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西遊記龍華伝

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西遊記龍華伝

90 - 経文を求め、悟空を求め

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2023年06月04日

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源蔵三蔵 二十歳

黒風達と合流した俺達は、ひとまず空き家に入った。

妖達が手際良く暖炉の用意をしていた。

「あ、あの…。悟空さんは…?」

「悟空はいない、丁達と行っちゃったんだ。」

「え、え!?ど、どう言う事ですか?」

俺は黒風に事の経緯を説明した。

「そ、そんな事が…。」

「俺達は悟空の後を追うつもりだ。黒風、お前なら悟空の居場所を突き止められるんじゃないか?」

「は、はい。調べてみます。」

沙悟浄の言葉を聞いた黒風は、天地羅針盤(テンチラシンバン)を取り出した。

天地羅針盤に様々な色の光の線が現れ、一際に目立つ色があった。

真っ赤な光が東へとゆっくり進んでいた。

「この辺りに悟空さんはいます。どこへ向かっているんでしょうか…。」

「この辺りの事は知らねーからなぁ。」

「悟空さん…いや、美猿王さんは何か考えがあって動いているに間違いないですね。確か、この辺りは宝象国があります。もしかしたら、ここに向かっているかもしれないですね。」

沙悟浄と黒風の話を黙って聞いていると、陽春が声を掛けて来た。

「な、何?」

「アイツがいなくなって、寂しいわねぇ。」

「は、はぁ?」

「手も足も出なかったんだって?美猿王に。」

陽春は馬鹿にした口調で話し出した。

「お前なぁ…、何が言いたいんだよ。」

「あれは異端な存在だわ。」

「異端…って、美猿王の事を言ってるのか?」

「あんなの見た事ないわ。今でも手が震えてるもの、美猿王のオーラにやられてね。」

カタカタと陽春の手は小刻みに震えていた。

「俺達も、遠くから君達を見てたんだ。あの時に会った彼とは別人だったから、驚いたよ。」

「緑来…、どこから見てたんだよ。」

「俺は煙に化けれて、陽春は影になれるからね。頭の様子を見に行ったら、凄い事になってたね。」

「あぁ…、言われてみればそうだったな。あ、それより、黒風は俺達に急ぎの要件があったんじゃないのか?」

緑来と陽春の会話を終わらせ、俺は黒風に尋ねた。

「は、はい。次の経文の居場所が分かったので、悟空さんにお伝えしようと思って…。その場所が、宝象国なんです。」

「え!?じゃあ、美猿王も経文を狙ってるって事か!?」

黒風の言葉を聞いて驚いてしまった。

「美猿王さんは、頭が良い方ですから…。もう一つ、この黒い光は牛魔王さんの物です。2人は別の方角から、宝象国に向かっています。」

「牛魔王の事だから、経文を狙ってる可能性が高いね。」

「猪八戒さんの言う通りなんです。宝象国には、もう一つ都があるんです。」

「都がもう一つ?」

そう言って、俺は黒風に尋ねる。

「はい、それは花の都です。」

「花の都…って、花妖怪がいる都よね?」

「そうです、陽春さん。そして、そこに経文があるんです。」

トントンッ。

「「「っ!!?」」」

黒風達と話していると、扉がトントンッと叩かれた。

俺達は武器を構えて、扉をジッと見つめた。

誰だ?

