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僕は田舎の農家の家に生まれた。兄とは四つ違いで、両親も含めて、僕は家族みんなのことが好きだった。
特に兄のことは、物心ついたころからずっと見ていた。兄はあまり感情を表に出さない人で、何を考えているのか分かりにくかったけれど、僕にはそれが落ち着いて見えた。
小さいころから、兄はよく我慢していた。
親に何か言われても、僕が優先されても、反論することはほとんどなかった。「お兄ちゃんなんだから」と言われるたび、兄は軽くうなずくだけだった。その姿が、なぜかずっと頭に残っている。
僕は兄の後をついて回る子どもだった。「お兄ちゃん」と呼べば、兄は止まってくれた。それだけで安心できた。
今思えば、あれは迷惑だったかもしれない。でも当時の僕には、兄のそばにいる理由がそれしかなかった。
兄が高校を卒業して家を出た日、何も言わずに背中を見送った。
連絡先は知っていた。でも、連絡は来なかったし、僕からもしなかった。兄は、帰ってこないと思った。
それから少しずつ、兄が「普通の場所」にいないのだと分かってきた。はっきり教えられたわけじゃない。ただ、言葉の端々や、避けられている感じで察した。
兄は、光の側にはいない。そう思った。
それでも嫌いにはならなかった。むしろ、放っておけなくなった。
だから、高校を卒業したあと、僕はその機関に入った。危険な場所だと分かっていたし、一度入れば簡単には抜けられないことも聞かされていた。それでも選んだ。兄がいる場所に行くには、それしかなかった。
僕の本質は光だと思う。
人を傷つけたいと思ったこともないし、誰かを騙すのも得意じゃない。でも、それでもいいと思った。兄が一人でいるくらいなら、闇に足を踏み入れるほうがましだった。
割り振られた仕事は、毒物や違法ドラッグの原料となる植物の栽培だった。
正直、向いていないと思った。でも、やってみると手は止まらなかった。水やりの量も、土の配合も、間引きのタイミングも、自然と分かった。
育つ。よく育つ。
それが何に使われるのかを考えなければ、ただの作業だった。考えなければ、楽だった。
感情を挟まなければ、続けられた。
兄がどんな仕事をしているのかは知らない。知ろうとも思わなかった。
同じ場所にいる。それだけで十分だった。
兄は、僕がここにいる理由に気づいているだろうか。
たぶん、気づいている。でも、気づかないふりをしている気がする。あの人は、そういう人だ。
僕は、兄を助けたいわけじゃない。救いたいとも言えない。
ただ、同じ場所に立っていたかった。
もし会えるなら、聞きたい。どうしてここに来たのか。
そして、もし許されるなら言いたい。
それでも、僕は兄の弟でいたかった。