テラーノベル
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トモエが部屋に入ると、窓には真新しいカーテンが掛かっていて、部屋の隅には簡素なベッド、その上に布団が畳んであった。
それ以外に家具らしい物は何もなく、六畳ほどの広さの板張りの床の部屋はガランとして見えた。持って来た大ぶりのキャリーケースを箪笥代わりにする事にして、トモエはラフな部屋着に着替えた。
窓のすぐ外には川の水面が見えた。スマホの地図アプリで自分の今いる場所を確認してトモエは独り言を言った。
「という事は、これが神田川か。初めて見た」
荷物の整理をしていると、部屋のドアをノックする音がした。トモエがドアを開けると、さっきと同じ、ツナギの作業服姿のトワノがいた。
「トモエちゃん、ヒミコおねえさまが呼んでるよ。あたしも一緒に行くから」
もう一時間経ったのか、と思ったトモエはすぐに部屋を出た。さっきトワノから渡されたあの古めかしい鍵を胸のポケットに入れて廊下に出てドアを閉めると、「カチャリ」という音がしてドアが自動的にロックされた。
トワノがトモエに言った。
「あ、そうそう。みんなの居室のドアは全部オートロックだから、部屋から出る時はその鍵忘れないで持って出るんだよ。万一忘れた時はあたしに言って」
二人で一階に降りると、ヒミコが手招きした。一旦事務所の外へ出てエレベーターの前に行く。中に入ると、ヒミコが銀色の小さな鍵を取り出した。
トモエはエレベーターのボタンが並ぶパネルを見た。五階までのボタンがあった。何階に行くんだろうか?とトモエが思っていると、ヒミコはボタンの並びの下にある、小さな鍵穴に鍵を差し込んで回した。
エレベーターの箱が動き始めた。トモエは「えっ!」と思わず声を上げた。エレベーターの箱が、上にではなく、下に向かって動き始めたからだ。
トモエは目をこらしてもう一度エレベーターの階数表示を見た。どこにも地下階の表示は無かった。トモエが呆気に取られている間にエレベーターの箱は10秒ほど降下してドアが開いた。
ヒミコの後に続いて外へ出ると、床も壁も天井も鉛色の金属版で覆われた、バレーボールコート一面ほどの広さがある空間に出た。
「あ、あの、何ですか、ここは?」
トモエが上ずった声でヒミコに訊いた。ヒミコは振り返りもせず答えた。
「東京地下鉄道の万世橋駅や。正確にはその跡地やな。駅自体は戦前に廃止されてますんや。その空間の一部をウチらが極秘に使わせてもろうとる、そういう訳ですわ」
トワノがこれも得意そうな顔でトモエに言った。
「ま、あたしたちホワイト・リズムの秘密基地ってとこだね。あ、他のメンバーもう先に来てたのか」
その空間の奥にトモエが目を凝らすと、あのヤクザの邸宅での戦闘の時出会った、ウルハ、マユキ、イオン、ナミネと呼ばれていた四人が思い思いの姿勢で壁に背をもたれさせて座っていた。
コメント
1件
わあ、第16話、一気に読み終えました…!地下の秘密基地、最高に胸が躍りますね。トモエちゃんが神田川を「初めて見た」とつぶやくシーン、東京の片隅にこんな隠された場所があるんだなあって、私も一緒に覗き込む気持ちになりました。それに、オートロックの鍵のくだりとか、トワノさんが得意げに教えてくれるのが可愛くて…。廃駅の重厚な空気感と、日常の軽やかなやりとりのバランスが絶妙でした。次の展開が気になります〜!