テラーノベル
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次の日の夜10時過ぎ。
撮影も編集もない珍しくゆるい日で、
リビングの空気は自然と落ち着いていた。
ひろとじゃぱぱがいつも通りリビングの大画面でゲームをしながら騒いでいて、
ほかのメンバーもつくえに広げられたお菓子をつまみながらゲームの様子を見ていて、たまに盛り上がる。
その中で、
えととうりは、自然な流れで同じソファの端に座っていた。
あくまで“特別”ではない距離。
でも
誰かが深読みしたら、気づくかもしれない距離。
えとが何気なくうりに渡したコップに指が触れる。
うりは微かに肩を揺らして笑った。
その小さな笑顔が、
ゆあんの視界に入る。
…まただ。
胸に小さく針が刺さったような感覚。
笑っているふたりが嫌なわけじゃない。
嫌いではない。
むしろ、メンバー同士仲がいいのはいいことだ。
でも、心のどこかがざわついて、
まるで喉の奥に熱が詰まったようになる。
気のせいで済ませるには、
そのふたりの間の空気の柔らかさがあまりにも自然だった。
ゆあんはスマホをいじるふりをした。
けれど視線は、画面よりも二人へ向いてしまう。
「うり、それ貸して」
えとが伸ばした手が、
自然にうりの腰の近くに触れた。
一瞬のこと。
何でもないこと。
けれど、
ゆあんの呼吸がわずかに止まる。
やっぱふたりとも距離近いよな。…
うりはその距離に慣れてるようで、
むしろ安心したように見えた。
ゆあんの胸を、
小さな焦りの波が撫でていく。
えとさん。 その距離俺には向けてくれないんだね。
そう考えてしまう自分が嫌だった。
のあの手作りのデザートを食べようとなりダイニングの机や、リビングのソファーでそれぞれ食べていた。
えとが何気なく、うりの髪に付いたクリームを指で取った。
「うりクリームついてる」
大人数でざわざわとしているシェアハウスでそれに気づく人は、ほぼいなかった。
ただ
その瞬間。
ゆあんの表情を、
ひろが見た。
ひろの笑顔が一度だけ止まり、
すぐにいつもの顔に戻る。
もしかしてゆあんくん…。
ひろは、気づいてしまった。
夜更け、
みんなが部屋に散ったあと。
階段下の暗がりで、
ゆあんはスマホを握ったまま膝を抱えていた。
そこへ そっと声がかかった。
「ゆあんくん隠すの下手だね」
見上げると、ひろくんがいた。
ゆあんは笑おうとしたが、
口角がうまく上がらなかった。
「…なんのこと?」
「えとさん、でしょ」
その言葉が直球すぎて、
ゆあんの喉がひりつく。
「…別に好きとかじゃないけどさ」
「じゃあなに?」
どうしても返す言葉が見つからなくて、少し沈黙が続いた。
ゆあんくんは視線をそらした。
「自分でもわかんない、
けど2人の距離感が近い気がしてでも俺がどうこう言うことじゃないし、まずふたりの関係もよくわかんないし… 」
ひろは隣に腰を下ろす。
「うりに嫉妬した?」
ゆあんは軽く息を呑んだ。
否定したい。
認めたくない。
でも、嘘が喉につかえて言えなかった。
「ちょっと、 ちょっとだけ。
だってえとさんは俺のものでもないし、
そもそも メンバーで、そういうんじゃ、なくて、」
「ものじゃなくても、好きにはなるよ」
ひろの声は優しく、
責める気配がひとつもなかった。
ゆあんは膝に顔をうずめた。
「正直、えとさんをすきって気持ちを認めたらもっときつくなる気がしてて」
「でも自分に正直でいれないことだってつらいでしょ? 」
「うん、気づかれたくないのに。 でも気づいてほしい気もする。 でもやっぱ怖い」
少し笑って、
ゆあんの頭を軽く撫でる。グループの最年少であるゆあんくんがこういう悩みをもって、つらそうにしているのがこっちも見ていて耐えられなかった。
「ゆあんくんの今日の表情見るまでさ、うりえとの距離とか考えたこと無かったし、ふたりの関係がどうかはわからないけどさ、俺はいつでも聞くからなんかあったら話しなね 」
その声に、
ゆあんの肩が少し震えた。
「うん、ありがとう」
あたたかい空気の中にいた。
ふたりだけの部屋で、
うりがえとの肩にもたれながら小さな声で話し出す。
「今日ゆあんくんちょっと変だったよね?」
えとはごく自然に答える。
「寝不足とか?しょっちゅう夜更かししてるっぽいってたっつんいってた 」
「そっか。 でもなんだろ
なんか、気になる」
えとは気づかない。
だけど、うりは気づきかけている。
ゆあんの視線が、
えとへ向けたときだけ変わることに。
それを感じ取れるのは
えとの一番近くにいるうりだけだった。
うりはえとの胸に額を押しつけて、小さく息を吐いた。
「…なんか、嫌だなぁ」
その言葉の意味を、
えとは本気でわかっていなかった。
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初コメ失礼します😖🩷 🎸×🍫ペアとっても大好きなので書いて下さりほんとに嬉しいです🩷😻 楽しんで読ませていただいてます😖😖