テラーノベル
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それは、いつから始まったのか
誰も正確には覚えていない。
ただ、ある日を境に「異変」は静かに、
しかし確実に村々へ広がっていった。
最初はただの病だと思われていた。
高熱が出て、うなされて、言葉が荒くなる。
そんな風邪に似た症状だった。
だが、数日後。
額に、小さな“突起”が現れる。
それは骨のように硬く、 まるで内側から
押し出されるように生えてくるという。
「角が……生えた」
その言葉が出た時点で、すでに遅かった。
鬼化。
そう呼ばれるようになったその病は、
ただの病ではなかった。
発症した者の身体はゆっくりと変質していく。
皮膚は浅黒く硬くなり、瞳は濁り、
そして何より――“欲 ”が変わる。
人の肉を、強く求めるようになるのだ。
理性は残る者もいた。
だが多くは、飢えに支配されるようにして暴れ、姿を消した。
村は恐怖に包まれた。
戸は固く閉ざされ、
夜になると誰も外に出なくなった。
風の音さえ、誰かの足音に聞こえた。
やがて国は動いた。
鬼化した者を隔離し、
必要であれば――処理するための役職。
それが「鬼狩り」である。
最初は誰も名乗りたがらなかった。
人を斬るという行為は、
どれほど正当化されようと重い。
だが時間が経つにつれ、それは職務となり、
役割となり、そして“当たり前”になっていった。
鬼狩りは村を守る者。
鬼は排除すべき存在。
単純な図式だけが、冷たく整えられていった。
――その村にも、一人の鬼狩りがいた。
名は暁月 恒一。
若いながらも実力は群を抜いており、
任務の失敗は一度もない。
刃の振りは無駄がなく、冷静で、
そして迷いがなかった。
「○○なら安心だ」
「また一人で片付けたのか」
そんな声が、村のあちこちで聞こえる。
信頼。それは確かに彼の周囲にあった。
だが同時に、距離でもあった。
彼の仕事を理解できる者は少なく、
理解できるからこそ、近づきすぎない。
それが村の空気だった。
その日の朝も、
空は変わらず薄い灰色をしていた。
暁月は任務帰りの刀を手入れしていた。
血を吸ったはずの刃は、
既に何事もなかったかのように光を返している。
「……またか」
短く呟く。
鬼化した者の処理は、
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回数を重ねるほどに感情が薄れていく。
恐怖も、怒りも、悲しみも。
ただ“作業”に近づいていく。
それが正しいことだと、誰もが言う。
そうでなければ続かないからだ。
その時だった。
遠くから鐘の音が鳴った。
村の警鐘。
一度。二度。三度。
それは意味を持つ音だ。
――鬼、発生。
暁月は目を細めた。
刀を布で拭い、静かに立ち上がる。
「また仕事か」
そう言った声は、驚くほど淡々としていた。
だがその胸の奥で、
ほんのわずかに違う鼓動があったことを、
彼自身はまだ気づいていない。
鬼化は、すでに病ではなくなっていた。
それはこの時代そのものを、
少しずつ侵食していく“現象”になっていたのだ。
そしてその日。
暁月はまだ知らない。
その異変が、
自分の運命を大きく裂くことになることを。
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コメント
1件
読み終わったよ……🌙 "鬼化"って設定、めちゃくちゃ好み。ただの病じゃなくて人間の内側から変質していく感覚と、“鬼狩り”を正当化する村の空気が丁寧に紡がれてて、一気に引き込まれた。 暁月、冷静すぎて逆に怖い……でも最後の“違う鼓動”が気になる。何か変わる予感、私も感じてる。 続き、ちゃんと受け取りたい🥀