テラーノベル
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「寂しくなるね…」
いつになくしょんぼりとしたジェシーの声に、鞄を膝に乗せてやってきた慎太郎は苦笑を漏らす。
「そんな顔すんなよ! すぐ遊びに来るから」
今日は、慎太郎がクラリティを退居すると決めた日だった。
全員が寂しがっていたから、「暇なときには遊びに戻ってくる」という約束つきで。
玄関ホールにみんなが集まり、慎太郎がそれぞれの顔を見回す。
「ありがとな。すっごい楽しかったよ」
樹には手話をつけ、一人ひとりの目を見て伝えた。
「俺も」
一番に返事をしたのは高地だ。「お前がいてくれてよかった」
「ははっ、それは俺のセリフだって」
「また、あそべる?」
北斗のやや潤んだ瞳を受け、慎太郎は笑ってうなずく。
「うん。またみんなで遊ぼう。約束したもんね」
「いつでも来ていいからね」
ジェシーが、今度は笑って言った。
「…頑張って」
大我の励ましは、ごく短いものだった。でもその5文字に、ぎゅっと想いが詰まっているのを感じたのは慎太郎だけではない。
「うん。ありがとう、きょも」
そしてハンドリムを握って背を向けたとき、鞄の中のスマホが音を鳴らした。
何かと見てみれば、樹からのメールだった。
『なんかあったら相談しろよ』
樹もまた、独り立ちの準備に取り掛かっている。
慎太郎はただ笑顔で首肯する。言葉はいらない、そう思って。
「もしいつか全員が独立したらさ、一緒のとこに住もうよ。いわゆるシェアハウスってやつ?」
そんな慎太郎に、笑い声が溢れる。
「それじゃあ今と一緒じゃん!」とジェシー。
「そんなに俺らのこと好きなんだな、慎太郎」
高地が苦笑いする。
「だからさ。みんなも早く来いよ」
くるりと身を翻し、ドアをくぐっていく。もう一度振り返って手を振ると、4人が応えた。
荷物を積んだ車に乗り込めば、慎太郎を新たな風の吹くところへと連れていく。
「…行っちゃったね」
どこかしんみりとした北斗の声。
「大丈夫だよ」
高地がからりと励ます。
「樹もさ…行かないでよ」
聞こえないのをいいことに、ジェシーがつぶやく。
大我は黙ったまま、その肩をそっとたたいた。
『あいつなら、明日にでも遊びに来そうだよね』
樹の声ではないけど、まさに樹らしい言葉にジェシーも笑顔が弾ける。
「確かに!」
「待っとこうぜ、何日後に来るか」
高地も楽しそうだ。大我は白い歯を見せて笑う。
「ねーみんな、いっしょに電車であそぼー」
北斗のアンテナは、もうすでに遊びへと向かっている。
「いーねー。プラレール?」
ジェシーが電動車いすを動かして、北斗を追いかけた。
「こないだかったスペーシアX、走らせるんだ」
「買ったんだ?」
「そう!」
それに3人も続く。
「俺は何に乗らせてくれるの?」
「んー、こーちくんはしんかんせん」
「そうなんだぁ。速いやつだ」
大我が樹に向けて微笑み、気づいた樹が微笑み返す。
永遠に続くものは何もない。
けれどそれぞれの曲がりくねった道の交差点で、彼らは出会った。
性格も年齢も障がいも違うみんなが集うこのクラリティには、何ら変哲もない日常が流れている——。
20
雪村 麻耶 @ ペ ア 画 中
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終わり
コメント
1件
いやー、ついに最終話か…読んでてじーんときたわ。慎太郎の「そんなに俺らのこと好きなんだな」って高地の言葉とか、樹の『なんかあったら相談しろよ』メールとか、みんなの距離感がほんとリアルでさ。最後のプラレールの話で一気に日常に戻るところとか、余韻の残し方がすげえ好みだった。それぞれの道は違っても、交差点で出会った絆はずっとあるって感じがして、めっちゃ温かい気持ちになれた。micoさん、ありがとう!