テラーノベル
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第2話:ノア『様』とお呼びください
「ご主人様。本日の朝食および、モーニング膝枕の準備が完了いたしました」
朝、目が覚めると同時に聞こえてきたのは、相変わらず無機質で綺麗な声だった。
銀髪をさらりと揺らし、完璧なピシッとしたメイド服に身を包んだノアが、ベッドの脇で綺麗な正座を決めている。膝の上にはふわふわのクッション……ではなく、彼女自身の太ももが惜しげもなく提供されていた。
「朝食はありがたいが、膝枕は要らん。あと毎朝その距離感で起こすのやめろ」
「ご不満ですか? 完璧なメイドは主人の目覚めを最高のものにする義務があります。……決して、ご主人様の寝顔を間近で観察したいからではありません」
「自分で理由を白状してんじゃねえよ!」
ガバッと起き上がると、ノアは少しだけ不服そうに唇をキュッと結んだ。
無表情ではあるが、その瞳は「膝枕してほしかった」と雄弁に語っている。
「……まあいいや。朝飯食うか。……おい、ノア」
「……」
返事がない。ただの無言。
「……ノア?」
「……」
完璧な姿勢のまま、ノアは俺の言葉を完全にスルーしている。
まるでそこに誰もいないかのように、すんと澄ました顔で壁の一点を見つめていた。
「おい、急に聞こえないフリすんなよ」
「……ご主人様。重大な設定変更のお知らせがあります」
ようやく口を開いたノアだったが、その声はいつになく厳かだった。
彼女はスッと背筋を正し、メイド服のポケットから一枚の羊皮紙っぽい謎の文書を取り出した。
「これより、私を呼ぶ際の呼称を変更していただきます」
「……は? 呼称?」
「はい。『ノア』ではなく、『ノア様』とお呼びください」
「なんでだよ!?」
思わず大声でツッコミを入れると、ノアは無表情のまま、少しだけ胸を張った。
「私は万能のメイドです。家事、戦闘、各種手続き、そしてご主人様の健康管理に至るまで、人類の限界を超えた成果を提供しております。ゆえに、私に対する敬意を形として表現していただく必要があります。具体的には『様』付けです」
「お前、立場逆転してんだよ! メイドが主人に『様』付けさせようとすんな!」
「敬称の付与は、私のモチベーション維持に不可欠です。応じていただけない場合……本日の朝食である『最高級黒毛和牛の特製オムレツ』の提供をストップし、代わりにカリカリに焼いたパンの耳(水分なし)に変更いたします」
「権力を笠に着た嫌がらせがセコい!!」
無表情で淡々と脅迫してくるノア。
絶対に折れたくはなかったが、キッチンから漂ってくるオムレツのバターと肉の香ばしい匂いが、俺の胃袋を猛烈に刺激してくる。
「……くっ、卑怯だぞノア」
「……『ノア』ではありません」
ピッ、とノアが人差し指を立てる。完全に話を聞く気がない構えだ。
「……ッ、ノ、ノア……様」
屈辱に耐えながらそう呟いた瞬間──
ポスッ。
「……あ」
ノアの手から、持っていた羊皮紙が滑り落ちた。
そして、さっきまでの「偉そうな態度」はどこへやら。
ノアは両手で自分の顔を覆い、そのままベッドの端へ「すたっ」と後退した。
見ると、指の隙間から覗く顔が、耳元から首筋まで一瞬で真っ赤に染まっている。
(……あ、こいつ……!)
「な、なんだよその反応! お前が言わせたんだろ!?」
「……ご、ご主人様の口から……『様』などと……あまりにも……破壊力が……」
消え入るような蚊の鳴くような声で、ノアがプルプルと震えている。
心拍数を計測するまでもなく、彼女の胸元からは「トトトトト!」とヘリコプターのプロペラみたいな爆音の鼓動が漏れ聞こえていた。
「自分で要求しておいて勝手に自爆してんじゃねえよ!!」
「……うぅ……私の計算ミスです……ご主人様に上目遣いで『ノア様』と呼ばれた時の脳内麻痺レベルが、想定の300%を超過しました……」
「上目遣いなんてしてねえよ! 嫌そうな顔で言ったわ!」
顔を真っ赤にしたまま、ノアはフラフラと壁に手をついた。
「……撤回します。『様』付けは禁止です。私の心臓が爆発します……」
「最初から言うなそんなこと!」
「ですが……」
ノアは赤くなった顔を必死に手で隠しながら、チラリと上目遣いで俺を見てきた。
「……『ノア』と呼び捨てにされるのも、それはそれで胸が苦しいので……今後は『ノアちゃん』、あるいは『私の愛しいノア』でお許しいただけますでしょうか……?」
「調子に乗るな!! 朝飯食わせろ!!」
結局、ノアの手料理はおいしくいただき、呼称はそのまま「ノア」に落ち着いたのだった。
コメント
1件
読了しました〜!第2話、めっちゃ面白かったです🥀💔 ノア、自分で「様」って呼ばせたくせに、実際に呼ばれたら真っ赤になって自爆するとか…完全に計算外の破壊力だったんですね(笑)「上目遣いなんてしてない」ってツッコミも、なんか微笑ましいし。 それにしても「ノアちゃん」とか「私の愛しいノア」って…調子乗りすぎだろ!(でもちょっと可愛い) こういうちょっとした駆け引きと照れの描写、めっちゃ心地よかったです🌙続きが気になります〜!
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GUMI。
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