恋愛・ロマンス

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縦の糸をあなたに

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高校の入学式、出席番号が隣り合わせだった結(ゆい)と航(わたる)。「結」と「航」という、糸を繋ぎ、海を渡るような名前に縁を感じた二人は、図書委員として放課後の時間を共にするようになる 「なぜ めぐり逢うのかを、私たちは何も知らなかった」 不器用な二人は、図書室の古い椅子の「ささくれ」を隠すように、少しずつ心の距離を縮めていきます。やがて二人は、一本のミサンガを分け合うようにして恋人になりました。それは、一生解けないと信じていた「縦の糸と横の糸」の始まりでした。 卒業後、地元の短大に進み「誰かの居場所」を作りたいと願う結と、パイロットになる夢を追いかけ、遠くの街の大学へ進んだ航。 「どこにいたの」「遠い空の下」 物理的な距離は、二人の糸を次第に細く、鋭く引き伸ばしていきます。電話越しの声は、会えない寂しさで「ささくれ」立ち、些細な言葉で互いを傷つけてしまう日々。航が夢に近づくほど、結の隣には彼のいない空白が広がっていきます。 二人は必死に、震える手で思い出という「布」を織り直そうとしますが、環境の変化という大きな力に抗えなくなっていきます。 24歳。航はついに空へ羽ばたき、結は地元の福祉施設で働いていました。久しぶりに再会した二人は、自分たちが織りなしてきた布が、もう二人の体を温めるには小さすぎることに気づきます。 「縦の糸はあなた、横の糸は私。でも、もう同じ布にはなれないんだね」 結は、航の夢を邪魔したくないという愛ゆえに、航は結を自分の夢に縛り付けたくないという優しさゆえに、糸を切り離す決断をします。それは、憎しみ合う別れではなく、相手の人生を尊重するための、あまりにも切ない「仕合わせ」の選択でした。 30歳になった結。彼女は別の誰かと出会い、穏やかな家庭を築いています。ある日、空を見上げると、一筋の飛行機雲。その雲を作っているのは、かつて「縦の糸」として彼女の人生を支えた航でした 二人はもう二度と会うことはありません。けれど、結の子供が転んで泣いたとき、結がそっと当てるハンカチは、かつて航と過ごした時間が教えてくれた「誰かを温める強さ」でできていました。 「人は、それを仕合わせと呼びます」 結ばれることだけがゴールではない。人生という長い物語のなかで、一瞬でも重なり合い、お互いを強くした。その「めぐり逢い」を忘れずに生きていきます。
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