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放課後。
「今日も来たんやな」
緋八マナが軽く手を上げると、
「うん、会いたかったし」
伊波ライは当たり前みたいにそう言った。
「……そういうの、さらっと言うなや」
「本当のことだよ?」
にこっと笑う。
——ほんま、ずるい。
⸻
その日は、いつも通り一緒に過ごして。
勉強して、少し寄り道して。
気づけば、夕焼けの帰り道。
「今日、ありがとな」
「こっちこそ」
並んで歩く距離。
少し触れそうで、触れない。
でも——
今日は、なんか違う。
やけに意識してしまう。
⸻
「マナ」
「ん?」
名前を呼ばれて、足を止める。
ライも立ち止まって、こっちを見る。
少しだけ、真剣な顔。
「……どうしたん」
「ちょっと、いい?」
「ええけど」
そう言った瞬間。
一歩、近づかれる。
「……近いって」
「うん」
否定せえへんのかい。
でも、離れる様子もない。
それどころか——
「マナってさ」
「なんや」
「優しいよね」
「……普通やろ」
「ううん」
ゆっくり、距離が縮まる。
視線が合う。
逸らせない。
「ほんと、好き」
その一言で。
頭が真っ白になった。
⸻
「……っ」
何か言おうとした瞬間。
そっと、頬に触れられる。
優しい手。
逃げる理由なんて、なかった。
「マナ」
名前を呼ばれる。
低くて、柔らかい声。
「キス、していい?」
「……っ」
心臓がうるさい。
でも。
嫌なんて、思うわけない。
むしろ——
ずっと、どこかで意識してた。
「……ええで」
小さく答える。
それが聞こえたのか、ライが少しだけ笑った。
⸻
ゆっくり。
本当にゆっくり、顔が近づいてくる。
逃げる時間なんて、いくらでもあった。
でも、動けなかった。
目を閉じる。
その瞬間。
やわらかい感触が、触れた。
「……っ」
ほんの一瞬。
触れるだけのキス。
でも。
それだけで、全部持っていかれる。
⸻
離れたあと。
少しの沈黙。
「……どうやった?」
先に口を開いたのはマナだった。
声が、少しだけかすれる。
「すごくよかった」
素直すぎる返事。
「……そか」
照れ隠しに、少し顔を逸らす。
でも。
次の瞬間。
「もう一回、いい?」
「……は?」
今度は余裕なんかない。
「だめ?」
少しだけ距離を詰めてくる。
その顔が近くて。
断れるわけがない。
「……好きにせえや」
ほぼ負けやった。
⸻
今度は、少しだけ長く。
触れて。
ほんの少しだけ、離れて。
また触れる。
さっきより、ちゃんと“キスしてる”ってわかる。
「……っ」
息が、かかる。
距離が、近すぎる。
でも、嫌やない。
むしろ——
離れたくない。
「マナ」
「……なんや」
「顔、赤い」
「うるさいわ」
笑われる。
でも、さっきと違って。
ちゃんと目を見れた。
⸻
「……俺も、好きやで」
今度は、ちゃんと伝える。
ライは少し驚いたあと。
すごく嬉しそうに笑った。
「うん、知ってる」
「なんやそれ」
「顔に出てる」
「出てへんわ!」
⸻
帰り道。
さっきまでと同じはずなのに。
少しだけ、距離が変わった。
自然に、手が触れる。
そのまま、絡められる指。
「……なあ」
「うん?」
「今日のこと、忘れへんわ」
「俺も」
当たり前みたいに返される。
⸻
夕焼けの中。
繋いだ手。
さっきの感触。
全部が、ちゃんと残ってる。
——これから、もっと増えていくんやろな。
そう思うと。
少し照れくさくて。
でも、それ以上に嬉しかった。