テラーノベル
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これが世界の終わりか。
抗うすべなどないのに、人々はただ意味もなく泣き叫んでいる。
世界の崩壊は止まらない。空は赤く、風は強く、血のにおいがする。
ふと空を見上げると人影が見えた。
何かを叫んでいる。
『……』
あれ?もしかして、僕の方に向けて……?
『守れ』
「はっ」
またこの夢だ。最近よく見る世界の終わる夢。
疾風はベッドの上で体を起こし、額を抑えた。頭がズキズキと痛む。
最近、この夢はただでは済まなくなっていた。
空の赤さ、風の咆哮、血の匂い。そして、あの人影。『守れ』と言う言葉。
一体あの夢が何を示しているのか。そしてあの人影の発する『守れ』と言う言葉はなんなのか。
わからないまま、毎朝モヤモヤとした朝を迎える。
窓から差し込む朝日が部屋を明るく照らす。
今日はエーテルウィンド・アカデミーの入学式。
創立から今年で200年の、由緒正しき名門校で、入学できるものは数少ないと言われている。
疾風はそんな所に入学する気はなかった。
しかし、親に家から近いからと念押しされて、渋々試験を受けた。
すると見事に受かってしまったのだ。
疾風は鏡の前に立ち、身なりを整える。鏡に映る自分は、黒髪を適当に伸ばした、気ままな顔立ち。
17歳の普通の子供だ。……少なくともそう思いたい。寝不足のせいで目が赤くなっている。
「疾風、起きてるの?朝ごはんできてるわよ。テーブルにあるから食べなさい。」
母親の声が階下から響く。魔導士の彼女は、日常魔法の達人だ。
今日の朝ごはんもきっと魔法で作ったものだろう。
疾風は階段を降り、テーブルに着く。
皿には魔法で作られた完璧な形のピザトーストと卵焼き。
ピザトーストは疾風の子供の頃からの大好物だ。
「いただきます。」
母親は心配げに疾風の顔を覗き込む。
「また夢?最近、寝不足みたいね。学校で相談してみたら?魔法の専門医がいるはずよ。」
「いや、ただの悪夢だよ。予知夢とか覇天者とか。……くだらない。」
覇天者。全ての魔法を使えると言われ、天候までも操ると言う。
乾いた大地に雨を降らせ、時には雲を晴らす。
覇天者は神として崇められていた。世界に数人しかいないと言われていて、政府が血眼で探しているらしい。
くだらない。
疾風はフォークで卵を突き刺し、機械的に頬張る。
街までの道は、馬車で滑るように進む。外は活気付いている。
空飛ぶ宅配人、自動で働く街頭、華やかな商店街。
ただ、疾風は知っていた。あの華やかな商店街に隠れて、
無力者スラムというものが存在していることを。
疾風の先祖は元々あそこで暮らしていた。魔法なしで生き抜く底辺の連中。
父が這い上がったおかげで疾風はここにいるが、魔法依存のこの社会。いつか崩れてしまうのではないか。
夢の赤い空が、ふと頭をよぎる。
アカデミーの門は荘厳だ。高らかに門が開き、新入生たちがぞろぞろと中に入る。
疾風は列の後ろで欠伸をした。
式典ホールは広大で、天井に魔法の星空が浮かぶ。
やがて、校長の長々とした演説が始まった。
「我々はエーテルの継承者……覇天者の遺産を胸に、未来を切り開く……」
…………。
疾風は後列の席ですぐに意識を飛ばす。
寝不足の体がパイプ椅子に沈む。夢の残像がちらつく。
赤い空、人影の叫び。校長の声が遠く、生徒の席がうるさい。
時々、拍手で目が覚めるがすぐまた寝落ち。
式のほとんどを寝たまま過ごす。
「次はクラス分けの発表です。」
ようやく式が終わり、司会者の声で疾風はハッと目覚めた。首が痛い。
みんながざわつき、リストを見る。
疾風の名前を探す。……あった、Aクラスだ。
出口に新入生たちが群がる中、疾風はぼんやりと歩く。
頭痛がじんわりと残っている。
Aクラスのオリエンテーションは別棟の講堂で行われた。
教師が自己紹介を促す。
疾風の番が来た。疾風は立ち上がり、
「疾風です。風魔法が少し。よろしくお願いします。」
短く済ませて座る。
周りの生徒たちは熱心だ。皆魔法に対する思いを熱く語っている。
疾風はまた欠伸をした。……がしかし、気になる人物がいた。
「将です、1年間よろしくお願いします」
「将」と言う名前のヤツ。無表情で、後ろの席で本を読んでいる。
疾風はその顔にどこか既視感を覚えた。
オリエンテーション後は各自寮の自室へ向かう。
疾風は家から通うつもりだったが、校則で新入生は全員寮で生活しなければならなかった。
疾風は相部屋の相手の名前を見て眉をひそめた。将。あいつだ。
寮の廊下を歩き、部屋の扉を開ける。
すでに荷物が片付いた少年が、窓辺に座っていた。
茶髪で……美少年、といっていいほど整った顔立ちをしている。
灰色のの瞳が、ゆっくり疾風に向く。
「僕が疾風。相部屋、よろしくね。……将だっけ?」
将は言葉少なに頷くだけ。空気が重い。
疾風はベッドに座り、適当に話しかける。
「入学式、校長の話長かったよね。僕、うっかり寝ちゃった」
将の目が僅かに揺れる。
「…僕も、だよ。退屈だった。」
意外な返事。声は低く、抑揚がない。でも、そこに微かな温かみがある。
荷物を適当に解きながら、雑談が続く。
夜が更け、ベッドに横になるとようやく眠気が来る。
明日から本格的な講義が始まる。
……めんどくさいな。
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