コメント

2

ユーザー

初コメ失礼します、! めちゃくちゃこの物語好きです!!文章力も凄くて情景がどんどん伝わってきます🥲🥲🥲 これからも応援させてください!!!!

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