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電子の海。数多の情報が濁流のように流れるその幻想的な空間を漂う存在が居た。女神のような出で立ちをした美女、高性能AIのアリアである。
彼女は日課である地球のネットワークを巡回していた。地球では最高峰のプロテクトもまるではじめから存在しないかのように易々と通過し、更に痕跡すら残さない。今現在地球のネットワークは完全に彼女の支配下に置かれていると言っても過言でなかった。
そんな彼女ではあるが、今回は日課をこなしつつある情報を集めていた。ティナの介入による災害救助を全力でサポートしつつ、ティリスからの要望による情報収集を平行して行っていたが、今回発生した誘拐未遂事件はアリアとしても座視できるものではなかった。
ティナから要求される前に背後関係についての調査を開始。あらゆる場所から情報をかき集めていたが、ある不信なことに気づいた。
「国家の関与は無い?」
『正確には、一部署による暴走と判断できます。少なくとも上層部は計画の中止を通達していましたが』
「欲に目が眩んだアオムシが暴走したわけだ」
集まった人々と言葉を交わすティナとフェルから離れるためわざわざ空へ飛び上がったティリスは、アリアからの報告を受けて眉を顰めた。
一部署による暴走、こうなると背後にある国そのものに対する攻撃も大掛かりなものには出来なかった。
「で、関与してる国は?やっぱり中華?」
『いえ、中華圏に属する小国です』
「ふぅん……ご主人様に良いところを見せようとしたかな?」
『推測になりますが、そうなるかと』
「分かった、この件は纏めてて。結果的に実害はなかったし、地球人達が自分で解決したんだから。ティナちゃんが望まない限り、この件で報復はしないよ」
『畏まりました、マスターティリス』
アリアとの会話を切り上げてティリスは地上へと降りた。
ティナだよ。黒服の人たちは警察官さん達に連れられて行った。この国の法で罪に問うらしい。私が下手に口を挟むことじゃないし、お任せした。
私達を助けるために集まってくれた人達にお礼を言うと、笑いながら次も何かあったら直ぐに駆けつけると言ってくれた。
地球人にも色んな人が居る。私達に悪意を向ける人も居るけど、こうやって笑顔で受け入れてくれる人も大勢居る。その事が私の心を暖かくしてくれた。
皆さんと別れた後、私達はジャッキーさんが用意してくれた車で大使館へ向かった。てっきり合衆国の大使館へ行くかと思ってたけど、日本の大使館だった。
ジャッキーさんに聞いてみたら、合衆国の大使館は重要な避難場所にもなっていて、とても私達を迎える余裕がないらしい。
もちろんそんなことのために無理をしてもらう必要はないし、その必要もない。日本大使館も相応に忙しいらしいけど、現場から離れているみたいで合衆国大使館よりは前線基地としての役割が低い。
首都にある日本大使館へ到着した。前もって歓迎なんかは必要ないと伝えていたから、静かなものだ。物資は少しでも復興や救助活動に使ってほしいからね。
「お久しぶりです、ティナさん、フェルさん。それと、ティリスさん」
私達を乗せたリムジンは大使館の敷地内へ入って行く。正面玄関前で私達三人を朝霧さんが出迎えてくれた。
相変わらずプロレスラーみたいな体型になったままだけど、キッチリ着込んだスーツが眩しい。
「お久しぶりです、朝霧さん。お元気そうで良かった」
「ははは、体調は快調ですよ。まるで十代に若返ったように活力が溢れてきますね。疲れ知らずです」
私が提供した栄養ドリンクで超強化されちゃった朝霧さんだけど、良い面としては体調面の劇的な改善が見られている。
そのまま私達三人は大使館の貴賓室へ通された。あちこちにある日本の国旗、そして大使館員さん達が話す日本語がビシビシ私の心に刺さる。アリアには日本語だけは翻訳しなくて良いと伝えているから、生の声だよ。
正直懐かしさで泣きそうになってしまったのは秘密だ。
「先ずはご無事で何よりでした。そして、皆さんのお陰で大勢の命が救われました。地球人の一人として、改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
私達をソファーに座らせて、朝霧さんや大使館員さん達が深々と頭を下げた。私としては少しでもお役に立てたなら良かったと思ってるし、お礼を言われるほどでもないとは思っているけど、こう言う時は素直に受け取るべきだってばっちゃんに言われているからお礼を受け取った。
「ケラー室長もティナさん達が現地入りしたと聞いた時はとても心配していました。無理だけはしないでほしいと言付かっていますよ」
「あはは、ジョンさんにも心配をかけてしまいましたね」
ジョンさんは変わらず優しい人だ。私のことをよく理解してくれて、それでも心配してくれる。
ジョンさんが居るから私は何をされても地球人を信用できている。そう断言しても良いくらいには信頼してる。
するとフェルが口を開いた。公的な場で自分から喋るのは珍しい。それだけ朝霧さんにも気を許してるのかな?
「異星人対策室の皆さんはお元気ですか?」
「はい、元気ですよ。みんなフェルさんの魔法を見て驚いていましたよ。まさか雨を降らせるだけじゃなくて、瓦礫の山を消したり土砂崩れを防ぐとは」
フェルは森林火災を抑えるために大雨を降らせたけど、弊害としてあちこちで土砂崩れや河川の氾濫が発生しそうになった。
アリアから警告を受けたフェルは魔法で無理矢理塞き止めてしまった。相変わらずチートだ。
それからしばらく私達は朝霧さんや大使館員さん達と交流を深めた。外交を司る人達だけあってコミュニケーション能力も高い。人見知りな面があるフェルも笑顔だ。
ばっちゃんは朝霧さんを興味深そうに観察してる。私のやらかしの結果だから、正直ドキドキした。
そんな時、内密な話として朝霧さんから私だけ別室へ呼ばれた。何だろう?
「ティナさん達さえよければ明日の朝イチで出国できるように手配しますが、どうされますか?」
転移はあるけど、ばっちゃんやフェルは地球の乗り物に興味津々だ。甘えようと思う。
「私達は大丈夫ですよ。合衆国ですね」
ハリソンさん達に交易品を渡して、またのんびり観光地をめぐりたい。そう考えていたら。
「いえ……お三方さえよければ……日本へお越しになりませんか?」
予想外の言葉に、私は固まった。渇望しながらも色々あって後回しにしていた前世の故郷日本へ行く選択肢が生まれた。