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フィーサの言葉通り、まずはシーニャを攻撃に向かわせた。複数の魔術師らしき連中がどこからともなく呼び出し、従わせているのはウルフ族のようだ。
四つ足ではなく二足で立っているので恐らく獣人タイプだと思われる。ウルフ族はボスの命令を待っているのか、こちらに向かって来る気配はない。シーニャは奴らが動きを見せるよりも先にすでに標的を捉えている。
「ウルフなんかにやられるわけが無いのだ!! ウニャッ!」
離れた所から見た感じでは連中が従えている獣は特性を持たないタイプだ。単なる近接物理攻撃ならば、シーニャには傷一つ付けられないだろう。
「ウガウゥッ!」
温泉効果は不明だが、シーニャの爪による攻撃力が高まっているようだ。俊敏な動きを見せつつも複数の獣からの反撃に対し、軽やかなステップで余裕でかわし続けているのが分かる。
命令の無い獣たちはシーニャの動きに戸惑い、なすすべもない状態だ。連中と同じ数の獣は黙って彼女の攻撃を受けている。次第に獣は一体また一体と、力なく倒れていく。
「……こんなもんなのだ? 全く手強さを感じないのだ!」
強さのレベルがまるで違いすぎるうえ、奴らは獣に命令を出すどころか倒されても何の動きも見せてこない。
おれはすかさずシーニャに指示を出す。
「シーニャ! 残り一体だぞ。全て倒すんだ!」
「ウニャッ!!」
連中が何を考えているかは分からないが、相手にもならない獣を出しても無駄だと分からせるため全て倒させることにした。
だが、
「何か様子がおかしい……」
「……イスティさま。気付いたなの?」
「残り一体だったはずだよな?」
「はぇ? あの狼って、さっきまで倒れていませんでしたっけ」
ルティでも気づいたか。
「そうだよな……。ここから見ていても気付くよな」
「肝心のシーニャが気付いているかなの。もしくは一度、呼び戻した方がいいなの!」
シーニャが戦っているウルフ族は魔術師と同様に五体ほどいた。その内の四体はすでに倒し、残り一体にとどめを刺す寸前だった。
ところがどういうわけか、地面に倒れていたウルフ族が次々と起き上がり始めている。全滅させる寸前だったにもかかわらず、何事もなかったかのように復活を遂げているようだ。
「ウゥ!? な、何なのだ!? 倒したのにまた起き上がってくるのだ?」
あの様子では何が起きているのか、シーニャには理解出来ていない。ずっとウルフ族だけに注目していたが、奴らの動きに注視するとやはり何かをしているように見える。
「イスティさま。わらわの知識が正しければ、あの者たちはネクロマンサー《屍術師》だと思うなの!」
「灰色の連中が? 確か死した者を蘇らせる術者だったか?」
「で、でもでも……おかしいなの」
「何がおかしいんだ?」
フィーサの知識は、九百年もの間に世界を知り尽くしたところからきている。彼女が発したネクロマンサーは、確かに初めて聞いた名だ。
しかし、自分が発した言葉に疑問を持っているようだが?
「――アック様っ! シーニャが息を切らせています! わたし、今すぐ連れ戻して来ますです」
そうこうしているうちに、シーニャが劣勢に変わっていたらしくルティが飛び出していた。確かにあれだけ余裕だった彼女の動きが、鈍くなってきているのが見て取れる。
ルティの状況判断は意外なものだったが、あいつならシーニャを連れ戻せるはずだ。
「それで、フィーサ。どういう意味――」
鞘《さや》に収まっていたフィーサだったが、人化しているうえ青ざめた顔があった。まるであり得ないことが起きているといわんばかりの身震いを起こしている。
「ネクロマンサーはすでに存在しないはず……それなのに、灰色の連中がしていることは紛れもなく……」
「存在しないってのは、術をかける者がってことか?」
「……おかしい、おかしすぎるよ」
確かに聞いたことも無いが、それなら何故連中がそれを使っているのか。そういうことなら直接聞いてみるしか無いだろう。シーニャを疲れさせるまで獣を蘇らせ続けたのも気に入らないし、おれが示すしか無い。
「ゼハーゼハー……、アック様っ! シーニャを連れ戻しましたっ!」
「ウゥゥニャ……わけが分からないのだ……」
「ルティ、よくやった! シーニャもな」
「はいっっ! わたしだってやる時はやれるんですよ~!」
「どうするのだ? アック」
シーニャを戦わせたのはおれだ。おれが出向くしかない。
「みんなはここで休んでていいぞ。おれが奴らの話を聞いてくるから」
フィーサの怯えと震えは、恐怖によるものと不信によるもの。どうなっているか不明だが、まずはウルフ族の蘇らせをかき消すことにする。