テラーノベル
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トモエがヒミコとトワノの後に続いて奥に進むと、畳が敷き詰められた広いスペースがあった。その畳の上に座っている四人のうち、三人には見覚えがあった。
先日人身売買を企んでいたヤクザの集団にヒミコたちが襲撃を行った時、帰りの車に乗り込んで来た女たちだった。髪をツインテールに結び、垂れた毛先を縦ロールに巻き、優雅なワンピースに身を包んでいるマユキとだけは、これが初対面だった。
トワノと並んで畳のスペースの奥に座りながら、トモエはウルハの服装に気が付いて目を凝らした。普段男装しているウルハは、奇妙な服を身に付けていた。
最初は着物かと思ったが、前が開いていないゆったりとした上着のような物を上半身にまとい、下は赤い袴のような物を着ていた。頭の上には、妙に縦に長い帽子のような物を被っていた。
ヒミコが全員を見渡せる位置に立ち、トモエに向けて言った。
「さて、トモエ。訊きたい事が山ほどあるやろ。まとめて説明したるさかい、言うてみなはれ」
確かに質問した事は山ほどあった。トモエは何から訊くべきか迷い、まず頭に浮かんだ事から口にした。
「そもそも、あなたたちは何者なんですか? 日本刀やいろんな武器を使ってヤクザを全滅させるなんて、普通じゃないですよね? ひょっとして現代の忍者?」
ヒミコは能面のような無表情な顔のまま答えた。
「ウチらは蔭(おん)の白拍子(しらびょうし)や。白拍子って何か知ってはる?」
トモエはしばらく考えて首を横に振った。それを見たヒミコが言葉を続けた。
「白拍子言うんは、平安時代に謡(うたい)と舞を披露する事を生業にしとった女の芸人の一種や。見た目がようて芸が達者な者は、当時の貴族の家に招かれて芸を披露する事もあった。ま、見た方が早いやろ。ウルハ、見せてやりいや」
ウルハが立ち上がって袖の袂から黒っぽい扇を取り出した。その姿を見てトモエが何かを思い出したという口調で言った。
「前に日本史の教科書か何かで見た事あるような……平安時代の貴族の服ですか、それ?」
ウルハがにやりと笑って答えた。
「狩衣ってやつだよ。平安時代の貴族の男の外出着だ。白拍子はな、人前で芸を披露する時にはこういう格好で男装して舞ってたんだ。今で言うイケメン女子ってとこだな。じゃあ、アネゴ、謡を頼むぜ」
ヒミコが立ったまま、独特な抑揚をつけて詩のような一節を朗々と吟じ始めた。
「仏も昔は凡夫なり……われらも終(つい)には仏なり……」
それに合わせてウルハが扇を開いて前に左右にゆっくりと動き、力強い舞を演じた。ヒミコの声がさらに流れた。
「いづれも仏性(ぶっしょう)倶(ぐ)せる身を……へだつるのみこそ……悲しけれ~」
ウルハが舞を終えて胡坐座りに戻り、トモエに向かって得意げな顔で言った。
「まあ、こんな感じだ」
トモエが感心した顔で手を数回叩き、しかしいぶかし気な表情に戻って言った。
「でも、あの時ヒミコさんは自分たちはスパイで、殺し屋でもあると言ってませんでしたか? 白拍子が芸人なら、どういう関係があるんですか?」
それにはヒミコが答えた。
「今のは表の世界の、普通の白拍子の話や。うちらは蔭の白拍子。言うなれば、影の世界、裏の世界の白拍子やな」
コメント
1件
うわ、今回めっちゃアツい回だった…!やっとトモエがヒミコたちの正体に迫れたね。「蔭の白拍子」って呼び方がもうダークでかっこよすぎる🥀 ウルハの狩衣姿とヒミコの謡(うたい)のシーン、脳裏に浮かぶみたいに鮮やかで鳥肌立ったよ。表の芸能が裏では“影の仕事”に繋がってるって設定、重くて美しくて…すごく好き。 次が気になって仕方ない、続き読みたいな🤍