このタイミングで、扉を叩いて来るなんて怪しい…。

沙悟浄がゆっくりと扉に近付き、声を掛けた。

「誰だ。」

「あ、わ、私です、水元です!!」

「水元?!」

「三蔵の知り合いか。今、開ける。」

ギィ…。

扉が開かれると、お師匠と水元が立っていた。

「どうしたんだ?それに、良く場所が分かったな…。」

「これだけ妖が集まってれば、分かる。お前に文が来ていたのを忘れていてな?届けに来たんだ。」

「文って、誰から…?」

俺はお師匠から文を受け取り、内容を読んだ。

「源蔵三蔵殿、貴方様に妖怪討伐の依頼をしたいと思いますって、国王からの依頼だと!?しかも、宝象国の!?」

「「「えぇぇぇぇ!?」」」

俺の声を聞いた沙悟浄達も驚いていた。

「おいおい、このタイミングで国王からの依頼って…。」

「アンタって、運が良いのね…。」

猪八戒と陽春が俺の後ろから、文を読んでいた。

「良く分からんが、王様からの依頼で良かったな。」

「俺達、これから宝象国に行こうって話してたんだよ。あ、国の入国許可証もあるじゃん。仕事が早いな。」

文の後ろに、入国許可証の書類と印が押されていた。

「じゃあ、俺達は寺に戻るから。」

「ありがとう、お師匠。」

「体には気を付けて下さいね!!ちゃんと食事と睡眠を取って、それから…!」

水元は更に言葉を続けようとしていた。 「分かった、分かったってば!!水元、うるさいって!!」

「うるさいって、何ですか!!僕は真剣に言ってるんですよ!?」

「はいはい、分かりましたよ。」

「本当に分かっているんでしょうね…。じゃあ、僕達は失礼します。」

「気を付けてな。」

俺は外に出て、お師匠と水元を見送った。

「ひとまず、飯にするか。お前等、手伝えよ。」

「「はい、頭!!!」」

沙悟浄がそう言うと、妖達は大きな声で返事をした。

「頭!!材料を持って来ます!!」


「おう、頼んだ。」

「頭!!これは食えますか!?」

「それは毒草だから食えんぞ、置いて来い。」

「分かりました!!」

「あんな厳つい妖怪が子供みたいに見える…。沙悟浄は昔から世話するの上手いからなぁ…。」

沙悟浄の様子を見ながら猪八戒が呟いていると、沙悟浄に声を掛けられた。

「お前も手伝うんだよ、猪八戒。」

「え?お、俺?」

「当たり前だろ?働かざる者、食うべからずだ。ほら、野菜の皮を剥け。」

「うげぇ…。」

猪八戒は嫌々ながらも野菜の皮を手際良く剥き始めた。

和気藹々(ワキアイアイ)としている中で、1人だけ浮かない顔をしている男がいた。

黒風は天地羅針盤を見つめながら小さな声で呟いた。

「僕は…、僕は…。美猿王さんも、許してくれた悟空さんも…。どっちも大切だ。だけど…、美猿王さんの道を阻むのは、違うんじゃないか…。」

「黒風?どうしたんだ?顔色、悪いよ?」

俺は黒風の顔を見ながら、話をした。

「さ、三蔵さん!?い、いつからここに!?」

「いや、さっきだけど…。」

「そ、そうですか…。な、何でもありません。」

「そう?なら、良いんだけど…。」

「おーい、三蔵!!ちょっと、こっちに来てくれ。」

沙悟浄が台所から俺を呼ぶ声が聞こえた。

「分かった!!黒風、後でな。」

「は、はい。」

黒風を残して、台所に向かった。

この時の俺は、黒風が悩んでいる事に気が付かなかった。

気付いていたら、あの状況を止める事が出来たかもしれなかったのに。


牛魔王邸ー

「ゴホッ、ゴホッ!!!」

「哪吒!?大丈夫か!?血、血が…っ。」

咳き込む哪吒の口から血が吐き出された。

隣にいた石は哪吒の体を支えて、ゆっくり歩いていた。

「へ、平気だ。」

「平気な訳ないだろ。少し、休もう。」

「時間がない、早く追い掛けないと…。」

「駄目だ、牛魔王が行ってるんだ。大丈夫だ。」

「大丈夫?何がだ。」

パシッ。

哪吒はそう言って、石の手を払い除けた。

「この体の限界が近付いている。それは自分自身がよく分かってる。だからだ、壊れる前に…。」

「悟空に会いたいんだろ、哪吒。」

石は哪吒の顔を見ながら言葉を続けた。

「哪吒が悟空を好きなのは分かってる。そこまでして、アイツに会いたいのか!?僕は、君が心配なんだよ。お願いだから、僕の言葉も聞いてよ…、哪吒。」 「こうする価値はあるんだ、あの人には。あの日、水槽の中で見つけたあの人から目が離せなかった。僕は…、あの人に殺されたいんだ。」

「どうして…?僕の方が君の側に居た筈だろ?哪吒…、分からないよ。」

「僕の側に居たいなら、黙って居ろ。お前のご機嫌を取る為に僕はいないよ。」

哪吒の言葉を聞いた石は、言葉を失った。

「哪吒、それはないんじゃないの。」

「紫希、お前には関係ないだろ。」

「石はアンタを心配して言ってんのよ?少しは耳を傾けてたらどうなの?」

「そうそう、倒れられたら僕も困るからね。」

紫希の後ろから現れたのは、風鈴と北球だった。

「そ、そうだよ。哪吒、石の言う事を聞いて…。」

北球の言葉を聞いた哪吒は、溜め息を吐いた。

「はぁ、分かった。」

「行こう、哪吒。部屋まで送るよ。」

「好きにしろ。」 石は哪吒の体を支えながら、長い廊下を歩いて行った。

「石って、何で哪吒が好きなんだろ。あんな事、言われても。」

「さぁ?仕方ないんじゃない、毘沙門天様にそう作られたんだから。哪吒に絶対忠実な人形として。僕達よりも強いだけさ、気持ちがね。」

「ねぇ、風鈴。自由になりたいって思った事はないの。」

「え?何、急に。」

紫希は髪を弄りながら、言葉を続けた。

「真秋が死んで、思ったのよ。私達、このままで良いのかなって。」

「どうする事も出来ないよ。僕達は夢を見ちゃいけないんだ、毘沙門天様がそう言ってたろ。戦をする為に僕達は作られ、吉祥天様の人形として死ぬ。この世は誰かの死の上でしか生きられない。それは人でも妖でもね。」

風鈴はそう言って、廊下を歩き出した。


天界ー

神々を集めて大きな会議が行われていた。

それは天界にとって、異形な役職の付いた妖が現れたからだ。

「観音菩薩!?今、何と申しましたか!!?」

「羅刹天に神獣(シンジュウ)の役職を与えるのですか!?」

*神獣 概要 神力等を持った特別な獣であったり、自身が神であったり、神から生まれたもしくは神の子の幻獣であったり、または神の使いだとする場合もある。 聖獣にも該当する。*

神々達が次々に観音菩薩に抗議を始めた。

「此奴は妖ですぞ!?しかも、鳴神まで正式に神として移籍させるですって!?」

「天帝がお眠りになっている間に規則を変えるつもりですか!?」

「あぁ、そうだ。規則を変えなければ近い未来、天界は破滅する。」

「「「「なっ!?」」」

観音菩薩の言葉を聞いた神々は、驚いた。

「か、観音菩薩、それは本当ですか?」

「毘沙門天が吉祥天を呼び起こした。これは、神としてやってはいけない禁忌を犯した。さらに、下界の人々を殺し周り、妖怪人間を次々に生み出している。毘沙門天を止めるには、新しい神獣、新しい神を誕生させるべきだ。鳴神引きいる飛龍隊は、かなりの戦力になる。それは羅刹天も同じだ。妖だから裏切る?それは神も同じだろう。」

「毘沙門天を殺せるのは、俺だけだろ。神どもよ、お前等が産まれて来れたのは伊邪那美命のお陰だろ。勘違いすんなよ、お前等。」

鳴神はそう言って、神々を睨み付けた。

「毘沙門天の思惑を止めようとしているのは、僕達だけじゃない。」

「観音菩薩だけじゃない?それは…、誰の事を言っているのですか…?」

「三蔵一行の4人だ。天界の運命を握っているのは、この4人だ。彼等は世界の命運すらも握る旅路をしている。」

観音菩薩は更に言葉を続ける。

「僕は、毘沙門天を止め天界を新たな世界にする。誰も争わない、誰もが平等に生きる世界に。毘沙門天のような神をもう、産み出さない為にもだ!!」

「観音菩薩がこう言ってんだろ、お前等はどうすんだ。」

明王は神々を見ながら言葉を放つ。

「分かりました、観音菩薩の提案を受け入れましょう。天界の未来が掛かっているのですから…。」

「我々は何をすれば、宜しいのですか?観音菩薩。」

「ありがとうございます。」

天界では、毘沙門天を止めるベく神々達が協定を結んでいた。

観音菩薩引きいる如来達は、神々達の上に立ち指示をする事になった。

そして、神獣となった羅刹天は神と同じ扱いを受ける事になり、鳴神は正式に神として天界に席が用意された。

はたまた、毘沙門天と吉祥天は鈴玉の体を使って新たな、妖怪を生み出していた。

同じ時間で、観音菩薩と毘沙門天は新たな計画を立て、動き出していたのだった。


孫悟空ー

目を開けると、真っ赤な檻の中で手足を手錠で拘束されていた。

「ここは…、美猿王の結界の中か?」

床に視線を向けると、美猿王と丁達の姿の映像が流れている。

「丁達と他にいるのは…、天邪鬼!?昔、喧嘩を売って来た奴等じゃねーか。どうして、いるんだ?」

美猿王が呼び出したのか?

一体、どうやって…?

カチャッ、カチャッ、カチャッ!!

「ッチ、頑丈過ぎるだろ!?美猿王の野郎、強力な術を掛けやがって。」

寝ている間に爺さんの夢を見た。

花の都に行った時の事を話していて、俺に何か伝えたそうだった。

「美猿王の話を聞くと、花の都に向かってるな。俺に懐いていたガキって、誰の事だったか…?」

500年前の出来事なんて、あやふやな部分が幾つかある。

「ヒック、ヒック…。」

子供の泣き声が聞こえて来た。

目の前に突然、小さな男の子が現れた。

「何で、こんな所にガキが?」

「お父さん、お父さん…。何で、何で、俺の事を信じてくれないんだよ。」

ゴゴゴゴゴゴゴッ。

男の子の後ろから大きな黒いモヤが現れ、男の子の表情はどんどん歪んで来た。

このガキ…、牛魔王に似てる。

「まさか、牛魔王なのか。」

「お父さんを取った、お前を許さない。」

ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

黒いモヤが大きくなり、黒い何かが俺の方に伸びて来た。

「何で、俺を殺したんだよ。お父さん。」

「殺した…って、爺さんの事を言ってんのか!?答えろ、牛魔王!!!」

「あぁ、殺したさ。」

「っ!?」

黒いモヤが喋ったのか?

「お前は須菩提祖師を知らない。奴がどんなに酷い奴だったか。」

「何、言って…っ。グハッ!!!」

言葉を放とうとしていると、黒いモヤが俺を飲み込んだ。


翌朝、三蔵達は白虎嶺を発つ支度をしていた。

「頭、何かあったらまた来ますから。」

「おう、ありがとうな陽春。お前等も黒風の仕事を手伝えよ。」

「「「分かりました!!!」」」

沙悟浄は陽春達と談話している中、猪八戒は黒風に声を掛けた。

「黒風、お前も無茶すんなよ。」

「は、はい。ありがとうございます、猪八戒さん。」

「三蔵、支度は出来たか。」

「大丈夫だよ。じゃあ、行こうか。」

荷物を持ち、防寒着を着た三蔵は猪八戒達の元に向かった。

「うしっ、宝象国に向かうか。そこに悟空もいるからな。」

「うん、早く迎えに行こう。経文もそこにあるしね。黒風達もありがとうな、また何かあったら教えてくれ。」

沙悟浄と話を終えた三蔵は黒風に言葉を投げ掛けた。「はい、分かりました。三蔵さん、気を付けて下さい。」

「分かった、じゃあな。」

三蔵は黒風達に別れを告げ、白虎嶺を後にした。

こうして、三蔵一行は悟空を追い掛ける為に宝象国に向かったのだった。

新たな企み、新たな脅威が迫っている事に三蔵は知らずにいたのだった。




  第伍章  完

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